うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:91
熱にうなされながら、うとうととしていると遥の子守歌が聞こえてきた。
穏やかで、包み込むように優しい歌声が広がってくる。
最近はアップテンポな流行りの曲を練習しているが、やはり遥にはこういうものの方が合っていると思う。
その歌声が途切れたところで聞いてみた。
「昔から歌ってるの?すごい上手だなと思って。」
私が尋ねてみると、遥は恥ずかしそうに頬を掻いていた。
「私が風邪を引いた時に、姉が良く歌ってくれていたんですよ。よく眠れるように、頭を撫でてくれながら。」
何回も聞いたが、姉妹の絆が強いというかかなり過保護だったような気がする。
両親が姉の方にばかり手を掛けているというのもあるのだろうが、姉が親代わりになっていたのかもしれない。
「いろいろ、お姉さんは遥の事を可愛がってくれていたみたいだけど、ずっといっしょだったの?」
また歌声が途切れたところで聞いてみると、遥はうーんと思い出していた。
「そうですねぇ。小中高は同じ学校だったので、登下校はいっしょの事が多かったですけれど。姉は部活や委員会が忙しかったので、そういう時は一人でしたね。」
まぁ、歳の近い兄弟がいればそんなもんか。
賢治も弟がいて、たまにいっしょに帰ったり、家に行った時はいっしょにゲームを遊んだりしていたし。
うちの姉は、少し歳が離れていたからあまり学校で関わることはなかったが、小さい頃はいろいろと世話を焼いてくれた事を覚えている。
姉が高校生になった頃には、全くそういうこともなくなったのだけど。
「陽介さんの学生時代はどんな感じだったんですか?部活とか趣味とか。」
今度は私が聞かれる番だった。
どうだったかなと思い出そうとしたが、あまり大したものは出てこない。
「友達に誘われてサッカー部に入ってたけど、やる気なくてほとんど行ってなかったかな。中学も高校もあまり強くない学校だったから、数合わせでたまに試合には出てたけど。」
私がそう言うと、遥は目をキラキラをさせていた。
「サッカー!?すごいじゃないですか。姉と違って私は運動は得意ではなかったので羨ましいです。それで、ポジションはどこだったんですか?」
草サッカーみたいな、毎年一回戦負けの学校だったので誇れるものでもないのだが。
「サイドバックが多かったよ。上手いやつはフォワードやってたから、数合わせはディフェンスばっかりだったし。キーパーが怪我して代わりにやったこともあったけど...。」
遥は面白そうに聞いてくれていたが、他の思いでを掘り起こしてみても、良い思い出は何一つなかった。
顧問の先生はなんとか勝たせようと力を入れていたのだが、上手い先輩はユースに所属してて部活は遊びみたいな感じだったし、合宿も形だけで半分は水遊びしてただけだったし。
変にガチ勢とエンジョイ勢がギスギスしてて、私含めてとりあえず部活に所属してるみたいな人はろくに練習にも参加していなくて。
それでいて、試合のメンバー選定は上級生優先で思い出作り的な側面が強く、やる気なんて全く無い。
高校一年の時なんて、運よく相手が弱かったから一回戦は勝ったものの、二回戦は全国大会常連校のシードに当たって、0対23というラグビーのようなスコアで負けたことは今でも覚えている。
私が思い出したことをぽつぽつと話していると、遥は顎に手を当て唸っていた。
「うーん...。なかなか難しいですねぇ。その中で何か良かったことはなかったんですか?試合で何か活躍したとか。」
活躍したことあったっけな?と記憶を掘り起こしていくと、もうすっかり忘れていたが良かったことを思い出した。
「強豪校相手に、一回だけアシスト決めたことはあったよ。苦し紛れにクロス上げたら、たまたまいい感じにヘディング決まって。試合はボコボコに負けたんだけどね。公式戦で点に絡んだのはそれ一回だけだったと思う。」
私がぽつぽつと話していくと、遥は喜んでいた。
「良いじゃないですか!私なんて姉がやってたからといって、急にテニスやらされて1セットも取れなかったんですから。それに比べたらぜんぜんすごいですよ。」
そんなものなのだろうか?サッカーの試合の思い出なんて、ほとんどはサボってると思われないように小走りでちんたらウロウロしてるだけだったんだけど。
「たまたまでも運でも、その時それをやって結果が出ればそれでいいんです。今だって、私も陽介さんも初めてで右も左もわからないまま、なんとか上手く行ってるじゃないですか。」
そう言われると、なんだか正しかったように思えてくる。
苦し紛れでも、たまたまでも、やらなかったらその結果は生まれなかった。
なんとなく起こったことに追われるようにあれこれとやっているけど、最初から諦めていたら遥の配信もなかったし、絵里や葵との関係や、美咲に会うこともなかっただろう。
そんなことを私が考え込んでいると、遥は続ける。
「だから、陽介さんは私にとって出来ない事を出来る素晴らしい人ですよ。陽介さんはたまたまとか小さいことだと思っていたとしても、それを出来る人は他にいないんですから。」




