発表の朝
私の試験から二週間後、ついに発表の日。
入試も進級試験も同日に発表される。
入試のほうは親たちにも魔法便が届くらしい。
(自宅に届くならまだしも、親に直届きするとか……。去年は特に何も考えなかったけど、ギリギリラインなら嫌すぎるわね)
ソフィアはさぞかし動揺しているだろうと思いながら食堂へと向かうと、まだ来ておらず、席に着いてしばらくしてから姿を見せた。
「おはようございます。お姉様」
けれど、ソフィアは清々しい笑顔で挨拶を告げる。
(え!? あんなに癇癪起こしてたのに、なんで完全に普通に戻ってるの!?)
動揺のあまりすぐに返事ができずにいると、ソフィアに首を傾げられた。
「あらお姉様、どうなさったの?」
「……い、いえ。なんでもないわ。おはよう、ソフィア」
「そう?」
(ソフィアが私を気遣う言葉を、しかもちゃんとした言葉遣いで喋ってる……!?)
普通どころか異常な反応に、私のみならずお父様やお母様までも固まっている。
一体引きこもっている二週間の間に何があったの?
お父様たちも同じことを思ったのだろう。三人で探り合うように目線を合わせて頷く。
「ソフィアが姿を見せるのは久しぶりだね。部屋に篭ってばかりいたから心配していたんだよ。体調は大丈夫かい?」
お父様が優しく心配するように探りを入れると、先ほどの優雅さを保ったまま、ソフィアは口を開いた。
「はい。ご心配をおかけしましたが、もう大丈夫です。発表までにはなんとかなりましたから……!」
力強く言い切って優雅に微笑む。
(なんとかなりましたから?? 一体何がなんとかなったのかしら……)
「そうか……それならばいいんだが。……まあ、もし学園に入れなかったとしても、これまで通り屋敷で家庭教師に学べばいい」
(お父様は発表までに気持ちの整理がついたと解釈したのね。でも……この笑みはそんな理由ではないと思うのよね)
「まあ、お父様! わたしが合格しないなんてありえないわ! だってわたしはこの世界のヒロインなんですもの!」
「そ、そうか……」
「ソフィア……」
言い切るソフィアを両親は可哀想な目で見ている。
(見事におバカな子を可愛がる感じになってるわね……。単なるおバカじゃないところがタチが悪いのよ)
「数日前は落ち込んで癇癪まで起こしていたのに、部屋に籠っている間に何かあったのかしら?」
「カトリーナ! せっかく前向きになったんだ。そんなこと言うものじゃない」
小声でお父様が叱責してくるけれど、距離的にソフィアにも聞こえているはず。
隣のソフィアを見ると、まるで気にする様子はない。
それどころか、自信に満ちた表情で口を開いた。
「ええ。とっっっても良いことを思い出しましたの!」
「そう、それは——」
「でも今は言えません。まずは発表を見に学園に行かなくちゃ!」
急にいつもの口調に戻ったソフィアは、その勢いのまま席を立ち、食堂を出て行った。
「あ! ソフィア!」
(「思い出した」ってどういうことかしら……)
しかもあの慌てぶり——もしかして!
発表日にも何かイベントがある……?
(だとしたら止めなきゃ!!)
「私もそろそろ行きますわ」
「ああ。気をつけてな」
「カトリーナの心配はしていませんが、何かあればすぐに知らせを寄越すのですよ」
「はい。行って参ります」
急ぎ玄関ホールへ向かうと、今まさに馬車に乗ろうとするソフィアに遭遇した。
私に気づいた御者がホッとした表情になる。
(さては、一人で行こうとしていたのね……まったく)
「お姉様、乗るなら早くして! 間に合わなくなるじゃない!!」
乗り込む足を止め叫ぶソフィアに促され、馬車に乗り込んだ。
馬車の中では終始借りてきた猫のようにおとなしいソフィアを不審に思いつつ、十五分ほどで学園に到着した。
◆◆◆
学園に着くと、早い時間にもかかわらず、校門側にある馬車寄せは大変な混雑だった。
御者に馬車を任せ、私とソフィアは馬車を降りて発表場所へと向かう。
当然ながら入試の合格発表と進級試験の発表場所は異なっていた。
合格発表は校門を入って右手奥にあるホール前の大きな掲示板で、進級試験の結果は中庭で発表される。
(去年はドキドキしながらニナを連れてホール前に向かったわね……)
まずはソフィアの結果を見るため、ホール前に向かおうとした途端、なぜか腕を引っ張られた。
「え、ちょっとソフィア、どうしたの?」
私の腕を掴んで離そうとしないソフィアの足は、なぜか中庭の方に向かおうとしている。
「あなたの結果が先よ? 結果次第では手続きが必要なのだから」
「だからこそ、お姉様が先よ! どうせわたしが手続きしてる最中に一人で見に行くつもりでしょ? そうはさせないんだから!」
どうやら自分は合格する気満々で、私が一人で見て、適当に成績上位だったと嘘をつくと思っているようだ。
前世みたいにスマホで写真を撮って……というわけにはいかないから、証拠を出せと言われたら、結局またソフィアと二人で見に行くことになる。
実際、入試は首席と次席以外の順位は公表されず、自己採点でこの辺りかなと目星をつける程度。
けれど、進級試験に関しては、クラス分けを兼ねている関係で、成績順に名前が載るという残酷極まりない仕様になっているらしい。
実際のクラス分けは、この順位に普段の成績が加わるから多少変わるものの、ボーダーラインの生徒は気が気ではない。
正直他人事ではないのだけれど、今回は上位を狙って挑んだので、他人事だと思いたい。
そんな思いとは関係なく、私はソフィアに引きずられるように中庭まで連れて行かれた。
中庭に着くと、まだ時間が早いからか人は少ないものの、制服姿の生徒と数名の保護者たちが中庭に立てられた掲示板を眺めていた。
「さあ、お姉様着いたわよ!」
「え、ええ……」
言いながら、ソフィアは最下位付近の掲示を見ている。
(さすがに元々Aクラスの私がそこにいたら、大問題だと思うんだけど……)
私の学年は、一クラス三十人の五クラスで、百五十人ほどが在籍している。
ソフィアが下からたどって百番付近にたどり着いた頃、急に後ろから声をかけられた。
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