謎の植物
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麦畑になるはずだった場所に、見渡す限り広がる緑。
葉の形状も大きさも伸び方も、全てにおいて、明らかに植えていた麦ではない。
それによく見ると、その植物のところどころで白や薄紫色の小さな花が咲いている。
(ん〜この花どっかで見たような気がするんだけど……何だったっけ?)
疑問に思っていると、その植物のあるほうから、以前嗅いだことのある不思議な香りが漂ってきた。
「……あ! このスッキリした香りは、ミント!? この世界にもミントってあるの!? でも、少しだけ形や大きさが違うような気が……」
(もしこれがミントと同じような植物なら……調べる価値はあるかもしれないわね)
馬車から降り、そばに近づいたところで、お父様が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「カトリーナ〜!!」
見えている農地の奥の方で、お父様がよく知る領民たちとミントと格闘しながら、こちらに手を振る姿が見える。
「お父様〜! その植物は、たぶん、根から抜かないと、ダメですわよ〜〜!!」
お父様たちにそう告げると、全員が悲鳴のような声を上げるのが聞こえた。
どうやらさらに奥のほうは刈った後だったようだ。
あれだけ刈ったとなると、朝から作業していたのだろう。
(見たところ、ミントと同じく繁殖力ヤバそうだから、根こそぎ抜かなきゃいくらでも生えてきちゃうわ……)
とりあえず、詳しい事情を聞くため、お父様たちと合流して近くの村役場へ移動することになった。
話によると、肥料を馴染ませた後、種を蒔いて様子を見ていたところ、ある日あの植物が点々と芽を出したという。
抜いても抜いても生えてきて手に負えず、気づいた頃には農地一面に広がっていた。
それで、慌ててお父様に連絡をした来たらしい。
「そうですか……大変だったのですね」
「なあ、カトリーナ。なんとならないか?」
縋るような目で懇願するお父様と領民たち。
「そうですね……まず、これが何の植物か、詳しく調べましょう。話はそれからです」
「そうだな。そう言うと思って一株持って来させようとしたんだが……途中で根が切れてしまってな。しかも茎も葉も一株とは思えない量だったから、ロビーに広げてもらったよ。確認してみてくれ」
「わかりましたわ。とりあえず、お父様は領主館に戻って休んでくださいませ」
「だが……」
お父様の目の下には深い隈ができていた。
馬を走らせ続けた上に、到着してからもずっと領民たちとミントもどきと闘っていたのだろう。
「あとは私に任せてください。起きた頃にはきっと対策が見えていると思いますから」
「……え? そんなに早いの?」
お父様はなぜか急に焦った表情になる。
「ええ、植物の調査については、少し心当たりがありますの。それに、農地のほうは魔法を駆使してなるべく早く片付けたいので、しっかり休んでくださいませ!」
「やっぱりー!」
これまでの開拓でも魔法を使ってきた。
その度、お父様にも土属性魔法を使わせていたけれど、魔力練度の甘いお父様は魔力消費が激しくて毎回悲鳴を上げていた。
(私もそんなに魔力ないんだもの。お父様にも頑張ってもらわないと! 『使えるものは親でも使え』よ)
「では、お父様、私は早速調査に取り掛かりますわ!」
「あ、ああ……」
ガックリと肩を落としたまま、お父様は領主館へと帰って行った。
「さて……これがミントもどき……」
ロビーに広げられた植物を前に、思わず『ミントもどき』と言ってしまうほど、その植物はミントによく似ていた。
ただし、私が知っているミントよりサイズが結構大きい。
(二倍? いや、三倍? これが本当にミントと同じ繁殖力だったら、前世以上に厄介な植物だわ……)
「根の量もすごいわね。これで一株、しかも取りきれなかったということだけど、あとどれくらい続いていた感じかしら?」
「そうですね……正直、見当もつきません」
村の農地を取り仕切っている領民のハンスが、申し訳なさそうに答える。
「それはどういうこと?」
「こちらの根を見ていただくとわかり易いのですが……」
ハンスが広がっている根の特に集中している部分を手にとって私のほうへと向ける。
「このように、多少太い根の周りに細かい根を四方に広げて根付いているようでして、周りを掘っても掘っても、細かい根が続いているのです」
(これはまさにミントと同じ根の張り方ね……)
「なるほど……。ちなみにこの植物を他でも見かけた方はいらっしゃいますか?」
いくら繁殖力が強い植物でも、何もないところからいきなり根付くことはない。
農地ではない他の場所で元々生えている可能性が高い。
「あ、あの……今回の農地の奥の岩山で、これと同じ植物が群生しているのを見ました」
この農地の奥は、開拓を断念せざるを得なかった岩山が広がっていた。
「岩山に群生ですって!?」
「は、はい! これと同じ葉っぱをそこで見ました!」
「……つまり元々岩山に自生していたものが、農地に根を伸ばしてきたのね。しかも豊富な肥料のおかげで一気に繁殖したと……。これ以上増えたら大変ね。ひとまず、私が魔法を使って根の張り具合を探ることにするわ」
そうして、ハンスたちを連れて、再び農地へと向かうことにした。
◆
農地に着くなり、私は区画の中心辺りで屈み込み、地面に手をつく。
そして、手のひらから土属性の魔法を展開した。
【ジオサーチ】
じわじわと魔法が広がり、それと同時に魔力が吸われていくのがわかる。
「これは……」
(思った以上に範囲が広いわ……岩山のほうまで伸びていく!?)
調査の結果、やはり根は四方に広がっていて、岩山の方角はおろか、少し離れた隣の農地の近くまで伸びていることが判明した。
「マズいわね……急いで対策をしないと。麦のためにせっかく肥料を撒いたのに、このままじゃ他の農地まで被害に遭ってしまうわ」
私は手をついたまま、さらに別の魔法を唱えた。
【ジオクリア】
唱えた途端、辺り一体の地面が一瞬白く光る。
「根が張っている一帯の養分は、岩山を除いて全て取り除いたわ。これでさらに広がる心配は無いわね」
私の言葉に、周りでじっと様子を伺っていた領民たちから歓声が上がる。
「ありがとうございます!! カトリーナ様!!」
口々に私への感謝を述べながらも、次の言葉を待つように、皆視線がこちらを向いている。
「ハンス、私は一度領主館へ行って、この植物について詳しく調べてきます。その間に、人手を集めてこの草を根から抜いていってください。その際、必ず手袋をするように」
「承知しました! すぐに人を集めて作業を始めます!」
「よろしくお願いしますね」
それから私は急ぎ領主館に戻り、ニナと共に図書室で植物に関する書物を片っ端から漁っていった。
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