令嬢たちの牽制
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無事に入学式を終えた私たちは、そのまま教室へと移動した。
一年生は式の後クラスに分かれてガイダンスが行われるが、二年生と三年生はこのまま通常授業へと移行する。
クラス分けは、それぞれの教室の入口に貼り出され、教室内に置かれた机には前の席から成績順に魔法で名前が書かれている。
違うクラスに入ったり、違う席に座ることがないよう、すべて魔法で制御されているらしい。
(殿下たちとソフィアはクラスが違うだろうから、教室にいらっしゃる限り心配はなさそうだけど……合同授業や授業以外の時間が心配だわ)
私にも授業があるから、常時ソフィアを見張るわけにもいかないし、かといって殿下に警戒してくださいと告げるわけにもいかない。
告げたところで変な人扱いされてしまう可能性が高い。
何か良い手はないかと考え込んでいると、急に後方から声を掛けられた。
「ベイリー子爵令嬢、少しよろしいかしら?」
声のほうへ振り向くと、クラスメイトであるフリッツ公爵令嬢のバーバラ様とカステナ侯爵令嬢のミリアリア様が笑顔で手招きしている。
二人の周りには取り巻きの令嬢たちが同じく笑顔でこちらを見ていた。
嫌な予感しかしない。
私がクラウス様にエスコートされていた時、講堂の階段でヒソヒソと私のことを話していた方々の筆頭なのだから。
「……な、何か御用でしょうか?」
「ええ。用があるからお呼びしているのよ」
「あなたにも多少の心当たりはあるのではなくて?」
(きっと「クラウス様に近づくんじゃないわよ!」とかそういうやつよね……なんで私がヒロインポジみたいなことになってるの!? 私はただモブとしてひっそり過ごしたいだけなのに!)
とはいえ、相手は公爵令嬢に侯爵令嬢。
敵に回してしまっては、これから先の学園生活が終わってしまう。
とにかく今はクラウス様とは何もないと話して、無害なことをアピールするしかない。
「は、はあ……わかりました」
了承して立ち上がり、彼女たちに招かれるままに彼女たちの席の辺りまで移動する。
他の生徒たちは、どうするべきか戸惑っているのが気配で伝わってくるけれど、相手が公爵令嬢と侯爵令嬢ではなかなか止める勇気はないようで、きょろきょろと視線を彷徨わせている。
(まあ、普通はそうなるわよね……私でもそうするもの。それにしても……この二人でも後方の座席なのね、意外だわ)
「やっと来たわね。……で、先ほどのあれは何なのかしら?」
長い金髪に指を絡ませながら、もったいぶったようにバーバラ様が問いかける。
クラウス様のエスコートのことだと見当はつくものの、正直彼がなぜあんな行動を取ったのか、私自身もよくわかっていない。
とはいっても、バーバラ様たちにとっては、私がクラウス様にエスコートされたということだけでもアウトなのだろう。
どう回答したものか、悩んでしまった結果、わざととぼけてみることにした。
「あれ、とは……?」
「まあ、白々しいこと。口にするのも嫌ですけれど……あなた、講堂にクラウス様とともにいらしたでしょう? それもクラウス様にエスコートされて!!」
「そうですわ!! いったいどういうことですの!?」
(やっぱりこうなるわよね~~~)
ヒートアップした彼女たちは、座席から勢いよく立ち上がり、私との距離を詰めて来る。
「ど、どういうことと言われましても……」
「おかしいじゃありませんか! あなたとクラウス様に接点などこれまでなかったでしょう?! それなのに……!!」
よほど悔しいのか、バーバラ様は私を睨みつけ、震えながらハンカチを握りしめている。
「いったいどこで親しくなったのです!? あなたみたいな地味で、成績しか取り柄のない冴えない下位貴族なんて、クラウス様には不釣り合いですわ!」
ミリアリア様も私を睨みつけながら、扇子の先を勢いよく突きつけて来る。
(これは何をどう言ったところで聞いてもらえそうな気がしないわ。このまま曖昧な態度を突き通すか、彼女たちの自尊心を利用して回避するか……どっちが良いかなあ?)
「だいたい、クラウス様にエスコートされるなんて……!! どうせあなたのことだから、クラウス様を押しのけて首席を取ったからエスコートして欲しいとかなんとか、クラウス様に無理強いしたのでしょう!? そうに違いありませんわ!!」
「しゅ、首席を理由に無理強い……!?」
目に涙を浮かべて訴えるバーバラ様に驚いて、黙っているつもりがつい反応してしまう。
「わざとらしい。きっとそうに違いありませんわ!! バーバラ様!」
「あ、あの……!」
「……なんですの? 言いたいことがあるのであれば、おっしゃったら?」
いかにも高位の貴族令嬢らしい上から目線の「仕方ないから聞いてあげるわ」と言わんばかりの態度。
(ああもう、正直イライラする~! でもダメよ、これを敵に回したら厄介極まりないわ。とはいえ、この自尊心は使えそうね……?)
なるべく憐れんでもらえるよう、私は分を弁えた体を装い、二人の自尊心を利用して乗り切ることにした。
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