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ヒロインの姉

新作です。

毎日投稿予定です。

お楽しみいただけますと幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

「ちょっとお姉様! 何度言えばわかるのよ! わたしを虐めなさいよ! じゃないとお話が始まらないって言ってるじゃない!」

「ソフィア、いい加減になさい。悲劇のヒロインごっこなんてままごとみたいな遊び、小さな子どもでもしないわよ」


 部屋に入ろうとしたところを突然呼び止められ、ため息をつきながら答える私をソフィアはキツく睨みつける。


(また始まった……)


 どうやら彼女はここを乙女ゲーム『光の乙女と幻の花』の世界だと思っているらしい。

 義妹のソフィアは転生者で、前世の記憶を有していて、自分はその乙女ゲームのヒロインなのだという。


「悲劇のヒロインごっこじゃなくて、わたしは本物のヒロインなの!! いずれ王子様と結ばれて、この国の王妃になるんだから!!」

「そう……」


 けれど、私にはわかっている。

 この世界はあの最悪な物語の世界だということが――。


 ソフィアには秘密だが、私カトリーナ・ベイリーにも前世の記憶がある。

 彼女と同じ日本での記憶のようだけれど、私はゲームなどせず、読書三昧の日々を送っていたので、乙女ゲームの存在は知っていても、どんなゲームかまではよくわからない。

 けれど……

 実はこの世界、私が読んでいた悪役令嬢ざまぁモノの人気ライトノベル『悪役令嬢の微笑み』、通称『悪笑み』の世界に酷似している。

 そして、この『悪笑み』は、『光の乙女と幻の花』を元に作られたざまぁ小説だった。

 ソフィアが言っているシナリオは、『光の乙女と幻の花』のことなのだろう。

 けれど、ラノベの話からすると、このままソフィアがヒロインとして突っ走れば、王太子とその婚約者である悪役令嬢にざまぁされて国外追放のうえ、我が家は爵位を剥奪されてしまう。


 それだけは何としても避けなければ……!


 せっかく貧乏で没落寸前だった子爵家を立て直し、その際に行った穀物の品種改良や統治システムの見直しが認められて、陞爵の話が出ているのに、こんな大事な時期に王太子相手に騒ぎなんて起こしたら……


 今までの苦労を水の泡にされるなんて、たまったもんじゃないわ!


 ソフィアは乙女ゲームだと信じて疑っていないようだけれど、正直私はほぼほぼラノベのほうだと思っている。

 ソフィア曰く、乙女ゲームであれば、王太子の婚約者になって玉の輿まっしぐららしいけど、ラノベの世界ならざまぁされて家ごと取り潰し。


(こんな究極の二択ある!?)



 前世の記憶を思い出した時は特に何も思わなかった。

 家名もありふれた「ベイリー子爵家」。

 下級貴族によくある浪費家で欲深い両親。


(貧乏から脱却するために、性根を叩き直すのに苦労したわ……)


 けれど、父が孤児院からソフィアを引き取って来て、その姿を見た瞬間、『悪笑み』の『ソフィア・ベイリー』が頭をよぎった。


(だって『悪笑み』のカバーのソフィアままだったんだもの!!)


 ソフィアには前世の記憶があるみたいだけれど、『悪笑み』を知らないらしく、乙女ゲームの世界だと信じきっている。

 王子以外の攻略対象を選んでくれれば、もしかしたら、と思うものの……。


「ちょっと、聞いてるの! お姉様が虐めてくれなきゃ、王太子に出会うイベントが起きないかもしれないじゃない!」


 とまあ、王太子狙いらしく、前途多難だ。

 『悪笑み』のソフィアにも前世の記憶があって、王太子ルートを無理矢理攻略しようとしてざまぁされるから、性格とかからいっても『悪笑み』に限りなく近い。


「なんで私があなたを虐めなきゃいけないのよ」

「なんでって、そういうシナリオだからよ!!」


 自信満々に言い切るソフィアに頭を抱えそうになる。


「シナリオ……想像逞しいことね。小説家や劇作家を目指すのをお勧めするわ。お父様にもそうお伝えしておくわね。ただ……そのためにはもう少しお勉強を頑張らなくてはね……」

「……!?」


 正直な言葉をため息をつきながら告げただけなのに、ソフィアは一瞬嬉しそうに顔を綻ばせる。


「わ、わたしだって一生懸命やっているのにそんなことを言うなんて……お姉様ったら、ひどいわ!!」


 わざとらしく涙を浮かべて、その場に崩れてこちらを見上げてくる。


(事実を告げただけなのに、すかさず入れ込んでくるわね……)


「はあ……もう勝手にやってなさい。そんな学力では学園に受からないわよ。試験まであとちょっとなんだから、せいぜい頑張りなさいよ」

「っ!」


 本人も多少なりともヤバい自覚はあるようで、焦った表情を見せる。

 けれど、次の瞬間何かを思い出したかのように目を見開くと、突然立ち上がって、ニヤっと気味の悪い笑みを浮かべた。


「わたしは大丈夫よ。もう少ししたら、特別な存在になるから!」


(特別な存在? 「悪笑み」のヒロインって何か力を持っていたかしら……)


 考え込む私の向かいで、宣言したばかりのソフィアは何やらボソボソ言っている。


「本当なら引き取られてすぐに光魔法に覚醒するはずなのに、なんでいまだに何も起きないのよ……しかも、貧乏子爵家じゃないし……」


(そういえば……! すっかり忘れていたわ)


 ラノベ通りだと、孤児院で光魔法の素質を持つソフィアに目をつけた子爵が無理矢理引き取ってくる。

 けれど、自分の価値に気づいて性格が歪んでいくにつれ、光魔法は使えなくなっていくのだ。

 元々光魔法は神の属性と言われ、清い心に宿るとされているから、まあ当然と言えば当然なのだけれど。

 前世の記憶があるのは、ラノベのヒロインと変わらないけれど、引き取られてから継母や義姉にいじめられることで、もしやバランスを取っていた……?



 私が転生したと気づいてすぐの我が家は貧乏で、没落寸前だった。

 ラノベの世界だなんて思いもしないから、まずは自分の生活を良くしようと、領地の経営改善を父である子爵に申し出た。

 最初は取り合ってもらえなかったけど、家令を味方につけ、少しずつ改善策を試してもらって、最終的には私のやり方を全部受け入れてくれた。

 それからは、農作物の品種改良をして、今に至る。


 ソフィアを引き取ることにしたのも、光魔法とか全く関係なく、心を入れ替えたお父様の社会福祉の第一歩だった。

 予想よりも大きな第一歩に、まだ心を入れ替えきれていなかったお母様が激怒したのよね。

 お母様は生まれも育ちもお嬢様で、好きなものを好きに買えるのは当たり前だと思っていて、今もドレスだ宝石だと隙を見ては勝手に買おうとする。

 それを止めるのが大変なのだ。

 最近では口うるさい私より、同じく宝石やドレスが大好きなソフィアと仲が良いくらい。

 そんな訳で、お母様には虐めろと言わないくせに、私にだけ言ってくるという矛盾に、本人は気づいていない。


「とにかくちゃんと勉強しなさいよ!」

「何度もうるさいわね! 大体お姉様こそ、試験ではいつも真ん中くらいの成績のくせに、わたしに偉そうにしないで! お父様の手伝いをしてるとか嘘なんじゃないの?」

「そ、それは……」


 わざと目立たないようにしてる、なんて言ってもソフィアにはどうせわからないだろう。

 ソフィアが我が家に来て、ラノベの世界だと気づいた私は、没落ルートをなんとかするのと同時に、なるべく自分は目立たないように生きようと決めた。

 王族や高位貴族に目をつけられてはたまったものじゃない。

 あくまでも私はヒロインの姉で、本編に直接絡むキャラクターじゃないんだから。


「やっぱり嘘なんじゃない。わたしに偉そうにしないで!」


 勝ち誇った表情のソフィアに、一瞬狼狽える。

 成績上位になって目立つわけにはいかない。

 でもこれでソフィアが学園に入れなければ、ベイリー子爵家の恥になってしまう。

 下手をすれば陞爵の話も無くなってしまうかもしれない……。


(一度くらいなら大丈夫よね?)


「わ、わかったわ。年度初めの試験で、上位に入ればいいのね」

「入るわけないのに、何真剣な顔になって――」

「その代わり、ソフィアも必ず合格して、自分の目で私の順位表を見届けなさいよ。いいわね」


 ソフィアの言葉を遮り、少し強めの言葉で詰め寄ると、たじろいだソフィアがコクコクと頷きを返した。


「お互い試験終わりが楽しみね〜」


 悔しそうにこちらを睨むソフィアを尻目に、私はそのまま扉を開け、部屋に入った。


「はあ……色んな意味で不安しかないわ」


 思わずため息と共に本音が漏れ出る。

 扉の向こうからは、嬉しそうなソフィアの笑い声が響いていた。

お読みいただきありがとうございます。

面白い、続きが読みたいと思っていただけましたら、評価・ブックマークいただけると嬉しいです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


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