戸惑い
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「楽しそうですね」
目が合った途端、クラウス様はなぜかほっとした様子で優しく微笑んだ。
「はい、とても。皆さん志が高くて、素敵ですわ」
「それは良かった。生徒会にお誘いした甲斐がありました」
自分のことのように嬉しそうなクラウス様に、思わず先ほどの殿下の言葉を思い出してしまう。
『クラウスはカトリーナ嬢、君のことが好きだぞ?』
そんなわけがあるはずないのに、そうかもしれないと思っただけで心臓の鼓動がうるさくなる。
(なんで『氷の貴公子』とか呼ばれているはずの人が、こんなに満面の笑顔を私に向けているの……勘違いしそうになるじゃない! だって、私を好きなら何で脅したりするの!? だから違うのよ!! 勘違いしちゃダメよ、カトリーナ!!)
誤魔化そうと必死に自分を取り繕う。
「どうかしましたか? 急に顔を赤くされて……やはり無理が祟っているのではないですか?」
そう言って、クラウス様が私の顔を覗き込む。
(近い近い近い、近いってば……!!)
自分でも頬がほんのりと熱を持っているのがわかる。
「だ、大丈夫です。ちょっと楽しくて火照っているだけですわ」
「そうですか?」
なおも心配そうにじっと私を見つめた後、クラウス様の手のひらが私の頬にそっと添えられた。
(わ、私の頬に、く、クラウス様の、手がああああああ〜〜〜!!!)
さらに心臓が激しく鼓動して、より顔に熱が集まっていく。
その上、さらに、熱でも測るかのように、彼の顔が近づいてくる。
「おや、やはり熱があるのではありませんか?」
(だから、近いってばああああああああああ〜〜〜!! しかも、公衆の面前ですからああああ〜〜〜!!!)
あまりの恥ずかしさに、今にも泣き出してしまいそうな情緒の中、懸命に自分を奮い立たせる。
「…………ほ、本当に大丈夫です」
「そうですか? 無理はなさらないでくださいね」
「……ありがとうございます」
クラウス様の手が離れて、気になってこっそり周りを見てみると、王太子殿下とエリザベス様は仲睦まじく楽しそうに会話を続けていて、向かいの三人組は、なぜか反対側を向いたまま、政治論だろうか、小難しそうな話で盛り上がっていた。
(な、なんとか他の方には注目されずに済んだのかしら……)
「ところで……今朝話されていた領地の話ですが、もし何かお困りで、私に手伝えることがあれば言ってください。仮にも筆頭公爵家の人間ですから、お役に立てることがあるのではないかと」
「……え?」
私の脳裏に、現状の一番の問題点である『販路』の文字が過る。
「そのお顔は、何かお困りのことがあるのですね。言ってみてください。もしかしたら、私で力になれるかもしれません」
(どうしよう!? 筆頭公爵家なら絶対大きな商会と繋がりがあるだろうし、食用関連のメントの加工とかも相談できるかもしれない。でも、そんなこと、ただのクラスメイトに頼むことじゃないし……ううぅ)
本当であれば、喉から手が出るほど頼りたい。
けれど、本来であれば私みたいな子爵令嬢が頼るどころか、知り合うこともできない相手。
そんな相手に頼って、もし迷惑をかけてしまったら……それこそ、取り返しのつかないことになってしまう。
「いえ、そんな、クラウス様のご迷惑になるようなこと……」
「迷惑ではないです。むしろ、何に困っているのか気になるので、話してくれなくては、今夜気になって眠れそうにありませんから、そちらのほうが迷惑ですね」
なぜか不敵な笑みを浮かべながら、無茶苦茶な論理を展開された。
(これ、話さないっていう選択肢なくない!?)
そうして、私は領地でので出来事を掻い摘んでクラウス様に話してしまった。
「――なるほど。メントですか……絶滅種の薬草となると、かなり込み入った話になりそうですね」
「!? そうですよね……」
聞かれたからと言ってこんなところでするお話ではなかったと思わず我に返る。
けれど、咄嗟に話を引こうとする私をクラウス様の声が引き留めた。
「ですが、私で十分お力になれると思いますよ。よろしければ、商品化したいものも含めて、メントの実物を見せていただくことは可能でしょうか? その上で判断させていただければと」
「え……?」
「今日はあまり時間がありませんので、カトリーナ嬢さえ良ければ、明日の放課後、我が家にお越しください。商会を呼んでおきます」
「よ、よろしいのですか……!?」
「もちろんです」
不安を隠しきれない私を気遣うように、クラウス様が優しく微笑む。
その瞬間、オスカー様のほうから、なぜか咽せるような声が聞こえた。
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