うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:8
直接は見えないが、カメラには映る。
声も聞こえないが、スピーカー越しなら聞こえる。
確かに、遥が誰かに認識してもらおうと思うなら、Vtuberは良い方法かもしれない。
しかし、Vtuberってどうすれば良いんだろうか?
そんな事を考えていると、遥はもう待ちきれないのか、ぶつぶつと呟きながら配信のことを妄想しているようで。
「挨拶って、どうしよう?何か変化を加えた方が良いのかな?」
「歌・・・。学校で習った曲くらいしかわからない・・・。」
「面白い話って何かあったかな?コーラを始めて飲みました?それは違うような・・・。」
放っておくと、どんどん脱線していきそうだったので、適当なところで遥を止める。
「ストップストップ、遥。内容を考えるのも良いけど、配信に必要なものがわからないから、調べてみようか。」
そう伝えると、少し落ち着いたのか、遥の身体の動きは治まっていった。
そこから検索しようとしたものの、お腹が空いていたことを思い出す。
キーボードを叩こうとする手を止め、
「お腹空いたから、休憩にしようか。ちょっとコンビニ行ってくるから、待っててね。その間、動画は流しっぱなしにしとくから。」
遥はうんうん、と二回頷き、言葉は発さずに返事をしていた。
こうしていると、幽霊というよりも子供をあやしているようで、思わず微笑んでしまう。
その様子を眺めながら、鍵とスマホを掴むと、日が落ちたばかりの浅い夜をコンビニへと向かった。
家を出ると、まだ生温い夜の風がベタリと張り付く。
夏は苦手だな、そんな事を思いながら歩いていると、コンビニへはすぐに着いた。
夜食や明日の朝食分も合わせて、弁当などを籠に入れレジに持っていくと、その横にいちご大福が置いてあった。
遥は喜んでくれるかな?どうだろう?
生まれて初めて買うかもしれないそれをレジに並べ、会計を済ませ店を出る。
「ただいま~。」
そう言うと、部屋の奥から返事が返ってくる。
「陽介さん、おかえりなさい。」
その声を聞くと、自然と頬が緩んでいた。
そういう関係ではないのだが、同棲する彼女が出来たようで、無性に嬉しかった。
コンビニで買ったものを冷蔵庫に押し込んでいき、すぐに食べるいくつかは机へ運んでいく。
弁当と箸を片手に、もう片方の手に持っていたいちご大福を遥へ差し出した。
「これ、おみやげ。好きかどうかわからなかったけど、喜んでくれるかなって。」
そう言うと、遥はこちらの方をじっと見つめてくる。
「ありがとう、陽介さん。すごく嬉しい。」
でも、と遥は続けた。
「無理はしないでくださいね?気持ちは嬉しいけど、負担になっていないか心配で。」
裕福とは言えないが、多少コーラや大福を買うくらいは別になんという事もない。
だが、わがままを言ってみたり、遠慮してみたり、その遥の感覚を掴み切れずにいた。
さっと弁当を片付けると、さっきの続きを始めて行く。
"Vtuber 始め方"、"Live2D 依頼"、"歌ってみた 費用"、など関連するワードでいくつか検索して、内容を読んでいく。
「た、高い・・・。」
精々、1~2万円もあれば出来るのかと思っていたが、安く抑えたとしても予算が一桁は足りなかった。
事務所のオーディションに受かれば、モデルは用意して貰えたりするみたいだが、幽霊がオーディションを受けるわけにもいかない。
せっかく遥がやる気を出していたのだが、お金の問題はどうしようもない。
何かいい方法は無いのだろうか?
煙草を何本か灰にしながら、検索結果のページを捲り続けていると、遥が声を掛けてくる。
「陽介さん・・・。私のわがままに無理に付き合っていただかなくても大丈夫ですよ。陽介さんに見つけてもらえただけでも、十分幸せですから。」
そう言われてしまえばそれまでなのだが、私は諦めきれずにいた。
社会に出てから、特に目標も無く、夢も希望もなく、ただただ生きてきた。
そんな中、遥がVtuberに熱中して興奮する姿は輝いているように見えた。
わずかな間ではあるが、それは自分自身の夢にもなったようで。
そうして、またワードを変えたりして、検索を続けて行く。
素人がいきなり自作するのも無謀だし、元になる絵も描けない。
あれもダメ、これも難しい、と漁っているとあるものを見つける。
スマートフォンでバーチャルライブ配信。
イラスト一枚で誰でもライバーになれる。
これなら出来るかもしれない。
遥が夢見たステージとは違うかもしれないが、誰かには見てもらえる。
現実的なものが見えてきて、ディスプレイ越しに遥と目が合った。
夢への、初めの一歩がうっすらと見え始めていた。




