本当の気持ち
ルブルム王国 王都アルテスの酒場にて
アレク達、栄光の剣の一行は前半の旅を終え
報酬も入ったことで全員の無事を祝って
酒場にて打ち上げをしていた。
報酬を等分にし渡した後は各自自由に
飲み始め気付いた時にはフベルド・ハンス組とルシア・リタ・アレクに分かれていた。
「ッゴク!ッゴク!かあぁぁぁ久しぶりの
酒は最高だな!!そうだろう?ハンス?」
いつもの落ち着いた感じではなく、旅の
ストレスから解放された晴れ晴れな表情で
フベルドがハンスに話し掛ける。
「ああ!酒場の姉ちゃんのケツを見ながら
飲む酒は最高っだぜ!!ほらほらリーダー
グラスが空いてるぜ?すみませーん!
こっちに同じ酒を2つでー!」
既に出来上がっている2人が楽しげに
酒を飲むなかで残りの3人は何故か
恋の話を始めていた。
「アレク君、前から聞こうと思ってたんだけど……君が教会の修道女見習いの女の子と
仲良く歩いてるとこを見たことがあるの。
アレク君は、好き合ってる女の子は
本当にいないの?」
珍しく酔ってるのか、リタがアレクに
突っ込んだ質問をぶつけてくる。
師匠も弄りがいのあるオモチャを見つけた
顔で、こちらに視線を送ってくるので
逃れられない状況に追い込まれアレクは
面倒くさそうな表情を浮かべる。
「そうだぞ?気になる女の1人でもいない
のかぼーやには?師匠としても弟子の恋を
応援してやらんといけないからな〜
その教会の修道女について正直に話して
みろ?な?」
(め、面倒くさい……なんで女性は
恋バナが好きなんだ。まだ13歳なんだから
そんな話されても困るだろ……っていうか
リタさんは、こんな話していいのか?
師匠の方は、あれは何か企んでる顔だろうな本当に面倒だな)
「アマリアのことは、良き理解者で友達ですよ……そういう感情で見たことはありません。将来、そういう感情が芽生えるかも
しれませんが今は生きることに精一杯で
好きとか愛とか考える余裕ないですよ」
変に誤魔化しても、しつこく追及されると
思いできるだけ正直に自分の気持ちを2人に
話す。
アレクが正直に話すとは思っていなかった
リタは少し驚いたような顔をしていた。
しかし、いじめっ子の師匠の気持ちが収まる
ことはなく質問の矛先がリタへと向かう。
「ぼーやは、本当に弄りがいがないな……
まあ、ぼーやらしいと言えばらしいが。
ところで、リタの方はどうなんだ?
好いている相手の1人でもいないのか?」
「ブッ!なんですか!?急にアタシに質問の
矛先を変えないで下さいよ〜アタシに好いてる相手なんている訳ないじゃないですか〜」
明らかに質問の矛先が自分に向き、焦りだすリタを見ながらルシアはアレクにアイコンタクトを送り指示を出してくる。
内容を言葉にするとお前が聞け!である。
アレクはフベルドとハンスが遠くのカウンターにいることを確認すると小声になり
リタとルシアにだけ聞こえる大きさで
質問をする。
「リタさんは、ハンスさんのことどう思ってるんですか?もう、気持ちは伝えたんですか?」
「ななななな、何を言ってるのかな!?
アタシが?あのお調子者を好いてるわけ
ないでしょうが!!大体、あんな女好きな
野郎はお断りに決まってるでしょ!?」
またしても、予想外な方向からの反撃に
返答がいらないくらい明確な動揺を見せる
リタにルシアが追い打ちをかける。
「そうか〜私達の勘違いかぁ〜リタごめんな
余計なことを言って〜野営の時にハンスの
ご飯が少し多いのも、馬車に乗っている時に
ハンスの御者席の後ろにいつもリタがいるのも、
酒場で飲む時にハンスの隣にリタが座るのも
全部私達の勘違いだよな?いや、すまない」
ルシアの話を聞いていたリタの顔色が
話が進むにつれ朱色に染まっていくのが
アレクでも分かった。
最後の方には、リタは耳を塞ぎ頭を抱えて
訳の分からない言葉を発しながら悶えていた。
暫く悶絶した後に放心状態に
なったリタを放置してアレクとルシアは
話を続けていた。
「師匠……さすがにやり過ぎだったのでは?
明日から、たぶんリタさんはハンスさんの
顔をまともに見られないと思いますよ?」
いつもより香りの強い果実水を飲みながら
アレクは放心状態のリタに憐れみの目線を
送りながらルシアに問いかける。
「どうせ、ぼーやだって気付いていただろう?
それに毎日、煮え切らない態度のリタと
普段は女好きを公言しているのに1番近くに
いる女の気持ちに気付かないハンスを
見ている私達の気持ちも考えてほしいな」
実際のところ、フベルドもルシアもアレクも
2人のことには気付いていたが……
お互いの気持ちの問題だからとできるだけ
見ないように触れないようにしていたのだ。
アレクは最近、パーティーに参加した為
そこまで気にしていなかったが……
どうやら師匠は我慢の限界だったらしい。
「僕に恋の話を振ってきたので逆に
聞き返してほしいのかとも考えましたが
この反応を見ると無意識だったようですね」
「まったく、自分のことを聞かれたく
なければ最初から恋の話などしなければ
良いものを……これが若さということか」
まだまだ放置状態から帰ってこないリタを
眺めながらアレクとルシアは今後の予定を
詳細に話し始める。
ルシアがフベルドに確認したところ
最底一カ月、アルテスに滞在し今日
荷下しをした武具店が、受け渡した素材を
元に作る装備の出来上がりを待つことになる。
その間に、各自で装備の新調や慣らしを
行い簡単な依頼などもあれば追加で
受けるようにするのが予定らしい。
「僕は装備の新調もしたいですが……
とりあえずは機会を見て武具店のフェルムさんに会いに行かないといけないですね。
魔弓もフェルムさんに見せることになりそう
ですけど、大丈夫だと思いますか?師匠」
「う〜ん、大丈夫じゃないか?今の所
魔弓は、ぼーやにしか使えないし
それにドワーフは武具に関して誇り高い
ことで有名だ。人の武器に興味があっても
悪意を持って何かをするのを良しとは
せんだろう。安心して見せてドワーフを
驚かせてくるといいさ」
そんなことを話していると周りで飲んでいた。
冒険者っぽい男達の話が耳に入ってくる。
「また、“静寂の影”が出たらしいぞ?
これで何人目なんだよ本当に……
この街も物騒になったもんだよな」
「またか?最初の被害から半年は経ったが
未だに犯人の情報がないとか怖すぎるだろ。
何かの魔法でも使ってるのかね……
この街に殺人鬼がウロウロしてると思うと
遅くまで飲んでらんないな」
不穏な噂を耳にしてアレクもルシアも
少し表情を曇らせる。
「ぼーや、どうやらアルテスには現在
不穏な噂が流れているようだな……
もののついで良いから一緒に街の情報も
集めるようにしてくれるか?
私も身を守る為に情報を集めるとしよう
だが、決して深追いはするなよ?
不用意に手を出せば命を失いかねん」
「はい、街を回った際にでも情報を
集めておこうと思います……この噂は
パーティーメンバーの皆さんには
お伝えしておきますか?」
「パーティーメンバーには私から伝えて
おこうと思う……リタは、私とアレクで
宿に連れて帰るとしてフベルドとハンスには
夜遊びは、程々にするように注意するか」
依頼で到着したアルテスで流れていた
不穏な噂にアレクとルシアは言い知れぬ
不安を抱いていた。
この時期に、最低一カ月もアルテスから
離れることができない状況が続こうと
していたからである。
この時、もし街を離れることができていたら
もし少しでもアルテスを訪れる時期がズレて
いたらアレクは世界の闇を知らずにいれたのかも
知れない。
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打ち上げから3日後、アレクは
フェルムから声を掛けられ武具店を
訪れ何故か、そこから草原に移動していた。
先日、フベルドから聞かされたオーガを
一撃で倒した弓矢での攻撃の真偽を確かめる
ためにフェルムと弟子達からのお願いもあり
アルテスから少しの距離にある街道横に
移動し試射をさせられることになったのだ。
(なんでこんなことに……自分のスキルを
見世物にするのも嫌なのに、こんな大勢の前で試射しなければならないなんて地獄じゃ
ないか)
「アレクよ!見世物にして申し訳ないが
それ程に、お前さんの技は卓越したもの
だということだ。
ワシらの技術の発展のためにも是非とも
必殺の一撃を拝見させてほしい……もちろん
ワシらが出来ることは、お前さんに対して
最大限させてもらおう」
工房の親方でもあるフェルムは、新たな技術
を見れるかもしれないという好奇心に
支配されアレクを逃してくれそうにない。
「うぅぅ、その言葉を信じますからね……
スキルのことや武器のことは他言無用で
お願いします!」
フェルムの弟子達により設置された的に
アレクはスキルを発動し狙いを定める。
先程までの困った様子の少年の雰囲気は
一切消え去り……張り詰めた空気が辺りを
支配していく。
弟子のうちの1人がたてた唾を飲む音が
やけに大きく聞こえた瞬間……
空間を引き裂くような甲高い音が
閃光と共に全ての音を置き去りにする。
フェルムと弟子達が、目にしたのは
的を綺麗に貫通し自分達の常識を超えた
威力を示した1本の矢の傷跡だけだった。
「あの〜皆さん、これが僕のスキルを使用
した一撃なんですが……実際に見てみて
どうでしたか?何かの参考になりました?」
アレクは、全員が何も言葉を発しない空気に
耐えられずに自分から話題をフェルム達に
振っていく。
その質問を受けて、やっとフェルムと弟子達
の時間が動き出す……静けさからの興奮が
辺り一帯を覆い尽くしていく。
「「嘘だろ……こんなの……」」
それがフェルム達から漏れ出した正直な
感想であり全員の総意であった。
その後は、フェルムと弟子達から武器に
ついてやスキルについて詳しく説明を
求められ次々と続く質問に答えるはめに
なった。
「いや〜疑って本当にすまなかった!
だが、あんな一撃は見るまで信じられんし
想像することもできんかったわい」
やっとのことで落ち着きを取り戻した
フェルムが、質問に疲れ果てたアレクに
声を掛けてくる。
その顔は新たな技術の可能性に胸を踊らせる
少年のようであり何故か憎めないもので
あった。
「喜んで頂いて良かったです……ですが
こういうのは今回限りにして下さいね?
僕も自分の手の内を明かすのは、あまり
良くはありませんから」
「そうだな、冒険者にとっては戦闘技術は
命の次に大切なものなのに、それをワシらに
見せてくれたことに深く感謝しよう。
先程の約束通りにワシらに出来ることなら
協力させてもらうから希望があれば
言ってみてくれ」
その言葉を聞いたアレクは、心の中で
“ニコッ”と笑い自分が本当にお願いしようと
していたことをフェルムに告げるのだった。




