うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:7
のんびりと、遅すぎる朝ご飯を食べながら、ディスプレイの片隅から動画サイトのウィンドウを引っ張り出した。
カチカチと何回かクリックすると、いろいろなおすすめ動画が並んでいる。
特にこれといって、すぐに見たいものもなかったので、どれを見たいか遥に聞いてみた。
「どれ見る?好きなのを選んで良いよ。」
そう問いかけたが、遥はそれが何なのか分かっていないようで、何度か首を傾げていた。
「これ、何ですか?テレビの録画?」
なんだかジェネレーションギャップを感じる返答だった。
幽霊なので、何歳というのも変なのだが、もしかしたら私よりかなり年上なのかもしれない。
女性に歳を聞くのも失礼かと思い、適当に一つ開いて説明した。
「これは、無料で動画が見られるもので、テレビ局じゃなくていろんな人が投稿しているもの。企業とかのプロが作ってるのもあるけど、こういうのは個人が作ってるやつね。」
そう言いながら、猫のサムネをクリックする。
画面が切り替わると短い広告が流れ、それが終わるとディスプレイの真ん中で、3匹の子猫がニャーニャーと鳴きながら、ころころとじゃれ合っていた。
「かわいい!にゃんこがっ!あぁ、抱っこしたい!」
動画のBGMをかき消すように、遥の声がスピーカーから響く。
遥は猫派だったのか、猫がたわむれる姿に興奮していた。
動画が終わると、遥がこちらへ向き直って口を開く。
「陽介さん。」
なんだろうか。軽く返事をして、続きを待つと。
「猫飼いませんか?私、猫を飼うのも夢だったんです。」
猫は嫌いではないが、さすがにこの狭いワンルームと私のバイト代で飼うのはキツい。
「猫を飼うのはここだと無理だなぁ。それより、他に見たい動画はない?」
遥を宥めながら、別の動画へと誘導する。
少し遥は不満そうにしていたが、次はこれ、と別の動画を見ていく。
ダンスやメイク、大きな魚を捌く動画、グループで何かの企画をやっていたり、ゲームのプレイ動画など。
画面が変わるたびに、喜んだり、ビックリしたり、興奮したりと、遥は動画を楽しんでいた。
これだけ楽しんで貰えるなら、動画を作った人も嬉しいだろう。
そんな事を思いながら、動画視聴を続けていると、ある動画で遥が止まった。
「これ、どういうものなんですか?アニメ?」
それは、あるVtuberの切り抜き動画だった。
かわいらしいフレームの中で、Live2Dのモデルが喋りながら、脇ではコメントが流れている。
「これは、アニメじゃないよ。Vtuberと言って、カメラに映った人が動いたり喋ったりするのに、絵が合わせて動くようになってるの。」
遥は目をキラキラさせながら、ディスプレイに齧り付いていた。
「すごい!モーションキャプチャー?CG?これ、もっと見たいです!」
やっぱり、ジェネレーションギャップを感じる。
もしかしたら、マーカーを付けて撮影している姿を想定しているのかもしれない。
ここまでは、ジャンルはバラバラの動画を流していたが、リクエストにお応えして、Vtuber関連の動画を流していく。
いくつか動画を流していると、おすすめにライブ中の大手のVtuberが上がってきたので、今度はライブを画面に開く。
まだ、本編は始まっていなかったようで、準備中の表示が流れていた。
「これが生配信なんですか・・・?グッズ?新曲?」
疑問に思う遥に、簡単に説明をした。
これは配信前の準備中であること。
配信以外にもグッズや歌、企業コラボだったり、いろんな活動をしていることを。
「そうなんですねぇ。アニメのキャラがアイドル活動しているような?」
概ね、そんな理解で合っているだろう。
適当に説明をしていると、オープニングが始まり、特有の挨拶が始まっていく。
「こんちゃー!みんなー!異世界侍Vtuberの奈々木ナギやでー!今晩もよろしくなー!」
スピーカーから元気な挨拶が飛び出し、コメントがものすごい勢いで流れていく。
今日は歌枠だったのか、挨拶も手短に済ますと、さっそく一曲目のイントロが始まる。
勢いに圧倒されているのか、遥は口を大きく開けながらも、その視線は画面に固定され、身を乗り出していた。
曲が進んでいくごとに、遥の身体が揺れてきて、サビに入った時には両手を上げて振り回す。
曲が終わり、合間のトークに入ると、
「すごい!!!すごいです!アイドル?歌も上手いし、かわいいし、かっこいいし、えーっと、えーっと、白眉?目から鱗が落ちる?とにかくすごいです!」
興奮し過ぎたのか、遥のボキャブラリーが謎に崩壊していた。
微笑ましく、遥の様子を眺めていると、何かに気付いたようで質問された。
「この"視聴中"ってなんですか?あと、何か金額が書いてあるコメント?」
これは知らないとわからないところだろう。
ゆっくりとそれぞれ説明をした。
「"視聴中"ってのは、この配信をリアルタイムで何人見てるかってこと。100人も居ればすごいって言われるんだけど、この人は3万人だからトップクラスだね。」
遥はうなずきながら、静かに聞いているので続ける。
「金額が書いてあるのはスパチャね。お金付きで応援コメントを送るもので、大道芸とかの投げ銭みたいなものかな?」
理解出来たのか、出来ていないのかわからないが、遥はうんうん唸りながら考えこんでいた。
そうしている間に、また次の曲が始まる。
曲が流れるたびに暴れまわり、合間合間でVtuberについての質問をされながら、10曲が終わるとエンディングになり、夜はすっかりと更けていた。
気付けば、もうこんな時間か。
お腹も空いてきたなと思っていると、遥がゆっくりと、けれど強く宣言する。
「私も・・・。私も、Vtuberをやりたいです。」
「誰にも見てもらえない、気付いてもらえないと思っていた。」
「けど、これだったら。ナギさんみたいにはなれないかもしれないけど、少しはみんなに見てもらえると思うんです。」




