栽培方法と不安
評価やブックマーク、ありがとうございます!
楽しんでいただけますと幸いです。
「な、なんとか、完成しましたね……」
「そうじゃな……」
あれから丸一日、私は博士とメント茶作りを進め、なんと、完成させてしまった。
以前茶葉を作った時の知識がかなり生かせたのもあり、意外とサクサク進められたのだ。
とは言っても、徹夜で二人ともぐったりしている。
(こんな時こそ、メント茶でスッキリしたいところだけど、試し飲みしすぎて、もはや口の中がヒリヒリする……)
「あとは栽培を安定させるだけです。博士、今回も本当にありがとうございます!」
「栽培を安定させるのはなかなか難しいと思うが……まあ、お前さんなら問題ないじゃろ」
「そうだと良いのですが……」
不安を抱きつつ、苦笑いを返すと、博士は意味深な笑みを浮かべた。
「麦の時も茶葉の時も同じようなこと言っとったから、大丈夫じゃ」
これまでのように前世の記憶がまま役に立ちそうなので、今回も同じであってくれることを願う。
そんなことを思いながら博士と笑っていると、研究室の扉をノックする音が響いた。
「お嬢様、鉢植えとプランターの準備が整ったとのことです」
扉を開けた途端、ニナが嬉しそうにそう告げた。
(次は栽培方法かあ……まだ寝られそうにないわね)
「……わかったわ。案内してちょうだい」
思わずため息をついたすぐ横で、私よりも何倍も歳を重ねているはずの博士が椅子から勢いよく立ち上がる。
「は、博士……!?」
「カトリーナ嬢、急ぐぞ!」
「ええ!?」
「この手であのメントの栽培方法を研究できるんじゃ……寝てなどおられん!! さあ、早く案内してくれ!」
「は、はい!」
博士に急かされたニナは、困ったような顔をして私を見る。
苦笑いをしながら「先に行って」と私が手で促すと渋面を作りながら、博士を案内していった。
◆
博士を追って中庭に出ると、そこには私以上にぐったりしたお父様がいた。
「お、お父様がなぜこちらに……?」
「工房の者たちが鉢植えとプランターを館に持ってきたが、お前が研究室に籠ったまま出て来ないから、私が対応したんだよ。まさか魔法の次は力仕事をやる羽目になるなんて……」
倒れ込んだお父様の向かいには、ちゃんとメントが植えられた大量の植木鉢とプランターが並んでいる。
「お父様自ら植え付け作業をしてくださったのですか!?」
驚いてお父様を見ると、なぜかポカンとした表情をみんなから向けられる。
「カトリーナ、この植物は希少な薬草で合っているか?」
「ええ、そうですわ。二百年前に絶滅したと言われている希少種です」
お父様が何を言わんとしているのかがわからない。
「そんな希少種の栽培に、領主である私が関わらないわけにいかないだろう」
「はあ……」
(麦の品種改良も農地改革も、荒地開拓も、ほとんどノータッチだったくせに今さら!?)
まあ、絶滅種の栽培となると、国が絡んでくるのは確実だから、当然かもしれないけれど、なんだか若干腹立たしいのは気のせいか。
「そう不満そうな顔をするでない。ようやく子爵がやる気になったんじゃから、丸投げすればええんじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」
「博士……ですが……」
「なに、大丈夫じゃ。わしが子爵をみっちり鍛えてやろう。お前さんが想定している栽培方法のレシピと交換じゃ。どうせもう細かい栽培方針はできとるじゃろ?」
「ゔ……さすが。博士にはお見通しですね」
「そりゃお前さんとはもう十年近い付き合いじゃからのぉ。まったく、お前さんのような面白い子どもがよくこの子爵から生まれたものよ。ふぉっふぉっふぉ」
「は、博士……よろしいのですか?」
「構わんよ。わしとしても絶滅種の栽培ができるんじゃ。楽しみで仕方ないわ」
「では、お願いします!」
「任された」
私と博士がにこやかに握手を交わしていると、ぐったりうずくまっていたお父様がか細い声を上げる。
「か、カトリーナ……?」
「お父様、そういうわけですので、博士にみっちり鍛えてもらってください。私は学園に戻りますわ」
「そ、そんなぁ〜〜〜」
「『領主』として頑張ってくださいね」
わざとらしく『領主』を強調して伝える。
先ほどの自分の言葉を思い出したのか、お父様はハッとした後、情けない頷きを返した。
「……あ、うん」
そうして私は、博士に栽培方法についての資料を渡し、王都への帰還準備のため、一旦自室へと引き上げた。
領地に着いてから忙しすぎて、よくよく考えたら部屋に来たのは初めてだ。
「つっかれた〜〜〜!!」
令嬢らしからぬ声を上げ、ベッドへと倒れ込む。
(このまますぐにでも眠ってしまいたいけど……早く王都に戻らなくちゃ。生徒会に入ったばかりなのに、無断でこんなに休むなんて……)
ベイリー領に来た時のことを思い出し、思わず背筋が寒くなる。
脅された翌日から無断欠席なんて、晒してくれと言っているようなものだ。
(でもでも今回は、労力以上の発見があったわ! 上手くいけばこのベイリー領はもっと豊かになれる! クラウス様には事情をちゃんと話せばきっとわかってもらえるはずよ!!)
よくわからないクラウス様への信頼感に自分でもおかしくなるけれど、ソフィアの話に比べたらきっと大丈夫なはずだ。
「それよりも……薬草に関しては、領内の薬師ギルドに任せられるし、しばらくは領内のみの流通に制限できるけど、問題はその他の販路よね……」
「うちに根付いている大きな商会はありませんからね……」
帰る準備をしてくれているニナがその手を止めて合いの手を打つ。
「やっぱり大きな商会じゃないと新商品の扱いなんて難しいわよねぇ……それも絶滅したはずの植物が原材料ともなると余計よね……」
これまでの麦や小麦などの穀物の品種改良とは違い、この世界の人からすれば未知の食品。
小さな商会が扱えば、不審物として扱われる可能性が高い。
「大きな商会に伝手なんて持ってないわよぉ……」
大きなため息を吐いてそのまま眠ってしまった私は、結局翌朝、再び神殿経由で王都の屋敷へと戻ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、ブックマーク登録や下の☆☆☆☆☆にて評価していただけると嬉しいです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




