うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:9
さっそく、スマホのバーチャルライブアプリをダウンロードする。
利用規約やアカウント登録など、初期設定を進めて行くと、プロフィール設定が出てきた。
いろいろと設定できる項目があったが、一番のポイントは名前だろう。
「遥?名前、何にする?」
遥に決めさせようと思って、聞いてみたが、
「名前ですか?えーっと・・・ネコちゃん?」
ぜんぜん話が噛み合っていない。
名前の意味を説明していく。
「このアプリで表示する名前で、自分の配信する時の芸名みたいな感じ?本名で配信する人はほとんどいないから、何かかわいい名前を考えてみて?」
そう伝えると、遥は「うーん。」と考え込んでしまっていた。
身体を左右に曲げたり、頭を抱えながら上体を前に折ったりしながら、うんうんと唸っている。
こうやって、何かを始める時に名前を考えたりするのって楽しいよな、なんて学生時代の頃を思い出したりしつつ、手持ち無沙汰だったので煙草に火を付けていた。
なかなか決まらないまま、煙草は三本ほど灰になった。
まだ、掛かるのか?と思いながら、四本目を手にしようとした時、ついに遥は名前が決まったのか、顔を上げ、私の方へ向き直った。
「名前、決まりました。」
遥は少し躊躇いながら続ける。
「黄泉乃 ヒカリ。私が希望の光を見つけられたように、誰かのヒカリになれたら良いなって。」
遥らしい、良い名前だった。
その言葉に私は静かに頷いて、名前を入力していく。
もっと変な名前になるのかと思っていたが、意外とVtuberっぽい名前で少し安心する。
ようやく名前も決まって、アプリの画面を進んでいくと、新着やおすすめ、特集にイベントなど、いろんな表示が並んでいる。
「どれ見る?」
「配信開始ですね!」
遥はもう、配信を始める気になっていたが、残念ながら準備はまだ整っていない。
やる気になってもらったところで悪いが、しばらくは見る方で勉強してもらおう。
「遥、まだ準備は終わってないんだ。バーチャルライブの方は、見たことがないし、とりあえず何か見てみない?」
それを聞いた遥は、口を少し突き出しながら手をバタバタとさせていたが、見る方も気になったのか、だんだんと機嫌が良くなってくる。
改めて、どれを見るか聞いていくと、あるライブが目に留まった。
"バイト終わった~!寝るまで夜枠!"
Youtubeだとこういう配信はあまり見かけない気がするので、スマホでのバーチャルライブの感じとしては、ちょうど良いかもしれない。
これにしようか、と遥に聞くとコクンと頷いていた。
かわいいイラストと、タイトルが書かれたサムネを押す。
システム:黄泉乃 ヒカリ さんが入室しました。(初めて)
画面の真ん中で、バーチャルモデルがゆらゆらと揺れていた。
他に視聴者がいないのか、視聴者数には1の文字が表示されている。
2~3秒経つと、入室に気付いたのかバタバタと動き出し、勢いよく喋り出した。
「わーっ!初見さんいらっしゃ~い!来てくれてありがと~!
あ、挨拶挨拶。
三度の飯より、シュークリィムゥ!甘々ふわふわ食いしんぼうVtuberの甘音 マカロンだよぉ。よろしくねぇ!」
遥はそれを聞いてあわあわしながら、よろしくお願いしますと頭を下げていた。
「遥、こっちの姿はあっちには見えてないよ。コメント送っておく?」
そう聞くと、遥は頭を縦にぶんぶん振っているので、"よろしくお願いします"と、さっき遥が言っていたものをそのまま送ってみた。
「こちらこそよろしくね~。ヨミノさん?ヒカリさん?お名前はどうお呼びすればいいかなぁ?」
遥はまたどうすれば良いかわからないのか、こちらをじっと見てくる。
「あんまり深く考えずに、思ったままで良いよ。言ってくれたのを、そのままコメントで送るから。」
そう遥に言うと、何秒か悩んで、じゃあ、ヒカリさんの方でと答えていた。
そこからは、しばらく質問攻めに遭っていた。
「ヒカリさんは、何を見て来てくれたの?タグ?新着?もしかして、おすすめとかに出てた???」
「ヒカリさんは食べ物は何が好き?甘党?辛党?」
「どうこの衣装?一周年の時に作ってもらったんだよ!ヒカリさんはファッションはどういう系が好き?」
あわあわしながらも、一つ一つ律儀に答えるので、それをコメントに打っていっていた。
少し質問が途切れたところで、遥が聞いてきた。
「これ、私から質問してもいいんでしょうか?」
もちろん、と即答しそうになったが、遥はネット文化に疎そうだったので、補足を入れて答える。
「もちろん。質問してあげると喜んでくれるんじゃないかな?でも、個人を特定するような質問だったり、リアルの生活を聞くような質問は避けた方が良いよ。」
じゃあ、と遥は聞きたかったことを話し出す。
「どういう目的や目標で、バーチャルライバーを始めたのかを聞いてみたいです。」
その質問はちょっと重いような、とも思ったがいい返事が返ってくるにしろ、適当にあしらわれるにしても遥にとっては良い経験になると思い、そのまま送ってみた。
「うーん、みんなに元気を与えるため?まぁ、それは建前で私の方がみんなから元気を貰ってるんだけどね!仕事でイライラしてても、配信に誰か来てくれて、かわいいとか言ってもらえたら、嬉しくて元気になっちゃうからね!」
遥にとっては予想外の答えだったのか、しばし考え込んで固まっていた。
さらにいくつか質問をやり取りしていると、
「あっ!もうこんな時間!今日はこの辺で終わりにするね。ヒカリさん来てくれてありがとう。また来てくれると嬉しいな。」
そう言い終わると配信は終わり、画面には終了の文字が浮かんでいた。
時計を見ると、時間は0時をとうに回っていて、私もそろそろ寝ないといけない時間になっている。
じゃあ、続きはまた明日に、と言おうとすると遥がつぶやいた。
「私だけじゃないんだ。他の人も見て欲しいと思って、見てもらえると嬉しいんだ。」




