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【祝10000PV突破】何故現代兵器をファンタジー世界へ持ち込んではならないのか?  作者: ウォルギリウス
第9章

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幕間─国防軍は踊り、されど進まず

高地の国は踊る

高地の国、その広大な演習場を見下ろす観閲台では君塚悠里誘拐の報に接して以来、朝から苛立ちが頂点に達している女帝エリカがソビエト侵攻を想定した軍事演習だと言うのに膝を激しく揺らしていた。そのせいで彼女の豊満な胸も上下に激しく揺らされていた。決していやらしい意味ではなく、単純に貧乏ゆすりが凄まじい速度で行われている為である。

地響きで床が軋み近衛兵や他の幕僚がその殺気と振動で全く近寄れないような惨状だ。


「うぅ……陛下、どうか気をお鎮めくださっ、ぐおっ」

「そうね伍長。もっとしっかり四つん這いになりなさい。背中が平らじゃないわよ、いつから貴方は怒り気味の猫ちゃんに成ったのかしら?」

「ぎうっ…も、申し訳ございま、はうっ」


エリカの『椅子』にされているアドルフ・ヒトラー伍長も女帝の容赦のない重みと貧乏ゆすりの振動に苦しそうにうめき声を上げて必死に耐えているが、顔はすっかり青褪めていて彼の腰も既に悲鳴を上げ音を立てて砕け散りそうな勢いである。


眼下で繰り広げられている演習は空砲ではなく実弾を伴うもので非常に実戦的かつ大規模なものであり、最新鋭のG95A1アサルトライフルを携えた歩兵達はIdz-ES(未来歩兵システム)で完璧にネットワーク化され隊ごとに行動して秩序正しく敵の模擬陣地へ取り付いている。そして後方からは無敵のレオパルト2A8主力戦車が圧倒的な120mm滑腔砲の火力支援を行なっている。

航空支援も苛烈であり上空からトーネードIDSが精密爆撃とクラスター爆弾を散布してそのまま勢い良く逃げ去るように飛び去っていく。


「へ、陛下。少しよろしいでしょうか?」

「何? エーリヒ・レーダー提督。私もそんなに暇じゃないし、苛立ってるから手短にね」


踏み台にされている前世の最高指導者は冷や汗をかいており、この提督が何を言い出すのかそれが女帝の逆鱗に触れないか気が気でない様子だがレーダーにはそれよりも今の国家元首へ先に述べておきたい事が有る。


「陛下の思慮深いご配慮により我が海軍(クリークスマリーネ)の提督としてオスカー・クメッツを上級大将の任に就かせていただいた件につきまして、大変感謝しており海軍軍人一同心より御礼申し上げます」

「そんな事? まあフリゲート艦だけであんな数だし、アンタ一人で率いるよりは二人の方が分担して動きやすいでしょうから昇任させただけよ」

「それについてなのですが、艦艇が増えた分今港湾施設が不足気味でして……ですので」

「増やせって? ノイエキール軍港だけではもう足りないの? 全く欲張りなことね。あんなに大規模な軍港1個だけで本来足りてたのに時は残酷なものね、まさか……はぁ……悠里はどっか行っちゃったし足取り掴めたけどすごく面倒くさい事に成ったし、どうしてこうも最近の私は辛い場面が多くなるのかしら」


女帝はつい思い出したくなくなる悪夢のような「高地の国・軍首脳部の喧騒の会議」を思い出して頭痛が酷くなり、この『椅子』になっている男の強権的な独裁や演説といった「そういう面での統率力」は優秀だったのだと改めて考えさせられていた。


例えば陸軍では主力小銃更新の話題に続いて現在汎用機関銃として配備・使用される『MG3』の処遇についてまた大揉めに揉めた。


IdZ-ESのシステムを導入するに伴い早速銃火器を更新してさらなる戦力増強を図るための会議が催されたが、エリカはこれを「本人的には失敗だった」と後悔している。


ゲルト・フォン・ルントシュテットやヴィルヘルム・フォン・レープら『国防軍守旧派』は「MG3は至高の兵器である! 古いMG3を新品のMG3で更新せよ!」と世迷言のようなアナクロ発言を呈して譲らず、一方でエルヴィン・ロンメルのような『革新派』は「近代戦には近代の兵器が必要だ。重量と反動を抑えた最新のMG5の完全導入を!」と声高に主張する。


陸軍の自走砲についても従来の重装甲な『PzH2000自走榴弾砲』のままでよしとする者や機動戦の原則に則り、装輪式で撃ち放ち能力に優れる『RCH 155自走榴弾砲』への全部隊更新を主張する者など各々の派閥が思想や信条を激しく主張し軍の上層部は常に混乱と議論の泥沼に陥っている。


そこへ旧ブルグント国の鹵獲した再利用装備や再雇用した将軍を雇い入れた結果、『国防軍派』、『武装親衛隊派』、『連邦軍派』、そして『国家人民軍派』という最悪の四つ巴の陸軍派閥が誕生してしまったのだ。

そして連邦軍派と国家人民軍派は「ナチス式敬礼の即時廃止」を声高に主張し武装親衛隊派と激しく対立していたし、プロイセン伝統の「ガチョウ足行進」についても連邦軍派から「兵士達へ強いる時代錯誤の無駄な疲労である」と強い反対が起きている。


空軍では総監のヘルマン・ゲーリングが更に実権を削がれ(ほぼお飾りにされ)、その下に国防軍派と連邦軍派に分かれてやはり大規模な政治的抗争が発生している。実務を担うローベルト・フォン・グライム元帥はエリカへの絶対の忠誠を誓っているが、他の将官はそれぞれヨーゼフ・カムフーバー将軍やヨハンネス・シュタインホフ将軍、ゲルハルト・バルクホルン将軍が『連邦軍派』として様々な近代航空ドクトリンの点で反発を起こしていて国防軍派は対応に苦慮している。


海軍は比較的落ち着いていて少なくともレーダー提督を元帥として任命している以外は何も特徴はなく、強いて言うなら旧東ドイツの『国家人民軍派将校士官』が加入し旧ソ連系兵器の運用ノウハウを国防軍へともたらしたこと程度だろうか。


「……ったく、何なのよっ!! どうして! 私が偉いのに!! 皆仲良く!! 私の指示に反対したり反乱(派閥争い)してくるのよ!!! 大体今目の前にあんなあからさまに私達へ喧嘩売ってる勢力から悠里を救い出したら私が久し振りに彼を独占出来るのに〜!!!」

「あくっ、こ、腰が!! もうらメ……」

「きゃっ!?」


女帝の激しい地団駄の振動に耐えきれずヒトラー伍長はバランスを崩して転倒し、女帝エリカはそのまま背中から勢い良く倒れ尻餅をついた。


「……そうね伍長、ごめんなさいね。少し苛立ったからつい」

「……」

「取り敢えず、それ(気絶した伍長)は医務室に運びなさい。それと私に今『椅子』は結構。悠里は囚われているのよ、座ってる暇なんて無いし今すぐにでも軍を動かして……!!」

「あの、陛下?」

「何? レーダー。海軍陸戦隊なら少しだけ装備と人員を前線に出せそうって話だったっけ?」

「ああ、それはありがたい……ではなくて、今度の『ソビエト侵攻作戦』についてですが」

「海軍は外洋からミサイルと艦砲射撃で沿岸をぶっ叩くお仕事よ? 我が軍は大きく迂回しての『右フック』担当、平原の国・国内軍は正面からの縦深突破。両軍の空挺部隊と特殊部隊は広範囲に満遍なく散らばり後方連絡線の撹乱と補給線の断絶がメインなんでしょ。それくらいわかっているわ」


大体の内容はエリカの優秀な脳内に入っていて少なくとも戦争になればすぐにでも決着を決する事が出来るだろうと確信していた。


「それがですね、陛下。大変な事が判明したので急遽こちらへ参りました。『アーレイバーク級駆逐艦』と思われる艦影が活動しておりました。それも、ソビエト社会主義共和国沖合にてです」

「!? それは……非常に厄介に成ってきたわね。第三勢力の介入は想定外だけど、撃破出来そうかしら」

「まあ何とも。敵に大規模な海洋戦力が無ければ問題無いのですが……空母群などが有ったら空軍の方と連携させられますが、取り敢えず我らの水上艦隊でどうにかはなりますでしょう」

「そう、なら良いわ……ただ、アーレイバーク級といえば、イージス艦としてそれなりに高性能な現代の艦艇よ? 中途半端に空軍を出せば最悪強固な防空網に返り討ちにされて艦隊共々海の藻屑、海洋資源とパイロットに致命的なダメージを出させるようなものよ。しっかりそいつらを調べなさい」

「かしこまりました陛下。このレーダー、不肖ながらこの帝国(ライヒ)の海を完璧にお守り致します」

「では下がりなさい」

「かしこまりました、陛下」


F127型防空フリゲートやF126ニーダーザクセン級フリゲートが主力である高地の国の艦隊は遠距離の航空作戦での戦いであればステルス機や長射程兵器を前に劣勢に立たされるだろうが、ミサイルの飽和攻撃や艦隊同士での単純な殴り合いなら十二分に分があるとレーダー提督は信じていた。

前世では米英の圧倒的な数の海軍力で海を封鎖されねじ伏せられたが今度こそ新生クリークスマリーネの実力をこのファンタジー大陸、ひいては世界に知らしめてやるのだと。


「うぅ……腰が……」

「よし、足を乗せたな。それ、いちにのさん!!」

「ああ! やめてくれぇ! 腰が、はぁ、おぉう!!」

「頑張れ伍長。もう少しだぞ。医務室まで」

「お゛お゛、い゛ぐっ゛、腰が、飛ん゛でぐっ゛!!」

「汚い声を上げないの伍長。貴方、大の大人で一応元・総統なんでしょう?」

「ひっ、ひっ、い゛ひっ゛!?」

「『ひっ、ひっ、ふー』じゃないのそこ? まるで出産ね」


ただ一つ気掛かりなのはその米国式艦隊が高地の国の敵であるかどうかが全く不明な点でありまだ何とも言えない不気味な存在であることだ。


「そうね……取り敢えずだけど新しい敵の正体確認と後は『秘密兵器』の方ね……具体的に言えば」

「『核弾頭』、ですな」

「ヴィンツェンツ・ミュラー中将? あら、貴方暇なのかしら。観閲台(こんな所)に来て」


旧ブルグント軍からの降将であり現在は国防軍へ登用されて旧ブルグント部隊(東ドイツ系装備)の編成と統制にあたっているミュラー中将がエリカの居る『貴賓席』へとやって来ていた。

眼下の演習では旧式のT-72M1が最新のレオパルト2A8と共に市街地戦の共同訓練に励んでおり、煌びやかなレオパルトの隣で齷齪しながら泥臭くも力強い機動を見せている。


「……アンタ達が持ってた兵器とか資産を速やかに回収後、それら全てをこっちの規格に合わせて近代化改修して漸く使いものに成ったのは知ってるわね?あんなボロっちい機材をわざわざ…どれだけの資源を使ったか」

「はい。それにつきましては我らの落ち度でした。まさかあのような……」

「過去は過去。でも貴方たちのせいですごく面倒で少し厄介な爆弾が持ち込まれた事は分かってるようね?」


エリカの豊満な胸が腕組みしている両腕に重くのしかかって揺れる。


「核武装するにあたり全く役に立たない『欠陥品の核弾頭』。それを持たされたからですか? 確かにあれはもう役には立たんでしょうな……兵器としてある意味終わっておりますから」

「OTR-23 オカーにも9K52 ルーナ-Mにも搭載出来ないデカすぎる規格外の爆弾なんて作るんじゃ無いわよ! あんのろくでなしクソオカルト眼鏡ぇ……!!」


ブルグント軍が保有していた弾道ミサイルシステムをいくつか鹵獲し、運用可能な状態まで回復して「いざ核弾頭を搭載出来るか」と技術陣が確認した際悲劇が起きた。


ブルグントが保有していた核爆弾のサイズと規格が保有しているどのミサイルシステムや航空機の搭載スロットとも全く合わず、試しに捕虜にしていたハインリヒ・ヒムラー本人を尋問すると「あの核弾頭は世界の終末における『自爆用・儀式用』であり、他国へのミサイル攻撃用ではなかった」と狂った証言をしたのでこんな危険な鉄屑をどう扱うかエリカは頭痛に悩まされながら頭を抱えて悩んだ。


だが、かと言ってこの自爆用の核を高地の国が防衛に使うべきかと言われると『(Nein)』である。

大体核兵器は「遠くへ撃てなければ」、若しくは「爆撃機で運べなくては」全く意味が無い。その場から動かせない置物の核は最早敵への何の脅しにもならないし、精々敵の侵攻ルートを自国ごと消し飛ばして阻止する事が関の山。万が一運べても起爆するのに決死隊の工兵隊が張り付かねばならず、無駄な犠牲を自軍に強いる厄介者でしかない。

そして万が一敵の特殊部隊や魔法使いといったファンタジーな連中に盗まれる事が有れば最悪だ。帝都ゲルマニアやノイエベルリン、ノイエケルン等の自国の大都市に配置・起爆されたら国ごとまず生き残れないだろう。


「……はあっ、もう! 仕方ないからあれは帝都の遠く外れにでも適当な地下防爆施設を建てて厳重に管理して。その上で、再度何か有ればまたどっかに建て直すわ!!」

「それで……我ら旧ブルグント系部隊の処遇につきましては……」

「ああ、それはもう『最先鋒』よ。決まってるからアンタ達が最初にソビエトに突っ込んで適当に荒らし回りなさい」

「かつての懲罰部隊ように捨て駒として死ね、そのように戦うという事でしょうか?」

「いいえ。でも、T-72は無駄にするべき兵器でもないし回収して改修したMiG-29Gの空戦能力もお披露目したいからさっさと目に見える戦果を上げてちょうだい。貴方たちも誇り高きプロイセンの軍人なら汚名返上の機会は欲しいでしょ?」

「……ありがたき幸せです、陛下。では我らが身を挺してソビエト軍部隊の防衛線を打破してやりましょう」

「頼んだわよ。うちの口ばかり達者な石頭プロイセン貴族(国防軍守旧派)どもを見返してやりなさい」

「はっ。陛下のご期待に応えられるよう、粉骨砕身励みます!」


ミュラー中将は敬礼して下がり、観閲台に一人だけになるエリカ。

そしてふと、前世での愛する恋人君塚悠里との日々の思い出に浸る。

前世の日本での学生時代、彼とは幼馴染でありずっと兄のように、妹のように甘えて来たし向こうの家族とよく遊んでいた。そして彼への慕情は有ったがそれはそれとして大学時代に別の男に現を抜かして一度関係を「ただの幼馴染」と割り切ってしまった。今思えば、これは女として人生最大の失敗だったと考えている。両親がよくドイツへと旅行するため日本に残る悠里が基本彼女にとって庇護者であったから毎日のように彼の家に入り浸っていたのだ。


例えば最初の恋人に酷い振られ方をして自殺を決意した際に最初に駆け付けてくれてその際ベランダから飛び降りかけた自分をそのまま力強く抱きしめ、深いキスまでして強引に阻止した事が真の交際の直接のきっかけだった。それ以外は二人で沖縄旅行に連れて行ってくれたり、ドイツで働く母へ婚約者として紹介したり、厳格な父が悠里を男として認めエリカが大学を卒業したら後は婚約・結婚するだけだった。


だが、彼は突然の事故で亡くなった。


それ以来、彼女の彼への依存は極限まで強まり彼が亡くなった事によりショックのあまり食事が取れず後を追うように栄養失調で死んだのだから。

そしてこの異世界に転生し、50年もの果てしない悔恨と執念で漸く再会できた最愛の恋人をこんな泥沼の戦場で狂人の新倉ごときに死なせる訳にはいかない。今度こそ――。


「今度こそ、私がこの帝国の全軍をもって貴方を完璧に守ってあげるから感謝なさい悠里。私これでも、一途で可愛い、いい女の子のつもりなのよ?」


エリカは愛する婚約者への重すぎる愛と執念を瞳に宿し演習場の砲煙を見つめて微笑んだ。

そして踊りがそろそろ終わり始める

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