クラウスの優しさ
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今回は少し短めですが、楽しんでいただけますと幸いです。
「私のような地味で取り柄のない下位貴族が釣り合うだなんて思っていませんし、そんな分不相応なことは考えていません」
「そう。で? どういった経緯でクラウス様にエスコートされたのかしら?」
「今朝、学園に登校してすぐ、馬車降り場でお恥ずかしながら妹が癇癪を起しまして……」
「そういえば、先ほども講堂で騒いでいましたわね。たしか、ベイリー子爵家では孤児院から養子を迎えられたのでしたわね」
さすが腐っても公爵令嬢。
他の貴族の事情をちゃんと仕入れて覚えている。
うちは没落寸前から回復したり、突出したことがここ十年位続いているのもあるかもしれないが……。
「はい。それが癇癪を起こした妹です」
「で、その妹さんの癇癪とクラウス様のエスコートとどう関係があるのかしら?」
バーバラ様とミリアリア様がさらに一歩足を前に詰める。
「癇癪を起こしてどうしようもなくなったところを妹君のエリザベス様に救われまして……けれど、エリザベス様は王太子殿下とお約束があり、お兄様に私たち姉妹を託されたのです。その後も妹が何度か癇癪を起こしかけ、その都度クラウス様が止めてくださって……きっと私のことを哀れな姉を思われたのでしょう」
「……なるほど。癇癪持ちで厄介な元平民の妹を持つ姉をクラウス様が哀れに思い、夢を見せてくださったと……?」
「はい……。クラウス様はお優しいですから」
「お優しい……?」
そう言ったまま、バーバラ様は目を見開いて固まる。
(私何か地雷踏み抜いちゃった?? あ、そうか! クラウス様は『氷の令息』と呼ばれる方! 優しいわけがない!! 間違えた! どうしよう!?)
ところが、次の瞬間、バーバラ様は私の両肩にガシッと掴みかかる。
「そうなのよ!! そうなのです!! クラウス様はとってもお優しい方なのですわ!! 身分など関係なく困った人には手を差し伸べられるお優しい方!! あなたのような下位の者でも、苦労をしている人間を見たら癒したいと思ってしまわれる方なのですわ!!! 他の方は皆クールな、冷静沈着な彼がカッコイイとおっしゃるのですけれど……いえ、もちろんそんなところも素敵なのですけれど、ごくまれに見せるその優しさにこそ、クラウス様本来の素晴らしさが見えると思いますの!! まさか学園でまでそんなことをなさっているだなんて~~~!!! やっぱり素敵ですわ!!!!」
私の肩を掴んだまま捲し立てるように喋るバーバラ様に、思わず引いてしまう。
(え!? まさか、そっち!? そう受け取るの!? いやでも、これは使えるかも)
けれど、なぜかミリアリア様をはじめ、他の令嬢たちは引いている様子がない。
それどころか、「その通りですわ!」と嬉しそうに同調している。
(なんだかファンクラブ的な感覚に近いような……)
不思議な光景に少し引きつつ目を瞬いていると、何かを納得したようにバーバラ様が頷いた。
「わかりましたわ。あれは、クラウス様の同情、彼の優しさからくる労いだったわけですわね」
「は、はい。たぶんそのようなことなのだと思います……」
同情……実際にもそうだったのかもしれない。
いや、むしろ、それ以外の理由が思い浮かばない。
そうとしか思えないのに……なぜか胸の辺りがモヤモヤしてしまう。
「そう。では、クラウス様の優しさにわたくしたちが口を挟むのは、あの方のせっかくの行為を無下にしてしまいますわね」
「そうですわね、バーバラ様。……それにしても、ベイリー嬢は幸運ですわね」
先ほどの詰め寄りとは異なり、まるで私を羨むようにミリアリア様が広げた扇子から目元だけを見せる。
「本当にそう思いますわ。まず、エリザベス様が助けに入ってくださるだなんて、なかなかそうありませんもの」
「クラウス様は殊の外エリザベス様を大事にされていますから、そのエリザベス様から託されたあなたに優しくされたのかもしれませんわね」
ようやく納得してくれたようだけれど、二人の視線がとても痛い。
まるで、「クラウス様があなたを助けたのは、あくまでも同情ですもの。幸運で良かったですわね」と私に言い聞かせるような態度だ。
(わかってますとも……わかっているけど……)
なんだか胸の辺りがざわついて仕方がなかった。
解放され私が席に着いた頃、会話の元凶であるクラウス様が生徒会の用事を終え、教室へと入ってきた。
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