陞爵、そして――
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王宮に召喚されてから二ヶ月後。
ベイリー子爵家は、ついにベイリー伯爵家に陞爵した。
叙爵式には、家族で出席して、その後の夜会にも参加したのだけれど、高位貴族としてのマナーが難しいらしく、お父様とお母様は苦戦していた。
あの叙爵式以来、なぜか私がお父様たちにマナーを教えていたりするけれど、なんとか形になりつつあって、ほっとしている。
そんなことよりも……
夜会にはダンスがつきもので……あの日、私はクラウス様と踊ることになったのだ。
家族で参加したのでパートナーはおらず、踊らないつもりで壁際に立っていたのに、気づけばクラウス様が隣にいた。
王宮で気絶して以来、まだお返事ができていないにもかかわらず、特に急かす様子もなく、それどころか以前にも増して距離が近くなったような気がして、ざわめきが止まらない。
しかも、正装を纏ったクラウス様を直視できず、火照る顔を押さえながらも、気絶しないように懸命に気を張っていたのだけれど、そんな私を終始楽しそうに見つめていた。
結局一曲だけ踊ったのだけど、夢見心地すぎて、ぼーっとしていたら終わっていて、ほとんど覚えていないという体たらく……。
(ああもう、恋愛免疫無さすぎるにもほどがある!! ほんともう、どうにかしてーーー!!)
クラウス様にちゃんと直接お返事を言えるのが先か、それとも彼に外堀をすべて埋められるのが先か……。
たとえ後者になったとしても、なかなか言えずに困る私を、悪戯な笑みを浮かべながら楽しそうに見つめるクラウス様が目に浮かんでしまう。
(できれば外堀を埋められる前になんとか……でも、耐性ってどうやったら身につくの!?)
一方、メント事業については、伯爵家に格上げしたこともあり、さらに軌道に乗っている。
マーク曰く、現状の売れ行きを考えると、メント茶はさらなる量産も視野に入れておいたほうがいいらしい。
王妃殿下やシェラード公爵夫人がお茶会の度に広めてくださっているらしく、メント茶の人気が上がり続けているそうだ。
そして、メントを使った香料も、現在フォーレル博士とともに鋭意製作中。
次の社交界の時期までには、試作品が出来上がる予定だ。
全てが順調で、充実した毎日。
その中で、ふと思うのは、ソフィアのことだ。
あの暴走した日、最後に彼女が放った闇属性魔法を抑え込むため、私は咄嗟のことに強力な光属性魔法を使った。
それが原因かはわからないけれど、闇属性魔法を使っている間の記憶はおろか、殿下を狙っていた記憶さえ消し去ってしまったらしい。
宮廷魔法士の分析によると、最後に放たれた闇属性魔法は、ソフィアの負の感情や欲望を動力源としていたようで、それが光属性魔法によって相殺されたことで、霧散してしまったのではないかとのことだった。
つまり、私が前世の記憶持ちだと告げたことも忘れてしまったのだ。
もっと早くに私が転生者であることを告げていたら、もしかしたら違う未来があったのだろうか。
こんなことを思うのは、先日ソフィアの刑が確定したからだろうか。
まああの子のことだから、私の話をちゃんと聞いてくれたかどうかはわからないけれど……。
とはいえ、記憶がなくても、拘束されてからもやはり彼女の自分本位な性格は変わらなかったそうで、結局ソフィアは、一生離島にある修道院預かりとなったらしい。
強い闇属性魔力を行使し続けたせいで、ソフィアの魔力は枯渇し、今や魔法はおろか、魔力自体もなくなってしまったらしく、魔力搾取や労働付きの修道院にはならなかったそうだ。
乙女ゲームに固執した彼女の心はいつか救われるといいなと願う。
「さて、今日もメント事業の打ち合わせに行くとしましょうか。ニナ、準備はできているかしら?」
「はい。問題なく」
「そう。では、行きましょう」
私にだけ優しい笑顔を見せるあの人に会いに、馬車に乗り込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
こちらで本編は完結になります。
また番外編でエリザベスのお茶会や公爵夫人のお話などを書く予定ですので、もうしばらくお付き合いいただけますと幸いです。
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