小話 悪女か救世主か
ヴィオラーナは親子で旅をしている。
長男は兄に預け、次男と長女の双子と一緒に。
悩みは赤毛の男に付き纏われていること。そして可愛い我が子が懐いているのも悲しい。
双子の教育に悪いためオリバンダーに使いを出して一時的に双子を引き取りに来てもらおうかとも考えながら今日も歌いながら足を進める。
煙があがり、村の一部が炎に飲まれている。村の入り口に逃げた人々が集まり一人の祈りを捧げる女性を囲んでいる。
、
「お前の所為だ」
「なにが聖女だ。この消えない火はお前の所為だろうが!!」
「火傷も治せず」
「生贄にすればいい」
ヴィオラーナは女性を罵り殴っている男を風で吹き飛ばした。双子を木陰に隠し、女性に近づき声をかけると、意識を失う。
「大丈夫ですか?だめ。うん。ちょっとごめんね」
ヴィオラーナは意識のない女性を背負って歩き出す。
「お前!!なにするんだ」
投げられる石を避けて、殴りかかる男をさらに遠くへ風に飛ばす。村人達の姿がなくなったので高熱で意識不明の傷だらけの女性の手当てを始める。汚れを洗い流して、常備してある薬草を貼る。ふっくらとした唇を指で開けて、口移しで少しずつ熱さましの薬と水を飲ませる。
「お母様?これ?」
「ありがとう。そうね。手に巻いてあげて」
隠れていた双子が顔を出し、手に持つ薬草を見てヴィオラーナは笑いかけ、双子に指示を出しながらテキパキと手当をしていく。しばらくすると眠る女性がゆっくりと目を開ける。
「私は」
「まだ体がだるいから寝たままで、」
「私は生きて」
「ええ。」
「消えない炎が襲った時は人柱が」
「ねぇ、誰かのためとかどうでもいいの。生きたい?」
「え?」
「死んで楽になりたい?」
「死、死にたくない、でも」
「逃げよう。力を貸すよ」
「え?」
「誰かのために犠牲になるなんて愚かだよ。私は後悔してるの。貴方が生きたいなら絶対に追っ手のこない場所で平穏に生きる場所に連れて行く。傷が治って元気になってもしもそれでも誰かのために死にたいなら止めないよ。少しでも生きたいと思うなら生きた方がいい。自己犠牲も他者に犠牲を求めるのも愚かなこと。今は休んで。私が守ってあげるよ」
ヴィオラーナは女性の頭をゆっくりと撫でながら歌を歌う。愛しい人に似ている悲しい女性のために。
そして泣きそうな顔で生きたいと言った女性に極上の笑みを浮かべる。本当に願って欲しかった人はもういない。それでも同じ悲劇を起こしたくない。
ヴィオラーナは世界が滅んでもいい。滅ぶ最後の瞬間まで悲しい犠牲者が出ないように。
エリクの名誉回復と真実を伝えること。そして犠牲者を生まないのが忘れじの国の掟を捨てたヴィオラーナの生き方だった。
忘れじの民はどんどん増えていく。
白鷲に連れられてきた迷い人をオリバンダーは明るい笑顔で受け入れながら妹の様子を聞いて笑う。そしてリックが案内する。
「お姉さん、ごめんね。母上が」
「リックよね?穢れを払ったら帰るから元気でと」
「うん。ありがとう。案内するよ。ここには二つの生き方がある」
外の世界で生き辛いものは優しい国で自分のための生を探しはじめる。そしてリックは自分なりの生き方を考える。
***
「お母様、あの人は助けるの?」
「助けないわ」
「どうして?」
「火傷の痕があるでしょう。あの痕のある人は私は助けないの。私は思うままに生きるから」
ヴィオラーナは気まぐれで人助けをする。
ただし世界征服を喜んだ人は絶対に助けない。だから呪いの炎を受けた人は助けない。たとえ改心しても過去は変わらない。
「なんで私にだけ冷たいんだ」
「エリク、ここの薄いお肉なら食べれたかな。あんまり厚いお肉好きじゃなかったよね」
エリクの遺髪を手に持って祈るヴィオラーナは肩に触れる手を風で振り払う。
「穢れるから触らないで」
「何年それを続けるんだよ」
「消えて。邪魔」
ヴィオラーナはエリクが滅ぼした国を回って歌を歌う。たとえ石を投げられても。
「神の力は、バカ、これ使いなさいよ」
ヴィオラーナはうっかり石に当たった男に薬草を投げる。
「使い方が」
「なら使わなければいい」
「ヴィー」
「名前を呼ばないで、大丈夫?うん。泣かないでえらいね。お礼はいらないよ。石を投げてもいいけど狙いなさいよ!!子供に当たったでしょう。吹き飛びなさい!!気をつけて帰ってね」
石に当たった少年の手当てをして手を振って送り出し、石を投げた男は風で吹き飛ばす。赤毛の男には絶対に触れないのはヴィオラーナの拘りである。
世界には理不尽なことが転がっている。ヴィオラーナは死にかけている男を見つけ、背負って走る。魔法で吹き飛ばそうとしても効果がでず、足が頼りだった。
「待て!!」
「嫌!!」
「バカ、貸せ!!背中の男は私が背負う」
「嫌、触らないで」
「このままなら捕まる」
赤毛の青年はヴィオラーナが背負う男を無理矢理奪い、兵の馬を奪い疾走する。ヴィオラーナは風を操り屋根の上まで飛び、兵を霧で覆う。そして屋根を渡って双子を待たせている宿屋に向かう。王子を浚ったから追っ手が来るのは当然である。
「ごきげんよう。王子様、自己犠牲なんてバカなことはやめましょう」
「君は?」
「ヴィオラーナと申します。しがない旅人です。何も知らない貴方に正しい知識を。それから選んでください」
「女神か」
「ただ人です」
「こんな美しい人は初めてだ」
「養生しましょう。体の毒を抜くのでこれをよく噛んでくださいな」
「毒が回った時に全てが浄化される」
「ありえません。よく噛んで、そうです。上手ですよ」
ヴィオラーナは訳のわからない迷信を信じる王子に真実を伝える。王子がら毒酒を飲んでも毒蛇は討伐できない。国を襲った蛇は穢れが原因で出現したわけではない。捕食者が減り大量に発生しただけ。
「ロビン、大丈夫?」
「お母様、ロビンが」
「それは汚いから触ったら駄目よ。頑丈だから大丈夫よ。わかった。この薬草を貼ってあげればいいわ。このまま置いても、好きになさい」
赤毛の青年の怪我は優しい双子が手当をする。羨ましそうにヴィオラーナを見ても双子は気にしない。
「ロビン、無駄」
「なんで、私よりも」
「本当にわからないの?」
「なんでいつも私は駄目なんだ」
「生者は死者に敵わない。その逆もしかりっておじさんが言ってたよ」
「お前らの母親はずっと泣くんだろうか」
「生きてるから当然よ。お腹すいた」
「ロビン、大きいお魚釣ってよ」
「ヴィーはあいつの手当てで夢中か。私には見向きもしないのに」
赤毛の青年は気付かない。貴重な薬草を投げて譲り、強制的に排除しないだけでも譲歩している。そして青年は双子のおかげでヴィオラーナが同行を許している事実を知るのは当分先だった。
「出てって」
「ずっと進まないつもりか?」
「バカね。関係ないわ」
「エリクが今のお前を見て何を思う?」
「知らない。私は私の思うままに生きるのよ。貴方こそいい加減に進みなさいよ。心の中の空虚を埋めるには自分の足で探すべきよ」
「ヴィオ」
「呼ばないで。帝国皇族は嫌いなの」
ヴィオラーナは自分が捕らわれているのはわかっていた。それでも良かった。
エリクの身体に馴染んだ美味しくない酒を飲むと襲われる気持ち。酔って時折襲われる空虚感。
復讐に捕らわれたヴィオラーナ。それでもやめられない。
神が嫌いなヴィオラーナは赤毛の青年に追いかけられながら憎い戦神に想いを馳せる。
戦神も赤毛の青年も自分もそっくりだと思いながら口に出さない。手に入らないものを求め続ける。心の空虚を埋めるために。
帝国皇族が嫌いなヴィオラーナは赤毛の青年に干渉するつもりはない。それが最大限の譲歩。双子を兄に預けてからは赤毛の青年の行動に決して口には出さない。
自分と同室のベッドに青年が女を連れ込むまでは。
そして、色に溺れる赤毛の青年を置いて宿から飛び出す。帝国皇族は貞操観念がおかしいと知っていてもヴィオラーナにとっては変態である。傍にいるなら放っておいたが逃げる日の再開だった。寂しい時に明るい青年にちょっとだけ気が紛れたのは気の迷い。
そしてヴィオラーナの自由なようで不自由な旅は再開した。
戦神の罪は世界を混乱させて数多の命を奪ったこと。そしてヴィオラーナという世界を混乱させる種を生んだこと。
戦神が消滅しても世界は荒れる。
神が干渉するとさらに荒れが酷くなる。
善良な神は安息の場所を与えるだけでそれ以上は手を出さない。
それでも時が経つとうっかり手を貸して混乱を招く。
神の手を放れた命は思い通りにならない。
世界から聖女や世継ぎの王子、勇者、苦難を乗り越え平和に導く運命にあったものは、苦難を乗り越える前に保護された。
ヴィオラーナの手を取り忘れじの国に逃げた者も光の国の住人になった者も幸せだった。
神をも恐れない白銀の吟遊詩人の罪は歴史に残されなかった。
殺戮皇子にとっての悲劇は幸せを願った妃が危険に飛び込むようになってしまったこと。殺戮皇子を一番理解していた友人はせめてもと命日に祈りを捧げる。
自分のことは願わない弟夫婦のために。
そして殺戮皇子の妃に救われた人達も願った。
平穏な世に二人が生まれ出会えることを。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ブクマ、評価も嬉しいです!!
ご都合主義満載ですが、最後までお付き合いいただきありがとうございます。




