うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:84
関係。
そう問われると、いまいちピンと来ない。
居候と家主?
いや、遥は幽霊だから居候に数えてしまっていいんだろうか?
マネージャーと言えば聞こえは良いが、美咲はおそらく納得してくれないだろう。
あとは、恋人ではないし、友人と言ってしまうとよそよそしいし、ぼかしてパートナーと言うのもなんだか違う。
賢治に言わせれば、憑りつかれているとでも言うのだろうけど、憑く側も憑かれる側もそういう認識がない。
そうやって考えていると、美咲の視線はどんどんと強くなってきて、何か答えないとと思うのだが考えがまとまらない。
何か言おうと口を開こうとするのだが、その瞬間に美咲が身構えるので、それに気圧されて言葉が出ずに口を閉じてしまう。
そんなことを数分繰り返していたのだが、ついに私の方が折れてしまった。
「すみません。よくわかりません...。」
何も良い言葉が思い浮かばず、素直に謝ってしまっていた。
項垂れて、泣きそうな顔で頭を下げていると、美咲としても予想外だったようで困惑していた。
「その...。怒っているわけではないんだ。妹のことになると気負ってしまって申し訳ない。」
そう言いながら美咲も頭を下げてきて、もうどうしたら良いんだろうか。
相変わらず泣きそうな顔で、困惑している美咲の顔を眺めていると、美咲は続けて言う。
「特別な事情があったり言いづらかったら言わなくてもいいから、どこで知り合ったのかだけでも教えてほしい。」
聞き方を変えられたものの、まともに説明できる気がしない。
私はバッグに仕舞っていた、AIグラスとイヤホンを取り出した。
「すみません。遥に直接聞いてください...。」
私が遥と呼ぶとまた美咲の眉が動いて、ビクビクとしながら電源を入れて手渡す。
美咲は怪訝な顔でそれを受け取り、イヤホンを付け、AIグラスを掛ける。
その瞬間、表情が変わり、私に向いていた視線は誰も居ないはずの隣の席に向けられた。
「遥?いや、あの日確かに...。AI?でも、これは...。」
先ほどよりも、美咲は困惑しているようだった。
困惑しながらも凛とした佇まいだったのが完全に何処かへ行って、子供のように狼狽えている。
「お久しぶりです姉さん。ごめんなさい、こんな形になってしまって。」
遥が再会の挨拶をすると、美咲は肩を落とし、伸ばしていた背を丸めていく。
「遥なの?本当に?」
張りの無い声で美咲が問うと、遥は微笑みながら答えた。
「はい。肉の身体は失いましたが、未練がましくこの世に残って、陽介さんのところにご厄介になっています。」
そこからはしばらく遥の説明が続いていた。
自殺をしたこと、その後幽霊として目覚めたこと、私と出会ったこと、配信を始めたこと、先輩や絵里や葵などの私以外の友人や知り合い、依頼のメールから姉を見つけたこと。
一通り手短に要約して語り終えると、最後にと付け加えた。
「先ほど姉さんが陽介さんにどういう関係か尋ねられていましたが、私にとってはとてもお世話になっていて、幽霊になった私を受け入れてくれて、感謝してもしきれない大切な人です。」
遥が話し終わると、美咲は私の方へ向き直って深々と頭を下げてきた。
「知らなかったこととはいえ、失礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした。」
私としてはそんな大層なことをしたつもりもなかったので、両手をぶんぶん振りながら謙遜していると、美咲は続けて言う。
「もし...。遥が、自ら命を絶つ前にあなたに出会えていれば。きっとあんなことにはならなかったのに...。」
そう言われると、私にも責任の一端があるような気がしてくる。
どうやったらそれを避けられたのかと、考えていると遥が返す。
「姉さん。それがなかったら陽介さんと会うことも、こうして再会することもありません。姉さんや周りの人にご迷惑を掛け、嫌な思いをさせてしまったのは申し訳ないですが、今、私は十分"生きています"。」
それに、と遥は続ける。
「頼りなく見えるかもしれませんが、陽介さんは足ることを知り、足らぬことも知っている素晴らしい方ですよ。姉さんのようになんでもは出来ませんけど、人として信頼に足る、私にとってかけがえのない人です。」
きっと、フォローのつもりで言ってくれているんだろうとは思ってはいても、そうやって褒められるとなんだかむずがゆい。
遠くの親戚より近くの他人とは言うが、遥がそう言ってくれるのは嬉しくもなる。
そんな話をしていると、応接室のドアが叩かれ、外から女性の声が響いてくる。
「代表。次の打ち合わせが迫っておりますので、ご準備をお願いします。」
声が掛かると、美咲は左手に付けた高級そうな時計を一瞥すると、外へ返事をしてから表情を整える。
「本日はご足労いただき、ありがとうございました。」
美咲はそう言うと、机に置かれていた書類の裏に手早く何かを書いていく。
扉の外で聞かれているのだろうか、書いた紙を私に押し付け続けて言った。
「それでは、良いお返事をお待ちしております。先方にもそうお伝えください。」
言い終わると、美咲はAIグラスとイヤホンも返してきて、席を立つ。
受け取って、バッグに仕舞いながら私も席を立つと、ドアノブに手を掛けようとした美咲が振り返って私の方を見る。
親指を立てながら、今日見た表情の中で一番の笑みを投げかけてきた。
ドアへ向き直ろうとする時には、引き締まった表情に変わり、その背中には威厳と存在感が立ち昇る。
さすが、遥が敵わないと言った姉だなぁと思いながら、私も続いて応接室のドアを出て帰路へと着いた。




