うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:82
絵里の家の給湯器も直って数日後。
今日は打ち合わせの日で、いつもより早く起きて準備をしていると部屋のチャイムが鳴る。
ピンポーン!
こんな時間に来るのは、宗教勧誘かNHKかと玄関を開けてみると。
「おはよう陽介。今日、打ち合わせなんでしょ?」
絵里が立っていた。
「いや、打ち合わせには連れていけないんだけど...。」
気になって来てくれたんだろうけど、先方には伝えてないし、連れていったら連れていったで面倒くさいことになる気しかしない。
そろそろ出ないといけないし、お引き取り願おうかと思っていると。
「そんなこと知ってるわよ。遥が陽介の服見てくれって。どうせ、その恰好で行こうとしてたんでしょ?」
そう言いながら、絵里は私を押し込みながら、ズカズカと部屋に上がり込んできた。
部屋の中に入ると私を真っすぐ立たせ、上から下まで眺めていって。
「とりあえず、シャツ。アイロン無いの?そのしわしわのままで行く気?」
言われるがままに、押し入れからアイロンを引っ張り出すと、Yシャツを脱がされていく。
絵里はアイロンの準備をしながら、さらに服装を眺めていく。
「ジャケットとスラックスの色はそれでいいけど、ベルトは黒いの無いの?黒のスラックスにそんな薄い色のベルトじゃダメでしょ。あと、靴は?スニーカーで行く気じゃないでしょうね?」
次々に指摘されて、あれこれ変えていかれる。
「靴これ?埃被ってるじゃん。磨いてあげるから、なんか布持ってきて。このクリーム使えるの?カチカチなんだけど...。」
そんな様子を遥はニコニコしながら眺めていた。
「やっぱり、絵里に来てもらってよかったですね。陽介さんの服装は不安だったのですが、私もセンスがないので。」
そう思ってたなら、昨日のうちに言ってくれよと思いながらも、絵里は手際よく靴を磨き、アイロンを掛けて私に着付けていく。
「まー、うん。こんなもんか。っていうか、何日かあったんだったらクリーニングくらい出しておきなさいよ。」
なんで叱られてるんだとも思ったが、言われていることは至極真っ当で反論のしようもない。
「ごめん、絵里。ありがとう...。」
ちょっと項垂れながら、靴を履いていると背中を叩かれた。
「しゃきっとしなさいよ。嘘でもいいから、堂々としてたら上手く行くんだから。」
そうやって、励ましてくる様子もお母さんみたいで、なんだかおかしく感じてくる。
ちらりと後ろを振り返ると、遥は微笑みながらこちらを見ていた。
そこから、駅前で別れて普段は乗らない路線に乗っていくと、だんだんとスーツ姿の人が増えてきて、ビジネス街に近づいていっているんだなぁと感じる。
駅に着いて改札を出ると、うちの最寄り駅とは違って綺麗で、商業施設への入口も見えるのだが。
「出口どっちだろう?B7?A5...?」
西口か東口かわかればいいかと思っていたが、東西南北もわからない。
メールに住所は書いてあったから、調べればいいかとスマホを見ようとしていると、遥が呼びかけてくる。
「こっちですよ陽介さん。A3出口でビル直結です。」
遥の呼ぶ声に付いていってのだが、なぜ道を知ってるんだろうか?
「遥は来たことあるの?」
疑問に思った事を直接聞いてみると。
「いえ、ここに来るのは初めてですよ。住所がわかった時にSiriさんに聞いて、GoogleMapでも見ていたので予習はバッチリです。」
こういうところはとても準備が良い。
この前食事に連れていった時も、メニューやキャンペーンも事前に調べていたし、遥の癖なのかもしれない。
遥のナビで地下道を進んでいって、大きなエスカレーターを登るとビルの入り口へと着いた。
ベンチャー企業と聞いていたので、雑居ビルみたいなところかと思っていたが、やたらと広くて天井も高い。
「あれ?そんなに大きい会社じゃないんじゃ...。」
私が尻込んでいると、遥が言う。
「ベンチャーと言っても、医療関係だと資本が要るのでそれなりの規模ではありますよ。事務所の場所も辺鄙なところには出来ないですし、商談相手も大きいところが多いですからね。」
そうやって説明されると、ますます場違いな気がしてきて肩身が狭くなる。
すれちがう人たちも、しっかりしたスーツに身を包んだ身なりの良い人ばかりだし。
キョロキョロと辺りを窺いながら、ロビーを進んで受付の方へ進んでいっていると、遥が声を掛けてきた。
「陽介さん。」
その声に立ち止まって振り返ると、遥は続けて言う。
「今回はこちらからお願いしに来ているのではなく、相手から乞われて出向いているんです。遜る必要も、遠慮する必要もありません。もし、姉が失礼なことを言ったら、その場で席を立ってもいいんです。気負わず、陽介さんのペースで進めていただいて大丈夫ですよ。」
緊張や不安が態度に出てしまっているんだろう。
その言葉に私はピシャっと頬を叩いて、止めた足をまた進めて行った。




