入学式①
講堂へ入った途端、わかってはいたけれど、やはり生徒たちからの視線を一気に集めてしまった。
ソフィアの腕をもう離しているとはいえ、結局クラウス様と一緒に入ったのだから、当然といえば当然なのだけれど、慣れない視線に思わず俯き加減になってしまう。
そんな私とは反対に、ソフィアは嬉しそうに顔を上げ、なぜか得意げに周りの生徒たちを見渡している。
(みんなから特別視されたり注目されるのが大好きな子だものね……「コレよコレ!」とか思ってるんだろうな……)
そんな彼女を見て、思わずため息が出る。
そこへクラウス様が私の耳もとに手をかざし、そっと話しかけた。
「カトリーナ嬢、大丈夫ですか? お顔の色が優れないようですが……」
(ひぇ……く、クラウス様の顔が近いっ!!)
一部の生徒から悲鳴のような黄色い声が上がるけれど、慣れているのか、クラウス様が気にする様子は全くない。
「あ、いえ、大丈夫です。あまり注目されることに慣れておりませんので、皆さんの視線に緊張してしまって……」
「私がご一緒したせいですね……迂闊でした。申し訳ありません」
「いえ、そんな、クラウス様が謝罪される事ではありませんわ! それにクラウス様のおかげで助かりましたし。謝罪しなければならないのは、私のほうです。ソフィアの暴走に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
「お役に立てたのでしたら、良かったです。また今後何かあれば、いつでも頼ってください」
「ありがとうございます」
小声で話しながら笑みを浮かべるクラウス様に、何度もお礼を言っていたら、どうやら一年生のところに到着したらしい。
ソフィアに騒がないようにと言い聞かせ、私とクラウス様は二年生の場所まで移動する。
すると、私たちが離れた後、ソフィアはいろんな令嬢たちから「なぜクラウス様とご一緒に!?」「クラウス様とお知り合いなのですか!?」と詰め寄られていた。
満更でもなさそうな表情で、ソフィアが令嬢たちに勿体ぶって何を話しているのか……嫌な予感がしつつも、クラウス様に促されるままその場を離れた。
「変な噂が流れても、きっとオスカーやエリーがなんとかしてくれるでしょう。あの学年を牛耳るのはあの二人でしょうから。問題ありません」
(さすがは王太子と公爵令嬢ね。ソフィアが変なことをしなければ良いけれど……)
「……そうですわね」
不安を抱きつつ返事をすると、なぜか急にクラウス様がその場に屈み、私と目線を合わせる。
「え? ……クラウス様?」
驚く私にクラウス様がゆっくりと手を差し出した。
「ここからは私にエスコートさせていただけますか?」
「ええ!? エスコート、ですか?」
「二年生の席は二階にあります。そこまでの間だけでも……」
まるで愛しいものを見るような視線に、思わず心臓が跳ねる。
(勘違いしちゃいけないわ。クラウス様は公爵子息で、女性には慣れていらっしゃるのだから……それに、女性を一人伴っている状態でエスコートしないのはきっと紳士のマナーに反するのだわ。だから仕方なく私をエスコートするなんておっしゃるのよ。だから、勘違いしちゃいけないのよ、カトリーナ!)
必死に自分にそう言い聞かせ、その手を取った。
それなのに、手が触れた次の瞬間、クラウス様はその手の甲に口付けを落とし、私に向かって不敵な笑みを向ける。
その美しい笑みに、手が、顔が、一気に熱を帯びて、叫び出したい衝動に駆られた。
(えええええ!? 何あれ、なんなの!? あの笑みは何!? あんなの反則よぉ〜〜〜!! ど、どうしよう!? こんなの心臓がもたない!!)
イケメンの笑みに免疫のない私には、クラウス様の笑みはどんな笑みでも破壊力が凄いけれど、こんなシチュエーションはもはやキャパオーバーを通り過ぎている。
今にも飛び出しそうな心臓を落ち着かせようと頑張っているのに、クラウス様が追い打ちをかける。
「カトリーナ嬢、大丈夫ですか? 先ほどとは打って変わってお顔が赤いようですが……」
言いながらどこか嬉しそうなのは気のせいだろうか。
クラウス様は心配そうに言いながらも、そのまま私の手を引き、自身の腕にそっと絡ませる。
そして、何事もなかったかのように私をエスコートしながら二階へとゆっくり歩き始めた。
エスコートされていることで、階段だというのに、先ほどとは比べ物にならないほどの視線が私に集中する。
(針のむしろというのは、まさにこういうことね。ほんっと居た堪れないったらないわ!)
あちこちから刺さってくる視線に思わず尻込みしそうになる。
今すぐにでも隠れたくて仕方がない私の隣で、優雅に美しく歩くクラウス様の姿が眩しい……いや、眩しすぎる。
(きっとこのエスコートも階段を上り切るまでよ! 二階に着いたらまた目立たないように隅っこに逃げ込まなくては!!)
エスコートの最初にクラウス様が『二年生の席は二階にあります。そこまでの間だけでも……』と言っていたことなど忘れ、私は階段だけの辛抱だと自分に言い聞かせていた。
階段を上がり切り踊り場に出たところで、待ち構えていた二年生の集団に取り囲まれる。
主に普段からクラウス様を追いかけている面々のようだけれど、案の定、彼女たちの視線は私に集中していた。
視線を向けつつ、彼女たちは「首位になったからと言い気になって」とか「子爵令嬢のくせに生意気」とか「クラウス様には不釣り合い」とか口さがない言葉を発していた。
さすがに居た堪れず、私はすぐさま彼から離れようと組んでいる手をそっと外す。
けれど、それをクラウス様の大きな手に引き戻されてしまう。
挙句「どうかされましたか? 周りが少し騒々しいようですが、気にする必要などありませんよ」と涼しい顔を向けられた。
(いえ、さすがにそこまで強心臓じゃないのですが……)
口の先まで出掛かっている言葉を抑える。
結局手を離してもらえず、私はそのままクラウス様にエスコートされたまま座席に到着してしまった。
(座席も進級試験の成績順だったおかげで、入学式の間中、クラウス様とずっと一緒に過ごすことになるなんて……)
ようやく手を離してもらい着席した安心感に浸っていると、一階席のほうが騒がしい声が響いてきた。
気になって見下ろすと、どうやら王太子殿下と婚約者であるエリザベス様が入ってこられたらしい。
他の生徒たちが皆、礼を取っている。
そんな中、やはりというか、どうしてというか……二人の前に立ちはだかろうといそいそ動く姿が見えた。
(ソフィアああああ~~~~~~!!!!)
私は慌てて立ち上がろうとしたところで、クラウス様に呼び止められる。
「カトリーナ嬢、どうされました?」
私のことをクラウス様が『カトリーナ嬢』と呼んだことで、再び周りの生徒たちがざわつき始める。
だけど、そんなことを気にしている場合ではない。
今すぐにソフィアを止めに行かなければ、最悪我が家は断罪の上破滅してしまう。
「いえ、少しお花を摘みに……」
「! 気が利かず、申し訳ありません! もう少しで始まりますので、お気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
なぜか少し照れたような表情のクラウス様に周りがさらにざわついたけれど、そんなことを気にしていられない。
私は先ほどゆっくりエスコートされた階段をなるべくお淑やかに、けれど急ぎつつ駆け降りた。
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