クラウスの思惑
評価やブックマーク、ありがとうございます!
楽しんでいただけますと幸いです。
翌日、ソフィアは部屋から出て来なかった。
昨日屋敷に戻された後からずっと部屋に籠っているそうだ。
入学翌日から不登校なのには、さすがの私も驚いたけれど、昨日のソフィアの言葉を考えると、王太子殿下を攻略するためのイベントを起こすには、Aクラスの教室に入る必要があるらしい。
呼び出すだけであれば、呼び出しボタンを押せば良いけれど、教室内に入ろうとすると、結界魔法によって吹き飛ばされてしまう。
つまり教室に入って、イベントを起こすなど不可能なのだ。
そのことがソフィアにとっては、よほどショックだったのだろう。
(まあ、おとなしくしてくれる分には良いんだけど……問題は、不登校でもうちの評価が下がってしまうことよね……)
陞爵はもはや諦めたほうが良いような気がしてきてしまう。
完全にすべてを失ってしまうよりはマシだと自分に言い聞かせるものの、やはりすぐそこに、手が届くところにあるものを諦めるというのはものすごく悔しい。
(はあ……人間ってどんどん欲が出てしまうものね……)
ひとまず、今後のソフィアについて、早急にお父様と話さなくてはならない。
そう考えて食堂へ向かうと、お父様の姿がない。
「お母様、おはようございます。あの、お父様はどうなさったのです?」
「あら、おはよう、カトリーナ。お父様はね、なんでも領地に問題が発生したとかで、夜中に慌てて領地に向かって行かれたわ」
「領地で問題……? 私は何も聞いていないのですが……」
いつもであれば、領地で何かあればすぐに私に相談するお父様が……と不思議に思っていると、何かを言いたくてたまらない様子のお母様が答えをくれる。
「あなたには学校がありますもの。それに、そろそろ父親らしいところを見せたいのですって」
クスクス笑うお母様は、なんとも楽しそうだ。
「だけど、もしお父様だけで手に負えなければ、連絡があるんじゃないかしら?」
「なるほど……わかりました。一応準備をしておきます」
「そうね。それが良いと思うわ」
朝食の後、領地へ向かう準備を整えてから、急いでニナに髪を結ってもらい、いつもの地味なおさげ姿で馬車に乗り込んだ。
◆
教室に入ると、いつもとは違う空気を感じた。
どこかピリッとした空気に、何かあったのかと教室内を見回してみるけれど、特に変わった様子はない。
気のせいかなと思いつつ、いつものようにコソコソと自分の席へ移動した時だった。
隣に座るクラウス様から唐突に声をかけられた。
「カトリーナ嬢、おはようございます」
「お、おはようございます。クラウス様」
(この空気の犯人、この人だー!!!)
笑顔で挨拶をされているはずなのに、どこかピリピリとした空気を纏っている。
別に怒っているわけではないのだけれど、何かこう、神経質になっているというか、イライラしているというか。
こういう時は触らぬ神に祟りなし。
ソフィアの今後についても考えなければいけないし、領地のことも気になる。
今考えなければいけないことはたくさんある。
クラウス様のことは気づかなかったことにして、自分のことに集中しようと、何食わぬ顔で着席して授業の準備をし始める。
けれど、ピリピリした視線が私から外れることがない。
気になって、再び隣を向く。
なぜか困ったような、少し悲しそうな表情のクラウス様と目が合った。
「カトリーナ嬢、今日お昼休みに少しお時間いただけますか?」
「え? あの……」
(このクラウス様のピリピリの原因はもしかして私なの!? というか、ピリピリしてるのに、なんで表情は悲しそうなのよ!? え!? いったい私の何が原因!?)
とはいえ、昨日はソフィアのことでいっぱいいっぱいでやらかした記憶しかない。
原因が多すぎて、むしろそうじゃない部分を探すほうが難しそうだ。
焦って言葉に詰まっていると、後ろのほうからも不穏な視線が……。
バーバラ様たちがこちらを凝視しているのだろう。
普通の女子生徒だったら、クラウス様に「お時間いただけますか?」なんて言われたら、即答するか、卒倒するか、どちらにしろ、きっと大喜びなはずだ。
今の私にはそんな余裕はもちろんない。
「そんなに時間は取らせませんので。お願いします」
「……わ、わかりました」
「ありがとうございます。では、またお昼に」
了承した後も、クラウス様のピリピリした空気は変わらず、何かやってしまったのかと気にしていたら、あっという間にお昼になってしまった。
「では、一緒に来てください」
クラスメイトが見ている中、私はクラウス様に手を引かれ、最上階にある執務室のような部屋へと連れて行かれた。
「……生徒会室」
「そうです。ここが生徒会室です」
「あの、でも、私は生徒会への加入はお断りしたはずです!」
結果発表の掲示板の前で、勧誘され、その場ですぐにお断りした。
けれどその際、クラウス様はまた新学期に入ってから改めて聞くとも言っていた。
(生徒会室に連れてきたということは、活動内容を見た上で判断してほしいということなのかしら……? 今は前以上にソフィアのことと領地のことで、それどころじゃないのに~)
再び断る気満々でお返事をしようと身構えていると、クラウス様にソファに腰掛けるよう促された。
「とにかく、こちらに座ってください。話はそれからです」
「いえ、ですが……」
断ってすぐに帰るつもりなのに、ソファを促すクラウス様の笑顔になぜか逆らうことができず、勧められた席に腰掛ける。
「……それでは、始めましょうか」
「はい……」
クラウス様と生徒会室に二人きり。
(これがバレたらまたバーバラ様たちにどやされそう……)
「まずは、先日お誘いした生徒会への加入の件について。また改めてお伺いするとお伝えしていましたが、いかがでしょうか?」
机に肘をついた状態で少し乗り出した状態で、クラウス様の青い瞳がじっと私を見つめる。
期待している返事を返せないことを心苦しく思いながらも、イケメンの真っ直ぐな視線にうっかりときめいてしまいそうになるけれど、断る気持ちは変わっていない。
意を決して、口を開いた。
「……申し訳ありません。私の気持ちは変わりませんし、さらに忙しくなってしまって、それどころではなくて……」
無意識に徐々に俯きがちになりながら返答する。
その途端、クラウス様が立ち上がる音と気配がして、思わず顔を上げる。
気づくと向かいに座っていたはずのクラウス様が真隣にいて、片膝をソファに乗り上げ、距離を詰めた状態でこちらを見下ろしていた。
(え!? ちょ、ちょっと、近い!? イケメンの顔がすぐそばに!?!? 前世も含めて免疫ないのにぃ〜!!)
「く、クラウス様!?」
「カトリーナ嬢、生徒会の件はもちろんですが、あなたにはもう一つ伺いたいことがあるのです」
壁ドンならぬソファ?椅子?ドンに近い状態で迫るクラウス様の笑顔が、心なしか妙に冷たく感じた。
お読みいただきありがとうございます。
壁ドン、床ドンまではよく聞くのですが、なかなか聞かないソファドン。笑
ちなみに椅子ドンは一応あるみたいです。
面白い、続きが読みたいと思っていただけましたなら、ブックマーク登録や下の☆☆☆☆☆にて評価していただけると嬉しいです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




