ベイリー子爵領
評価やブックマーク、ありがとうございます!
楽しんでいただけますと幸いです。
生徒会への加入が決まってしまった……。
教室に戻って午後の授業を受けているけれど、あまりの衝撃に先生の話がまったく頭に入ってこない。
隣で涼しい顔で授業を受けている銀髪を思わず引っ張ってやりたい衝動に駆られそうになる。
(まあ、実際にそんなことをしたら、注目の的でしょうけど……)
それくらい腹立たしくて仕方ないのだ。
仕掛けてきたクラウス様に対してもだけれど、ソフィアをちゃんと制止できず、何度も醜態を晒したせいで、脅されてしまった自分に腹が立つ。
とはいえ、ソフィアの行動は確かにクラウス様から見れば王太子殿下を害そうとしている危ない人間であるのは当然で……。
むしろ、クラウス様がなぜ私が生徒会に入ることで手を打ってくれた上に、今後のソフィアの制止にも協力してくれるのか。
(クラウス様はいったい何を考えているのかしら……?)
そう考えて、思わずまたクラウス様に目が行ってしまう。
すると、視線に気づいた彼がこちらを見た。
その瞬間、普段では絶対にあり得ない、優しげな微笑みが私に向けられた。
「!?」
(な、何今の!? クラウス様がふわって、ふわって優しい笑顔を……!? え!? 何? 幻? それとも私の見間違い!?)
昼休みのあのやり取りがあるからか、素直にイケメンの笑顔を喜ぶことができない。
何かしらの裏を感じてしまいそうになるのは、私が素直じゃないだけなのか。
もしかしたら懐に入れた人間にはこんな笑顔を向ける人なのかもしれないし……。
懐に……? ほぼ監視対象な私が入ってるのはおかしい気がするけれど、少し背筋がゾワっとするから、さっきのことを黙っていろということなのかもしれない。
いや、きっとそうだろう。
ここは黙って、頷いておこう。
クラウス様に倣ってなるべく優しい笑顔で頷くと、凄い勢いで教卓の方を向かれてしまった。
(もしかして、何か違う意味だった!? え!? どう返せば良かったの!?)
その上、クラウス様はなぜか小刻みに震えているように見える。
(震えるほど怒るなんて……もうこの先が思いやられるわ……)
その後の授業もクラウス様から話しかけられることはなく、なんならこちらを向くことすらなかった。
この状態で放課後に生徒会業務があるかと思うと頭が痛い……と思っていたら。
「カトリーナ・ベイリーさん、お屋敷に戻るよう子爵夫人から連絡が来ています。すぐに帰宅の準備を」
担任であるラヴレンツ先生から伝えられ、私は急ぎ帰路に着いた。
◆
屋敷に戻ると、玄関ロビーでお母様が待ち構えていた。
「待っていたわ、カトリーナ!!」
「お母様、いったいどうなさったのです?」
いつもマイペースなお母様が慌てているのは珍しい。
「それが……領地に向かったお父様から連絡があって、すぐにカトリーナに来てほしいのですって」
「早いですね……そんなに大変な状況ということかしら?」
「かもしれないわね……」
玄関先で母と娘二人で首を傾げる。
王都から領地までは、馬をとばせば半日くらいで到着する。
夜中に出たと言っていたから、着いてすぐ視察を行ったのだろう。
(お父様も真面目になったわよね。昔はあんなに仕事嫌いだったのに……って、そんなこと考えてる場合じゃないわ!)
私を呼んでいるということは、十中八九、新しく開拓した農地に問題が起きたということだ。
(あんなに苦労して開拓したのに、まさか早速問題が起きるなんて……やっぱり一筋縄ではいかないわね……)
「それで、お父様は他に何かおっしゃっていましたか?」
「いえ、特に何も……あ、そうだわ! 神殿の転移陣を使ってでも早く来てほしいと言っていたわ」
「……え!? そんなに急いでいるの?」
「みたいよ。通信も慌しかったもの。きっとあの人じゃどうしようもなかったんでしょうね」
貴族でもなかなか手が出にくい金額がかかる神殿の転移陣。
それを使ってまで来てほしいというのは、余程のことがあるのだろう。
「着替えたら、すぐに向かうわ」
「そうしてちょうだい」
部屋に戻り、準備しておいた荷物を馬車に運んでもらい、その間に動き易い服に着替える。
トラウザーズにシャツと、乗馬でもしに行くような格好だけれど、これが一番動き易い。
部屋から出て一度居間に顔を出すと、お茶を飲んでいたお母様が深いため息をついた。
「相変わらず、嫁入り前の貴族令嬢がする恰好ではないわね……」
「これが一番動き易いから良いのです。着飾ったところで、今から会いに行くのは農民ですもの」
「それはそうなのだけれど……あなたは本当に昔から、変わっているわね。せっかく気兼ねなくお洒落できるようになったのに……」
恨めしそうに私を見つめるお母様の視線が痛い。
裕福な男爵家から嫁いだお母様は、昔からの散財がやめられず、私が止めるまで子爵家を食い潰す勢いだった。
今もその散財癖は治っておらず、自分はもちろん娘を着飾って散財したいのだ。
「……まあでもそのおかげで我が家は没落を免れたのだから、強く言えないわね」
「私はお洒落よりも領地経営のほうが楽しいのですわ。まあ、いろいろ大変ではありますけど……」
ため息をつきつつ苦笑いで返すと、お母様も同じように笑う。
それからニナを連れて馬車に乗り込み、神殿へと向かった。
神殿に着いて早速金貨一枚を支払い、転移陣の間に案内される。
(金貨一枚って日本円で考えたら百万円くらいよ!? 移動するためだけなのに……やっぱり高い!)
転移陣に乗れば、次の瞬間にはベイリー領の神殿に到着していた。
(相変わらず速い! まあこの速さを考えたら安い……のかなあ?)
神殿を出て、お父様が手配してくれていた馬車に乗り、そのまま現場へと急ぐ。
目的地に近づいて、思わず唖然としてしまう。
「…………葉っぱ?」
麦を植えたはずのその地には大量の葉が茂っていて、農地の区画がわからないほど一面に広がっていた。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたなら、ブックマーク登録や下の☆☆☆☆☆にて評価していただけると嬉しいです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




