ソフィアとカトリーナ
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様子を伺いながらゆっくりと目を開ける。
目の前にモヤが迫っていたはずなのに、特に身体に異常はない。
それどころか、目の前には大きな影ができているだけだった。
「え……?」
これは……?と思った途端、何か重たいものが身体に覆い被さってきた。
被さったものに触れると温かくて、その温もりには覚えがある。
「……クラウス様!!!!」
ぐったりと私に覆い被さったまま、クラウス様は意識を失っていた。
「クラウス様、しっかりしてください!! クラウス様!!!」
呼びかけても全く反応がない。
(まさかクラウス様が、私を庇って……嘘、そんな……!?)
「クラウス様!! クラウス様…………そんな……嘘でしょ!? クラウス様!!!!」
動かないクラウス様の手を握る。
かろうじて呼吸はあるものの、かなり浅い。
心なしか、だんだん冷たくなっている気がする。
(どうしよう!? なんとかしなくちゃ!! このままだとクラウス様が……!! でも、どうやって……)
クラウス様に渦巻いているモヤは、最初に見た時よりも明らかに濃くなっている。
その上、手の痣は凄まじい速度で全身に向かって広がっていた。
(このままじゃ……でも、私は治癒魔法も光属性魔法も使えないし、誰かに助けを求めるしか……)
不安と焦りで押しつぶされそうになっていると、モヤの先から楽しそうな声が聞こえてきた。
「あーあ、残念。まさか身を挺してお姉様を守るだなんて……。まあ、おかげでオスカー様を攻略できるからいいけど。お姉様もたまには役に立つじゃない。どうせその男を救いたいんでしょ? 今なら見逃してあげるから、さっさとここから消えて!!」
そう言い放つと、ソフィアは殿下の元へ向かおうとする。
(クラウス様は殿下を守ろうとした……だけど、殿下を守らなきゃいけないのに、私を庇ってソフィアの攻撃を受けて倒れた……私のせいで。だったら、私がクラウス様の代わりに殿下を守らなきゃ!!!!)
その瞬間、なぜか身体の中から魔力が込み上げてくるのがわかった。
心臓が痛いくらいに速くなる。
そして、身体から白い光がじわじわ湧き上がり、キラキラと眩く光り始めた。
「え? ええ!? 何!? なんなの!?」
何が起きているのかわからないのに、不思議と何を言えばいいかだけはわかる。
胸に手を当て、立ち上がり、その言葉を唱えた。
【クリア】
すると、私を中心に、ものすごい勢いで辺り一帯にキラキラと光が広がった。
身体の中から魔力が一気に放出されていくのがわかる。
けれど、その光に浄化され、一帯のモヤが晴れていく。
そしてそれは、ソフィアにも届き――
「え!? どういうこと!? なんでお姉様がその魔法を!? いつもいつもわたしの邪魔ばっかりして……モブなんだから大人しくしてなさいよ!!!!」
王太子殿下に向かっていたはずのソフィアが行き先を変え、凄い形相でこちらに向かってくる。
「なんでお姉様が光属性魔法に目覚めてるのよ!! それはヒロインであるわたしの魔法なのよ!! モブのあんたに必要ないでしょ! 返しなさいよ!!」
あまりにも身勝手な言い分に、呆れてものが言えない。
私は身体に光を帯びたまま、急ぎソフィアのところへ向かう。
「ソフィア、いい加減にしなさい。ヒロインごっこはここまでよ」
込み上げてくる怒りに、思わず手のひらをきつく握りしめる。
「な、何よ! そんな光をキラキラさせちゃって、それも全部元々わたしの、ヒロインの」
ソフィアの言葉を遮り、私は右手で彼女の頬を思いっきり引っ叩いた。
廊下に「パァン」と、とても良い音が響き渡る。
叩かれた頬を押さえ、一瞬呆然としたものの、ソフィアに怯む様子はなく、私に向かって手のひらを振り翳した。
「遅いわよ。私に敵うと思っているの?」
ソフィアの平手打ちを躱し、そのまま腕を捻り上げる。
「い、痛い!! 痛いわよ!! 放してっ!!!」
悲鳴を上げながらも私を睨むことは忘れない。
「ソフィア、あなたね……本当にいい加減にしなさい!」
「放しなさいよ!! 放さないなら、また魔法であんたなんかすぐに倒してやるわ!! そこで倒れてるクラウスも一緒にね!!」
【クリ――】
急ぎ押さえているのとは反対の手で、ソフィアの口を塞ぐ。
「やめなさい! あなたのその魔法は、光属性ではなく、闇属性魔法よ! この国では禁忌とされている魔法なのよ!!」
「んん!! ゔんゔう!!」
口を塞がれた状態で、違うと訴えているんだろうけれど、あの黒いモヤはどう考えても闇属性魔法だ。
(どうして闇属性魔法を使えるようになったのか、ちゃんと調べなきゃいけないわね……)
口を塞がれたままもがもがとまだ足掻き続けるソフィアを拘束するため、土属性魔法を発動する。
廊下の床の大理石が変化し、ソフィアを拘束した。
魔法を使われては困るので、持っていたハンカチを使って口を塞いだ。
ひと仕事終えて、思わず大きく息を吐いた。
「ふぅ……」
ようやく大人しくなったソフィアだが、その目はまだまだ敵意で溢れていた。
じっとその目を見据え、目線を合わせて現実を突きつける。
「ソフィア、あなたに良いことを教えてあげるわ。この世界はね、あなたが言っている乙女ゲームの世界じゃなくて、それを元にした悪役令嬢が主人公のライトノベルの世界なの。あなたはヒロインはヒロインでも、悪役令嬢にざまぁされるヒロインよ」
「…………んん!? ゔんん、んん、んう!!!」
ソフィアは一瞬赤い瞳を見開いてから、そんなわけないと言いたげに私を睨みつける。
最初の驚きは私が転生者であることを知ったせいだろう。
「さあ、ヒロインごっこはもうこれで完全に終わりよ。ここまでやってしまったら、もう子爵令嬢ではいられないと思いなさい。あなたは罪人として裁かれるわ。覚悟しておくことね!」
自分がこの世界の主人公ではないことにショックを受けたのか、それとも罪人として裁かれることにショックを受けたのか、ソフィアは愕然とした表情になった後、俯き動かなくなった。
突然しおらしくなったソフィアに拘束していた魔法を少し緩める。
その瞬間、急にソフィアの身体がじわじわと黒いモヤに包まれ始めた。
「ソフィア……? え!? いったいどうなってるの!?」
沸いて来るモヤのあまりの速さと濃さに驚き、私は咄嗟に光属性魔法をかけた。
【クリア】
詠唱しながら速さと濃さに見合うべく、勢いよく魔力を込める。
すると、モヤをさらに包み込むように、ソフィアに向かって白い光が一気に広がる。
そのうち黒いモヤが光に相殺されるように、ゆっくりと消えていく。
白い光がモヤを消すたびに、キラキラと細かい光が飛び散り、辺りに舞っていった。
しばらくして、モヤはすべて消え去り、意識を失った状態のソフィアが姿を現した。
「お、終わった……」
これですべて終わった。
きっと我が家の陞爵話も消えてしまうだろう。
これまでの苦労が、すべて無駄になってしまった。
それに……
「ん……ゔう……」
背後から男性の息づく声が聞こえ、慌てて駆け寄る。
「クラウス様!! 気がつかれましたか!?」
声をかけながら支えると、ゆっくりとクラウス様の瞳が開く。
「……カト、リーナ……嬢……」
名前を呼ばれただけで、胸が強く締め付けられる。
(私……やっぱり、クラウス様のことが好きなのね……だけどもう……)
彼が無事に目覚めたのに、どんな顔で笑えばいいのかわからなかった。
お読みいただきありがとうございます。
ようやくタイトル回収できました!思ったよりソフィアが粘って大変でした。
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