魔道具と公爵家
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歓迎会から帰宅すると、領地にいるお父様から知らせが届いていた。
どうやらフォーレル博士と共にメントの栽培に成功したらしい。
昨日の今日で?と一瞬首を傾げたけれど、どうやらフォーレル博士の成長促進魔法で栽培を行い、一日で成果をあげたようだ。
これでメントの栽培・生産の目処が立った。
商会にもきちんと生産が確定した状態で話に持っていける。
「それにしても、凄いタイミングの良さね……ふふ」
驚きつつも、きっと博士が狙ったのだろうと笑ってしまう。
でもおかげで公爵家との話に確実な形で持っていけそうだ。
「さあ、明日公爵家に持っていくものを準備しないと。ニナ、手伝ってちょうだい」
「はい、お嬢様」
「メントをいくらか持っていきておいて正解だったわ。これからもっと必要かもしれないわね。ニナ、一応領地に連絡して、追加を送ってもらっておいて」
「かしこまりました」
「あとは、明日何を着て行くかね……」
ニナと二人、目を合わせて息を呑む。
相手は筆頭公爵家。
相応のドレスを着ていかないと失礼になってしまう。
(とはいえ、あまりオシャレに興味がなかったから、そんなに多くは持っていないのよね……まさかここに来て必要になるなんて誰が思うのよ!?)
「そこが一番重要でございますよ、お嬢様」
「やっぱりそうよね……お母様にも相談してみましょう」
「それがよろしいかと思います」
とにかくお母様に相談してドレスを貸してもらおうと、部屋を出た。
すると廊下で、ソフィアに遭遇する。
「ソフィア……あなた、大丈夫なの?」
「…………」
こちらを一瞥したかと思うと、そのままフイっと視線を逸らし、そのまま下の階へ降りていった。
「え? 今私、無視された……?」
どうやら先日無理矢理連れ帰ったのをいまだに根に持っているらしい。
ただ、あの日よりも顔色が悪いことが気になった。
(部屋にずっと篭っていたら、顔色も悪くなるのかしら? でも、学校に行っていないということは、王太子殿下の攻略はもうあきらめた!? だとしたら、もう破滅に怯えなくてもよくなるってことね! やっぱりメントとあの子の不登校でプラマイゼロかあ……)
そんなことを考えながらお母様を探したけれど、なぜかお母様は掴まらず、結局、晩餐の時にドレスの相談をすることにした。
ところが、相談した途端、お母様は不思議そうに私を見たまま首を傾げる。
「……ねえ、カトリーナ。あなた明日は学園から直接向かうのではなくて?」
「あああああああああ~~~~!」
思わず淑女らしからぬ叫び声をあげてしまう。
どうやらテンパって色々抜けてしまっていたらしい。
お母様に「あなたにも可愛らしいところがあるのね~」とさんざん笑われてしまった。
(ニナも、もう、気づいてよぉ〜〜〜〜!!)
そして、ソフィアはというと……
誰とも口を聞かず、私のドレス話にも食いつくことなく、ただ静かに食事をして部屋に戻っていった。
私とお母様は顔を見合わせ、盛大なため息をついた。
(まったくもって、嫌な予感しかしないわ……)
◆
翌朝。
ソフィアはまだ万全ではないらしく、今日も欠席するらしい。
そこで、没落など関係なく、ソフィアの欠席にホッとしている自分に気づく。
(あの子が学校に来て、今の私の状況を知ったらどうなるのか、考えただけで怖すぎるもの……)
今日は特に放課後シェラード公爵家に行く予定で、それを知られたらと思うと頭が痛い。
いつ復帰するかまだわからないけれど、問題を起こさないことを願うばかりだ。
いつも通り馬車で学園に向かい、馭者に今日は迎えが要らない旨を伝える。
公爵邸からの帰りに必要になれば、また連絡すればいい。
教室に入り、いつも通りに授業を受ける。
放課後が待ち遠しくて仕方ない気持ちを抑えていると、昼休みに隣の席からクラウス様に声を掛けられた。
「先ほど、うちの者がお荷物を運び込んだとの連絡がありました。問題ないようです。放課後、よろしくお願いしますね」
(連絡……? この世界ってスマホないよね? それに校内は基本的に魔法は禁止だし……)
不思議に思ってクラウス様の手元を見ると、小型の魔道具が光っている。
「その魔道具は……」
「ああ、これは連絡用の魔道具です。今日はお荷物のことがありましたので、少し心配で……許可を取りました。普段は魔道具ではなく、魔法を使うのですが、使用人だと魔道具のほうが便利なので」
「わざわざありがとうございます。その魔道具……かなり精巧に作られていますね……」
興味を惹かれて、失礼に当たらない距離で手元を覗き込む。
魔道具は前世の腕時計の盤面ほどの小さな部分に、魔法陣のようなものがいくつも組み合わせて描かれていた。
「そうですね。このサイズの物はかなり珍しいと思います。うちのオリジナルになります。ちなみにこの魔道具も今日ご紹介する商会で取り扱っているんですよ」
「そうなのですね! あれ? うちのオリジナルということは……」
「そうです。私が設計して作らせました。ゆくゆくは領地の工場で量産したいと考えています」
「素晴らしいですわ……!」
(ずっと頭がいいとは思っていたけれど、クラウス様にまさかそんな才能まであったなんて……! なんで進級試験で私に負けたの!? 学力とこういう才能は別物なのかしら? でも、自分で考案したものを商品化している商会ってことは、かなり信用できる商会ってことよね)
感嘆のため息を漏らしながら考えていると、クラウス様が不思議そうな目で私を見る。
「いえいえ。カトリーナ嬢の発見のほうが素晴らしいじゃないですか! っと、ここで話さないほうがいいですね。では、また放課後に。授業が終わり次第、一緒に参りましょう」
「承知しましたわ」
そうして放課後、なぜか再びクラウス様にエスコートされ、公爵家の馬車の乗り込んだ。
もう視線なんて気にしていられない。
なぜなら……
(く、クラウス様の身体が以前より近い!! なんで!?)
ピッタリ腕を絡めて離してくれない。
あわあわしている間に馬車に乗り込み、気づけばシェラード公爵邸に到着していた。
「わあ……」
思わず感嘆の声が漏れる。
目の前にそびえる大きなお屋敷……いやもう、これは宮殿と言ってもいいかもしれない。
王宮よりは小さいけれど、ベイリー公爵領の領主館が犬小屋に見えるほどのサイズ感。
そして、門から本館までが遠い。さすが筆頭公爵家だ。
(王都邸でこの大きさって、領地のお屋敷はいったいどんなサイズなのかしら……いや、虚しくなるから考えるのは無しにしよう)
あまりの大きさに考えるのを放棄したくなってくる。
「さ、到着しましたよ」
そう言って先に馬車から降りたクラウス様が手を差し伸べてくれる。
(ああああ〜〜〜〜! 何この憧れのシチュエーション!? まさに王子様!! イケメンだからこそ似合うこのポーズ! 最高過ぎでは!?)
眩しさのあまり思わず目を塞ぎたくなってしまう。
そんなキラキラの王子様の後ろには、家令らしきロマンスグレーのおじ様が背筋を正して立っているのが見えた。
(キラキラ王子様にときめいている場合じゃなかった!! ちゃんとしなくちゃ!!)
「ありがとうございます」
少し恥ずかしいと思いつつも、クラウス様に恥をかかせるわけにはいかない。
その手を取り、クラウス様の腕に支えられながらゆっくりと馬車を降りた。
「ようこそ、シェラード公爵家へ」
クラウス様の声に合わせるように、並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。
まるで本当にお姫様になったような気分に、たまらなくなって無意識に口角が上がる。
そのままクラウス様を見上げると、笑顔を返してくれた。
その笑顔に、公爵家の皆さんが急にざわめきだす。
「ぼ、坊っちゃまが…………ま、満面の笑みを……」
どうやらクラウス様のこの笑顔は、公爵家の方から見てもおかしいらしい。
(最近私の前だとずっとこの笑顔なんだけど、なんで…………?)
考えた途端に、再び殿下の言葉が頭を過った。
『クラウスはカトリーナ嬢、君のことが好きだぞ?』
(ま、まさか、そんなわけ、ない……ないわ! ないはず……なのよ)
クラウス様の熱い視線を感じながら、屋敷の中へとエスコートされていく。
心の中は、戸惑いと驚きでいっぱいで、うるさく騒ぐ鼓動が腕から彼に伝わらないことを願った。
お読みいただきありがとうございます。
何気にオスカーの言葉がまるで呪縛のようにずっとカトリーナにつきまとってます。
回りくどいことばかりしているクラウスが悪いんですけどね……笑
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