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モブの葛藤①

評価やブックマーク、ありがとうございます!

楽しんでいただけますと幸いです。

 教室の入口付近から女子生徒の騒ぐ声が聞こえて、そちらを向くと、クラウス様の姿が見えた。

 いつも通り、彼の周りには女子生徒が群がっている。

 その中には、去年クラスメイトではなかった令嬢の姿もあった。

 きっとクラウス様と同じクラスになりたくて、一生懸命勉強に励んだのだろう。


(相変わらずおモテになることで……)


 けれど、当のクラウス様はそれを気にすることなく素通りして、座席に真っ直ぐ向かってくる。

 座席は成績順なので、私の隣の席には【クラウス・シェラード】の文字が浮かんでいるから。

 その文字をたしかめていると、近づいてきたクラウス様と目が合った。


「カトリーナ嬢、また隣ですね。よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 他の生徒からは見えない角度で、クラウス様が私に笑顔を向けながら着席する。


(なぜ私にそんなサービスを!? もしかしてこれも同情の一環だったりする? そういえば、進級試験の日もこうやって笑顔で挨拶されたような……)


 あの時はモブの私に話しかけてくるなんて思ってなかった上に、『氷の貴公子』という認識しかなかったから、驚いただけで特に何も考えなかった。

 一年の頃は話したことすらなかったのに、進級試験の結果発表の時も、今朝も、本当になぜ絡んでくるのか。

 いったいクラウス様は何を考えていらっしゃるのか、わからない。


 ただ、どれだけ優しくされても、どれだけカッコ良くても、あの人は悪役令嬢エリザベスの兄。

 ソフィアが接点を持つことで、我が家を破滅へと導くキーパーソンになるかもしれない人物なのだ。


(クラウス様の話だとクラウス様と王太子殿下は従兄弟で、幼馴染。それに今は殿下の側近のような立場みたいだし、今朝見た感じだと、エリザベス様とも仲が良い……)


 私が深く関わることはあり得ないし、あってはならない存在。

 破滅を回避するために、私はこれからもずっとモブで居続けなければならないのに……。


 そんなことを考えていると、なぜかまた胸の辺りにモヤモヤしたものがうごめいた。


「カトリーナ嬢? 思い詰めた顔をして、何かありましたか?」

「い、いえ、何もありませんわ!」


 声を掛けられ我に返ると、ブルーサファイアの瞳がこちらを見つめていて、驚いて思わず声に力が入ってしまう。

 そろそろちゃんとモブの距離を戻らなくてはと思っているのに、こんなのを続けられたら身が持たない。

 それに、クラウス様が私に好意を持っているのではないかと、あり得ない勘違いをしてしまいそうになって困る。


 なんとかクラウス様の興味を私から逸らさなくては……。


 心配そうにこちらを見つめるクラウス様に「大丈夫ですわ……」と苦笑いをしながら告げたところで、担任のラウレンツ先生が入室してきた。

 騒がしかった教室が一気に静まり、全員が着席を見届けると、ラウレンツ先生は二年次の概要説明を三十分ほど行った後、そのまま担当教科の授業を始めた。





 チャイムが響き、先生が授業の終わりを告げて退室していくのを見届てから、私は急ぎ荷物をまとめる。


(急いで一年生の教室に行かないと、ソフィアが動き出しているかもしれないわ!!)


 一年生は入学式の後、午前中の授業時間を使って長めのガイダンスが行われ、午後の授業がない。

 つまり、このお昼休みの始まりのチャイムで自由になってしまう。

 誰かに声をかけられたような気がしたけれど、構っている余裕のない私は、一目散に一年生の教室へと向かった。




(来てみて正解だったわ……)


 Aクラスの教室に入ろうとして、弾き飛ばされ憤慨しているソフィアの姿を目撃してしまう。


「ちょっと、なんでわたしが弾き飛ばされなきゃいけないのよ!! おかしいじゃない!!」


 他の生徒たちは、学園の当たり前のシステムを知らないのかと、奇異の目をソフィアに向けている。

 わかりきっていたことだけれど、やはりソフィアはAクラスではなかったらしい。


「ソフィア!? あなたいったい何をしているの!?」

「お、お姉様!? なんでお姉様がここに……それより魔法がかかってて教室に入れないのよ!! なんでよ!! これじゃあオスカー様を攻略できないじゃない!! なんとかしてよ!!!」


 ソフィアが大声で騒ぐのに比例して、周りの観衆が増えていく。

 口々にソフィアのことをコソコソと話している声が聞こえる。


(マズイ……このままじゃ我が家の評判が下がってしまうわ……なんとかしてこの場からソフィアを引き離さないと)


 ソフィアの腕を引っ張り、Aクラスから離そうと試みる。


「とにかく、ここじゃ目立つわ。一旦こちらにいらっしゃい!」

「嫌よ! わたしは殿下に用事があるの!! なんでお姉様に邪魔されなくちゃいけないのよ!! それにあの悪役令嬢にも話があるのよ! だから、放して!!」


 さらに凄い剣幕でソフィアの声に、先ほどよりも人が集まってしまう。


(ダメだわ……このままじゃ埒があかない。かくなる上は……)

お読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思っていただけましたなら、ブックマーク登録や下の☆☆☆☆☆にて評価していただけると嬉しいです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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