入学式②
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一階に到着すると、ちょうどソフィアが「オスカー様〜〜!!」と殿下に突撃しようと走り込んだ瞬間だった。
私は即座に駆け出し、ソフィアの腕を掴んで引き留める。
「痛いわね! 何するのよ!! ……な、お姉様!?」
私だとわかった途端、ソフィアの口角が上がる。
きっと王太子殿下の前で虐げられている妹を演じるつもりなのだろう。
(そんなことさせるわけないじゃない! 殿下の元になんて行かせないわ!)
「ソフィア! あなたいい加減にしなさい! 殿下に突撃しようなんて! しかも、殿下のお名前まで呼んで……不敬がすぎます!」
「そんな……! 私は何も悪いことなんてしてないのに! お姉様はいつもいつも私にばかり辛くあたって。酷いわ!! 私が何をしたっていうの!!」
(いや、今まさにあんた悪いことをしたじゃないの……)
きっと今周りに居る面々は同じことを思っているのだろう。
被害者面をしているソフィアを奇異の目で見ている。
「ソフィア。あなたのその悲劇のヒロインごっこも、もういい加減にしなさい。さすがに恥ずかしいわ」
「ごっこなんかじゃないわ! 私は常日頃からお姉様に虐げられているのだもの!」
「まあ、そうなんですの?」
ソフィアが激昂していると、突然、会場前方側から先ほど聞いた声が響いた。
「カトリーナお姉様はそのような無意味なことはなさらないと思うのですけれど……それは真実ですか?」
「無意味!? そんなわけないじゃ……」
振り返ったソフィアが思わず言葉に詰まる。
そこには、小首傾げながら優雅に微笑むエリザベス様がいた。
そして、その後ろにはもちろん、王太子殿下の姿が。
それにしても、『カトリーナお姉様』呼びを許した覚えはないのだけれど、やっぱり定着してしまっているのは気のせいだろうか。
殿下の姿を確認したソフィアは、再び勢いを取り戻したようで、殿下に向かって行こうとする。
「ソフィアッ! やめなさい!!」
再びソフィアを引っ張って行こうとした瞬間……
「カトリーナお姉様!!!!!!」
どうやらソフィアを引っ張るまで見えていなかったようで、私の姿を見つけた途端、エリザベス様が私の元へとやってきてしまった。
(まずい……。このままじゃ、殿下とソフィアでなんらかのイベントが起きてしまう。イベントが起きなくても、接点ができてしまったら今後どうなるか……いったいどうすれば良いの!?)
すると、エリザベス様の後ろから、最も恐れていた人の声が響いた。
「エリー嬉しそうだね。どうしたの?」
覗き込んできた殿下と目が合う。
「カトリーナ嬢だったか。先日の発表振りだね」
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。先日は過分なお言葉、ありがとうございました」
「過分なんかじゃないよ。なるほど。エリーのテンションが上がるわけだ。エリー、良かったね。憧れの人に会えて」
殿下は嬉しそうにエリザベス様にそう告げるけれど、なぜか彼女は頬を膨らませて拗ねているような態度になる。
「殿下……先日はって、わたくしよりも前にお姉様にお会いしていたのですか!? 狡いですわ!!」
「いや、私ではなく、クラウスがね……」
「お兄様が? ですが、殿下も一緒にお会いになったのでしょう? なぜわたくしに教えてくださらなかったのですか!? やっぱり狡いではありませんか!!」
詰め寄られてタジタジになりつつも、エリザベス様に責められて、なぜか殿下は嬉しそうだ。
「あの……すみません。その、『憧れの人』というのは……」
二人で楽しそうにしているところに申し訳ないと思いつつも、気になることを伺うけれど、なぜか二人とも私の後ろを見て、急に黙り込んでしまう。
気になって振り向くと、そこにはこちらに向かってゆっくりと歩いてくるクラウス様の姿が……。
「な、なぜクラウス様がこちらに……!?」
怖いほどのドス黒い笑みを浮かべるクラウス様に思わず声が上擦ってしまう。
「いえ、カトリーナ嬢のお戻りが遅いので、少し気になりまして……下が騒がしいので見てみたら、あなたがいらっしゃるじゃないですか。これはお迎えに参らねばと思った次第です」
そう言って私たちに笑いかけるクラウス様の笑顔が怖い。
その笑顔に、王太子殿下に再びアタックしようと思っていたであろうソフィアまでもが、動きを止める。
「あ、あの、たまたま騒ぎの渦中に妹を見つけまして……それで止めに入ったのですが、ちょうどいらした殿下とエリザベス様にお声がけいただいたのです」
「……そうでしたか。心配いたしました。殿下もエリーも、そろそろ式が始まりますよ。座席に着いたほうがよろしいのではありませんか?」
「あ、ああ。そうだな! エリーそろそろ席に着こう!」
「ええ。そうですわね、殿下! お姉様、また後ほど」
殿下とエリザベス様は、何かに追い立てられるように、そそくさと座席へと向かっていってしまった。
ソフィアも、なぜか私に一度舌打ちをすると、呆然とする私の腕を払い、そのまま座席へと駆けて行った。
残された私は、魔王のように不敵な笑みを浮かべるクラウス様に再びエスコートされ、二階の座席へと戻る。
そうして、入学式は学園長や国王陛下の挨拶、殿下の新入生代表挨拶と滞りなく進んだ。
殿下の挨拶で女子生徒の悲鳴が少し上がったものの、それ以外は特に大きな問題はなく、無事に幕を閉じたのだった。
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