葉っぱの正体
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「やっぱり思ったとおりだわ……」
サンプルとして持ってきたミントもどきの葉っぱと植物図鑑を照らし合わせながら、つぶやいた。
その小さな呟きに、資料を集めてくれていたニナは「見つかったのですね!」と資料を片付ける手を止め、私の手元を覗き込む。
図鑑には、『メント』として載っていたけれど、ミントとの共通点が多く見られた。
――――――
『強い清涼感のする葉』
『香りや液に強い刺激があるものもある』
『解熱や鎮痛、抗炎症薬として用いられ、殺菌、抗菌作用も持つ』
『強い繁殖力を持っていたが、薬用に乱獲されたのち、二百年ほど前に絶滅したとされている』
――――――
最後の説明に、思わず息を呑む。
(まさかこの世界では絶滅した存在だったなんて……もしかして大発見だったりする!?)
他の本の説明を見ても、同じく絶滅した植物として記載されていた。
詳しく書いてあった理由は、薬として用いられていたことで、資料としてたくさん残されていたためだ。
今回たまたま人が入りにくい岩山でひっそり残っていたものが、堆肥を求めて大繁殖したのだろう。
そこでふと、気づく。
「これ、ベイリー子爵家の特産にできるんじゃないかしら……?」
「え? あの雑草をですか!?」
「ええ、そうよ。あの植物は雑草ではなく、絶滅した貴重な薬草だったの。上手く栽培できれば、良い特産品になると思わない?」
図鑑の説明を指差しつつ、ニナに問いかける。
ニナはじっと説明を目視しながら頷き、真剣な表情になると、口を開いた。
「確かに……魔法が使えない、神殿にも頼れない平民向けであれば、薬としてかなり需要はあると思います」
貴族は、怪我や病気になっても自分の魔法か、神殿に寄付して治してもらうけれど、魔力もお金もない平民には難しい。
そうなると、薬に頼るしかない。
(きっと乱獲されたのはそのせいね……)
それにこれがミントなら、薬以外にも使い道はたくさんある。
食品に使うのもありだし、香り付けとして使うのも、あと目覚ましにも使える。
(虫除けなんかもありね……とりあえず、精油してみるところからスタートかしら)
「ニナ、これからさらに忙しくなりそうよ!」
「お嬢様……また旦那様が悲鳴を上げちゃいますよ?」
そう言いながらも、ニナはなぜか嬉しそうに微笑んでいる。
「領主なんだから、領地の発展に必要な時は喜んで働いてもらわないといけないでしょう? ふふ」
あの繁殖力を考えると、農地に直接植えるわけにもいかないし、かといってこの世界にまだ鉢植えやプランターの文化はない。
領内に食器を作る小さな工房があったはずだから、まずはそこに鉢植えとプランターの制作を依頼するか……はたまた農地の端に遮断壁を埋め込むか。
魔法という手もあるけれど、なるべく領民だけで回せる形にはしたい。
(まずは栽培環境を整えないとね……)
「早速お父様と相談が必要ね。ニナ、そろそろお父様を起こすように言ってちょうだい。晩餐の時に話があると伝えて」
「かしこまりました」
ニナが部屋を出ていくのを見届けてから、お母様に状況報告をすべく通信魔石を手に取った。
◆
「え……? あの雑草を特産品に!?」
晩餐の席で相談を持ちかけると、驚いたお父様が素っ頓狂な声を上げた。
「ええ。あの植物は絶滅したとされていた貴重な薬草だったのです。あれを上手く栽培できれば、とても強い産業になると思いますわ」
私が胸を張って告げた途端、お父様は苦虫を潰したような顔になる。
「ええー……いや、無理だろう。あんな繁殖力が無駄に強い雑草。とてもじゃないが管理できない」
昔と違いお父様なりにちゃんと考えた発言が出るのは嬉しいし、確かにそうなのだけれど、せっかく領地を発展させる糸口が見つかりそうなのだから、少しは前向きに考えてほしい。
イラつく気持ちを抑えながら、メントの詳細と対処法をお父様に聞かせた。
「――鉢植え?にプランター?……それに遮断壁? まあ、遮断壁はわかるとして、鉢植えとプランター?というのは、いったいどういうものなんだ?」
「花壇や農地ではなく、陶器の器の中で植物を育てるものです」
「地面ではなく、器の中だと!? そんなことをしたら、大地の養分を吸収できなくなってしまうじゃないか!」
お父様から予想通りの言葉が返ってきて、思わずニヤついてしまう。
「もちろん器には土も入れて、養分も定期的に与えた上で、各器ごとに管理するのですわ。器の中で完結しますから、繁殖が拡大することもありません。その上、容器に収まっているので、好きな場所に持ち運ぶことができます! 嵐の際など、屋内に避難させることが可能なのです!」
「なんだと!? ……ということは天気に左右されないということか!!」
「ええ、その通りですわ!」
不安そうに聞いていたお父様の表情がみるみる明るくなっていく。
(よし! いけそうね。あともうひと押しだわ!)
「そして、このメントは、大変貴重な薬草であると同時に、食用や香料としての利用もできるとありました。つまり、このメントの栽培は、ベイリー領に大きな利益を生むのです!」
キッパリと言い放つと、お父様の目が見開かれ、嬉しそうにゆっくりと口角を上げた。
「今すぐメントの栽培を始めよう!」
(やった〜〜〜!!!)
「さすがお父様ですわ!! では、早速、鉢植えとプランターの作成を領内の工房に依頼しますわ。まずはすぐに作れるだけ作らせて、様子を見たいと思います。それと並行して、今回除去したメントを使って、香料の研究や乾燥メントの作成を進めて参りますわね」
「……さすがカトリーナだな。さては、私に相談する前に、すでに大まかな計画を練っていたのではないか?」
「そこはまあ、いつものことですわ。ふふ」
にんまりと悪い顔をして笑う私に、お父様が引き攣り笑いを返す。
「大丈夫ですわ。今回もお父様には最前で指揮を取っていただきますから。陛下に呼び出されてもちゃんと説明できる知識は自然と身につきますわ」
「ええ……もう次こそ、カトリーナの名前で……」
「いやですわ、お父様。ベイリー子爵領の領主はお父様なのですから。私はあくまで娘で、陰ながら支えてるだけですもの」
「陰……どこが……」
小さなつぶやきの後、お父様の大きなため息が聞こえた。
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