◇焦り(クラウス視点)
告白のクラウス視点のお話になります。
カトリーナが王宮に召喚されたと知って、大慌てです。
楽しんでいただけますと幸いです。
あの事件以来、どうやら私はカトリーナ嬢に避けられているらしい。
私が殿下はもちろん、彼女を守りきれなかったことが原因だろうか。
むしろ私は、彼女に守ってもらったのだから、情けないにもほどがある。
あの義妹のことをもっと警戒していれば……そう思わずにいられない。
まさか暴走して、闇属性の使い手になろうとは。
私の読みが甘すぎた結果だ。
そのせいで、恐れていたことが現実に――カトリーナ嬢の光属性までもが公になることになってしまった。
悔やんでも悔やみきれない。
光属性の発現者は、王族と婚姻を結ぶか、神殿に入ることになると、昔、家庭教師から聞いていた。
詳しい理由はわからないが、希少な属性を王家が管理するためだということだけはわかる。
公になる前に婚約者として囲っておけば、筆頭公爵家の我が家であればなんとかできると思っていたのに……まさか囲い込む前に公になってしまうだなんて。
「やはりもっと早くに行動に出ておくべきでした……」
王族との婚姻は、同世代がオスカーしかいない上、筆頭公爵の令嬢を蔑ろにできるわけはないので、ありえない。
やはり神殿預かりになるのが妥当だろう。
神殿預かりになれば、結婚などできない。
それどころか、学園を卒業したら、会うことも簡単にはできなくなってしまう。
「身分違いとかそんなことを言っている場合ではなさそうですね……今を逃せばもう手の届かないところへ行ってしまう」
自分は筆頭公爵家の嫡男。
彼女を選ぶということは、家を捨てることになるかもしれない。
それでも……
「私には、カトリーナだけなのです……」
彼女の元に召喚状が届いたことを知った私は、日程を調べ、その日、王宮へと赴くことにした。
◆
謁見室ではなく、応接室で通されたと知り、焦りが募る。
人数を制限して込み入った話をする必要があるからだろう。
途中、鑑定用の魔石板が持ち込まれ、部屋の窓からは凄まじい光が漏れていた。
(ああ……光属性の鑑定が確定したのですね……これでもう、曖昧にして逃すこともできなくなってしまった……)
彼女が神殿に行ってしまう。
(私はもう、諦めるしかないのか……)
落胆しつつも、最後に彼女の顔だけでも、声だけでも聞いてから……そんな女々しい感情を抱きながら、彼女が出てくるのを待つ。
それから数分後、両親に支えられながら、彼女が出てきた。
(少しだけでも話がしたい。私にわずかでもチャンスがもしもあるなら……)
思いが急いて、「お借りしても」などと言ってしまったけれど、これで話ができるなら……そう思って彼女の様子を覗き込んだ。
――その途端、私の理性はどこかへ吹き飛んでしまった。
いつもとは違い、下ろした髪を乱しながら泣きじゃくる彼女を見て、私の心は憤った。
これまでこんなふうに泣く彼女は見たことがないし、報告でも聞いたことがなかった。
やはり神殿に行くことが決まってしまったのだろう……その上、陞爵もなくなったに違いない。
彼女がこれまで積み上げてきたものを踏み躙られたのだ。
苛立ちと苦しみで、胸が張り裂けそうになるけれど、一番苦しいのはカトリーナ嬢だろう。
とにかく、少し落ち着いて彼女と話をしよう。
私は泣きじゃくる彼女を人目のあまりつかない四阿へと連れ出した。
急ぎ用意させたお茶を渡すと、すぐに飲み干し、少し落ち着いたのか、私にお礼の言葉を述べる。
その表情がまた切なげで、私の胸を締め付けた。
(やはりどこにも行かせたくない。誰にも渡したくない……!)
強い気持ちが私を奮い立たせ、気づけば捲し立てていた。
「――先日あなたは、光属性魔法に目覚められ、私や殿下を救ってくださいました。けれど、光属性魔法の発現者は、王族と婚姻を結ぶか、神殿に仕えるか、どちらかになることがほとんどです。殿下はすでにエリザベスがいるので、王族との婚姻は難しい。となると、あなたは神殿に行ってしまう! けれど……それが運命なのだとしても、私はあなたに神殿には入ってほしくない!!」
「……え?」
私の言葉に驚いた彼女が目を見開く。
その驚きに、私などそもそも眼中になかったのだと思い知らされる。
けれど、ここまで来て、引くわけにはいかない。
「…………あなたには私のそばに、……いえ、私とともに居てほしいのです」
「……どう……して?」
またもや不思議そうに揺れる瞳に、惑った私の姿が映り込む。
ここで決めるしかない。
私はカトリーナ嬢の足元に跪き、そっと彼女の手を取り、その揺れる瞳をじっと見つめる。
「私が……あなたのことをお慕いしているからです。カトリーナ嬢」
なるべく怖がらせないよう、誤解を招かないよう、ハッキリと優しく伝えたつもりだった。
ところが私の告白を聞いたカトリーナ嬢は、再び大粒の涙を流し、魚のように口をハクハクと動かしたまま、返事がない。
(やはり……ダメだったか……)
愕然とその場に項垂れるしかない。
そんな私の袖を彼女が心配そうにクイクイと引っ張る。
それはどういう意味なのか……。
顔を上げてその真意を確かめようにも、彼女は私と目を合わせた途端、顔を真っ赤にして、目を回す。
そして、そのまま気絶してしまった。
「カトリーナ嬢!?」
(これは……どう判断すべきなのでしょうか? ですが、私と目が合って赤面したということは、もしかして……?)
神殿行きが盛大な勘違いだったと私が知るのは、その数時間後のことだった。
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