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国内の体制が盤石になりつつある今、君塚は視線を「外」へと向け始めた。
戦力は師団規模となり中世レベルの国家相手なら負ける要素はない。
しかしこの世界には君塚以外にも「国盗り」に成功した転生者が存在する可能性がある。
彼は幕僚たちに命じ周辺諸国の情報を集めさせた。
その結果机の上に積み上がった報告書は君塚に深いため息をつかせるのに十分な内容だった。
「……どいつもこいつも、ろくな隣人がいねぇな」
平原の国の外交環境は控えめに言っても「最悪」の一言に尽きた。
【東方:戦狼の国】
まず東方。
隣接する『戦狼の国』とは断続的な戦争状態にある。
彼らの目的は領土ではない。この世界における戦略物資――『聖女』の奪取だ。
この世界の『聖女』とは対軍隊・対国家規模の広域魔法を行使し傷ついた兵士を即座に戦線復帰させる、歩く大量破壊兵器兼・野戦病院である。
聖女の有無が戦争の勝敗を決定づけるため各国は血眼になって聖女を確保しようとする。
戦狼の国は特にその傾向が強く他国へ刺客を送り込んで聖女因子を持つ女性を拉致し、皇帝との間に強制的に子供を作らせるという国家規模の誘拐・強姦組織と化している。
最近では皇帝の血統から聖女が多く産まれているらしく平原の国の人民に対しても皇族達は鼻息が荒い。
(……ヤドヴィガがもし聖女なら、真っ先に狙ってくるのはこいつらか)
【西方:龍の国】
西には『龍の国』。古代龍の末裔を自称する女系王族が支配する大陸随一の先進国だ。
魔法は使えないがマスケット銃や戦列歩兵といった近代的な軍隊を有しており旧体制の平原の国なら一年で滅ぼされていたであろう強国だ。
だが、報告によればこの国は現在死に体だ。
以前平原の国への侵攻を企てたがスポーンした転生者(君塚ではない誰か)によって軍が壊滅的打撃を受けたらしい。
さらに、「国盗り2番手」の転生者が女王ヘルフィヨトゥルを籠絡(あるいは洗脳)し実権を握って国政を掻き回しているという。
しかし腐っても大国。
こっちに火の粉が飛んでくる前に警戒が必要だ、特に難民に紛れて刺客を送り込んで来ているかもしれないのだから。
【南西部:低地の国】
南西の『低地の国』は悲惨の一語に尽きる。
賢王ウィレムが治める文化的な国だったが多数の転生者がスポーンした結果、国土は荒廃。
迎撃に出た王の娘3人(全員聖女)も相打ちで戦死しウィレム王は絶望の淵にいる。
唯一の救いは『空間絵画』のギフトを持つ穏健派の転生者が味方についたことだ。
彼女は描いた絵を実体化させる能力で灰のように破壊された王都をたった一週間で復元し仮初めとはいえ軍隊まで描いて防衛しているという。
(……チートにも程があるだろ。敵に回したくないタイプだな)
【中央:神聖皇務庁】
そして各国から「十分の一税」を吸い上げる聖女教の総本山『神聖皇務庁』。
彼らは世界最大の「聖女軍団」を保有している。
表向きは教義を守る聖なる乙女たちだが実態は高位聖職者が血統管理と称して囲っているハーレムだ。
一夫一妻制を説きながら自らはそれを破る腐敗ぶりには内部の若手司祭からも批判の声が上がっている。
ここもいずれ何らかの形で衝突することになるだろう。
【北方:高地の国】
だが、君塚が最も警戒レベルを引き上げたのは北方の山岳地帯にある『高地の国』だ。
かつては小豪族が割拠する未開の地だったが50年前に突如現れた「謎の女性」によって統一され、帝国として成立した。
彼女は旧来の貴族を弾圧し、強力な中央集権体制を確立して反逆を許さない国らしい。
報告書にある目撃証言には耳を疑う単語が並んでいた。
『矢や魔法を弾く鉄の箱が自走し、火を噴く』『空を音より速く飛ぶ鉄の鳥』
恐らく戦車と飛行機。
(……間違いない。こいつが『最初の国盗り成功者』だ)
しかも50年前から存在しているということは君塚より遥かに長い時間をかけてギフトを育て上げ、技術を定着させている。
もし彼女が敵対的なら現在の君塚軍(3個師団)をもってしても勝てる保証はない。
「……手が全く足りねぇな」
君塚は資料を机に放り投げた。
全戦力を投入すれば「戦狼の国」くらいは落とせるかもしれない。だが、その後の統治、聖女軍団への対処、そして背後に控える「高地の女帝」への備えを考えれば軽挙妄動は自殺行為だ。
今はまだ守りを固める時だ。
騎士団と傭兵を解体して再編した「王国軍」に戦列歩兵の訓練を施し戦狼の国の残存戦力程度なら自力で撃退できるようにしていく。
一部の騎士団員は反発して離反したものの大半は合流した。
君塚の直轄軍は転生者の侵入や戦狼の国の動きに即応できるよう国境付近に旅団規模で配置し幹線道路を使った迅速かつ頑丈な兵站網を構築する。
ふと、君塚の思考はヤドヴィガへと向いた。
先日の添い寝の際彼女に手を握られた時のあの異常な握力。
『聖女として覚醒する可能性のある者は、身体機能が常人離れする場合がある』
資料の記述が脳裏をよぎる。
もし彼女が聖女なら他国の王侯貴族は血眼になって彼女を奪いに来るだろう。
(……守らなきゃな)
政治的な道具としてではない。
もっと個人的な感情でそう思った。
コンコン、と控えめなノック音。
「入れ」
入室してきたのはエレーナ・ソコロワ中尉だった。
彼女の手には本来なら彼女の上官が提出すべき報告書が握られている。
また雑用を押し付けられたらしい。
(……あの上官、後でシメるか)
歴戦の狙撃手を使い走りにする軍規の緩み。
幕僚たちの間にも最近慢心が見え始めている。
組織の引き締めが必要だ。
ソコロワのような実直で決して不正をしない兵士こそ側に置いておくべきだ。
それとは別に官僚が殿下への縁談話を持ちかけて来ていた。
「報告します。低地の国より、ヤドヴィガ殿下への婚姻の申し込みが届いております」
「相手は?」
「39歳の男性貴族です」
「却下だ。即座に」
君塚は吐き捨てるように言った。
「ついでにそいつを『ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)』に指定しろ。二度とこの国の土を踏ませるな」
39歳で5歳児を妻にしようなど、正気の沙汰ではない。
最近、君塚は自分でも驚くほど、ヤドヴィガの「未来」を守ろうとしていることに気づいていた。
20歳で王位を譲らせた後、彼女が自由になった時、その人生が汚れていてはならない。
それは契約者としての義務か、それとも――。
君塚は小さく首を振り、再び山積みの書類へと視線を落とした。
若しくは君塚君チョロイン回




