ソフィアの試験
ついに試験の日がやってきた。
まずは、ソフィアの入学試験。
朝食の席で後から遅れて席に着いた私の顔を見るなり、物凄く不機嫌そうにこちらを見た。
「おはよう、ソフィア」
「……おはようございます、お姉様」
「いよいよ、今日ね。準備は万端というところかしら?」
試験前なので、優しい言葉をかけようかとも思ったけれど、不機嫌そうなソフィアを見て、思わず少しの嫌味を込めてみる。
「こんな日にまでわたしを虐めないと気が済まないなんて……! ひどいはお姉様!!」
思った通り、ノリノリね。
その様子に、試験への激励も兼ねて、さらに踏み込んでみることにした。
「それは仕方がないわよ。我が子爵家から王立学園に合格できないような不出来な者が出たなんてことになれば、それこそ、我が家の恥だわ! それでなくても、あなたは元平民なのですから」
「お姉様……やっぱりわたしをそんな風に思っていたのね……」
その場でいかにもショックを受けたように、ハンカチを片手に俯いているけれど、隣に座った私からはソフィアの口角が少し上がっているのが見える。
(ああ、はいはい。嬉しいのね……。イベント発生要素のためとはいえ、ほんと変わった子だわ……)
「ま、せいぜい頑張ることね。ギリギリでも入学さえできれば、問題ないのだから。あれだけ家庭教師をたくさんつけて勉強したのだから、それくらいはできるわよね」
「……だ、大丈夫よ。わたしのことどれだけ見くびってるの? できるに決まってるじゃない!」
さらに悲劇のヒロインごっこが続くかと思っていたのに、まっとうな返しをしてきたことに驚きつつも、ソフィアの表情が少し強張っていることに気づく。
(これは……内心びくびくなのね。まあ、それもそうか……)
入学試験は、国語と外国語と数学、それに地歴学の四科目で行われる。
さすが乙女ゲームが元になっている世界なだけあって、国語はそのまま日本語の現国みたいな感じだし、外国語はフェルベリオン帝国の言葉らしいのだけれど、私には英語に見える。
そして、数学にいたっては、学園で学ぶ内容が高一レベル止まり。
つまり入学試験時だと中学の内容に少し入ったくらいだ。
学園の上位機関である大学校に入ればきっともっと上のレベルをやるのかもしれないけれど、領地経営に必要程度の学力と考えれば、納得できる。
ソフィアの前世の年齢を知らないからなんとも言えないのだけれど、家庭教師からの報告を聞くに、もしかしたら中学生くらいなのかもしれない。
(それだと確かにびくびくしても仕方ないわよね。それか、元々の地頭に問題があるか……)
なんとなく後者の気はするものの、子爵家の評判がかかっているのだから、そこはギリギリでも合格してもらわないと困るわけで……。
「ちょっと、何じっと見てるのよ! わたしだって、やるときはやるんだから!」
「ええ。ぜひその本気を見せてほしいものね」
にっこり微笑んでから、そのまま食事を始める。
先に食べ終わったソフィアは、立ち上がると「では、お先に失礼します!」とヒステリックに声を上げ食堂をあとにした。
「ほんと騒がしい子ね……。なんとかなると良いのだけど」
◆◆◆
「ああもう、なんでよ!! なんであんな難しい問題が出るのよ! おかしいじゃない!」
数時間後、試験を終えたソフィアは、癇癪を起しながら玄関ホールで喚いていた。
騒ぎを聞きつけ玄関ホールを覗くと、使用人たちに外套や鞄を乱雑に投げつけている。
まったく、ヒロインが聞いてあきれる。
「ソフィア、帰宅早々何を騒いでいるの」
私に気づいたソフィアが振り向いて一瞬こちらを睨みつけ、少しためらってから口を開いた。
「…………お、お姉様には関係ないわ!」
「大ありよ。使用人たちにあたらないでちょうだい。あんなに息巻いて出ていったのに、まさか……思うようにできなかったのかしら?」
「……べ、別に、ちょっと難しい問題が出て苛立ってただけよ……」
使用人にあたったことを少しは反省しているのか、少し下を向き殊勝な声を聞かせる。
「そんなくだらないことで他人にあたらないでちょうだい」
「…………もとはといえば、お姉様が」
つぶやきながらソフィアが先ほど以上に恨みのこもった眼光で私を睨みつける。
「私が、何かしら?」
「もとはといえば、お姉様がちゃんとわたしを虐めてくれないからこうなったんじゃない!! そのせいで魔法が発現できなくて、普通に試験を受けなきゃいけないし、試験は難しいし、受かってもどうせ殿下と同じクラスになれない! もうどうしてくれるのよ!!」
ラノベには入学前のイベントについては記載されていなかったけれど、どうやら光属性魔法を発現したヒロインは試験を免除されていたらしい。
だから、勉強をおろそかにしても平気な顔をしていたのね。
たしかに、ラノベでも王太子とヒロインは同じクラスで、さらには悪役令嬢も同じクラスだった。
王太子も悪役令嬢も優秀な成績とあったから、一番上のクラスなのだろう。
ギリギリで合格してしまえば、ソフィアが同じクラスになることはあり得ない。
(よし! これで没落回避に一歩近づいたわ!)
それにしても、ヒロイン補正とかゲーム強制力とかまったくないのが意外だわ。
「なぜあなたの魔法発現のために、私があなたを虐めないといけないのよ。大体魔法を発現したところで、試験は全員受けなければいけないわ」
「だから、それだけわたしの魔法は特別な魔法なのよ!!」
泣きそうな表情で訴えるソフィア。
けれど、実際のところ、光属性魔法は発現していないのだから、勉強していなかったソフィアが悪い。
「はいはい。もう終わってしまったことは仕方ないわ。合格できていたら、良しとしましょう。とにかく、試験お疲れ様。お母様があなたのためにお菓子の準備をしていたわ。あなたの好きなケーキも用意させていたわよ」
「ケーキ……!」
孤児院育ちのソフィアは、引き取られてから三年経った今も、食への執着心が割と強い。
特にお菓子、中でもケーキは贅沢品になるため、平民、ましてや孤児院の子どもが食べられるものではない。
それはラノベでは描かれていなかった、孤児院の現実を物語っているように思えた。
「ええ。ソフィアのためにと張り切っていたわ。早く着替えて中庭にいらっしゃい」
「はーい!!」
「あ! ソフィア! 淑女がそんな、走ってはダメよ!」
先ほどまでの癇癪はどこへやら、ソフィアは嬉しそうに満面の笑みで自室へと駆け込んでいった。
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