うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:81
バタバタとしていたものの、特に大きなトラブルもなく閉店の時間を迎えた。
そこからいつものように、後片付けや閉店後の掃除に手を付けようとしていると。
「あー、小柳くんいいっていいって。片付けは僕がしておくから早く帰りなよ。」
店長はそう言いながら、颯爽と帰っていく絵里の背中をチラチラ見ている。
変な気の遣われ方をすると、からかわれているというか恥ずかしいというか。
もちろん店長にそんなつもりはなく、本心で言ってくれているのはわかっているのだが、なんだかむずがゆい。
かといって、あれもこれも説明できないし、不本意ながらも受け入れた。
「ありがとうございます。お先に失礼します。」
笑顔で答えたつもりだったが、もしかしたら少し引き攣っていたかもしれない。
足早に階段を降りて、帰り道の途中にあるコンビニに寄ると、まだ買い物をしていたようで絵里がいた。
「おっ、早かったじゃん陽介。明日も泊まるし、要るもの今日のうちに買っておこうかな。冷蔵庫空いてたっけ?」
絵里が持っていたカゴを受け取り、後ろを付いていきながら私も買うものを見ていると、絵里の足がふと止まる。
何だろうかと窺うと、雑貨・日用品コーナーの下段に置かれた小さな箱に絵里の視線は向いていた。
その視線を私の方へ移して、絵里はニヤっと笑う。
何を返してもハズレを引きそうだと思って黙っていると、絵里は笑みを緩めて言う。
「冗談だって陽介。そういえば、風呂場の電気チカチカしてなかったっけ?」
そして、食べ物やいくつかの雑貨や日用品を買って、買い物袋を下げながら家へと歩いていっていると、道の先の方に一つの人影が見えた。
だんだんと近づいてくると、おそらく男性だろう姿がはっきりと見えてくる。
目深に野球帽を被って、肌寒くなってきたのにヨレヨレの半袖の白いTシャツにジーンズ。
腹は出ていてだらしなく、わずかに見える顔の端には無精ひげがチラチラと映る。
こんな時間に何もない住宅街を、というのは人のことは言えないのだが不審な気配を感じてしまう。
その様子に緊張していると、少し離れてスマホを弄りながら歩いていた絵里も気付いたのか、私の方へ寄ってきて空いていた手を握ってくる。
その手は震えているようだったが、怖いのは私も同じで握られた手をギュっと握り返す。
何も、ないよな?と思いながら、道の端と端ですれ違うとその後の背中もチラチラと窺った。
その背中が見えなくなったころにはうちのボロアパートの前へと着いていて、私は息を大きく吐き出し手を離した。
「近所の人がコンビニにでも行こうとしてたのかな?ちょっと警戒しちゃったけど。」
緊張が解けた私が、肩をなで下ろしながら言うと、絵里は先ほど話した手を差し出してくる。
「うん。そうかもね。」
一度離した手を引いて階段を昇っている間、絵里は少し俯いていた。
玄関を開け、部屋の中へと入っていくと出迎えの声が聞こえてくる。
「おかえりなさい、陽介さん、絵里。今日もお疲れさまでした。」
そうして中へ入ったのはいいのだが、手は引いたままで絵里は下を向いていた。
そんな様子を見て、遥は続けて声を掛けてくる。
「大丈夫ですか絵里?具合が悪いんですか?陽介さん、キッチンの上の棚にお薬がいくつか残ってましたよね?」
遥が絵里の周りをオロオロと動いていると、絵里が顔を上げる。
「大丈夫大丈夫。ちょっと不審者?みたいな人とすれ違って緊張しただけだから。ちゃんと頼りになるナイトも隣にいてくれたしね。」
私も絵里の様子が心配だったが、冗談を言えるくらいには落ち着いたようで。
「それならいいのですが、無理はしないでくださいね...。」
遥はまだ心配しているようだったが、絵里は何かを思い出したようでパッと表情は明るくなり、バッグの中を漁り出す。
「これこれ。なかなか届かなくって遅くなっちゃったけど、前に話してたやつ。」
絵里はそれを取り出して、元気よく言った。
「ジャーン!これで遥も安心できるでしょ?」
そう言いながら目の前に出されたのは、高さ30cm、横幅20cmくらいの薄めの段ボール箱。
私も遥も首を傾げながら、頭の上にハテナマークを浮かべていると絵里は続けた。
「ごめんごめん、すぐ組み立てるから待ってて。」
そうして、絵里が段ボール箱から板を取り出して組み立てるとそれは出てきた。
「遥の...アクリルスタンド?」
そう、出てきたのは遥が配信をする時の黄泉乃ヒカリの大き目のアクリルスタンドだった。
「前に位牌とかの話してたじゃん?でも、位牌だと仏壇って感じで自分のって感じがしないしかわいくないから、遥だったらこっちの方が良いかなって。どう?」
絵里が遥に訊ねると、遥はとても喜んでいるようだった。
確かに、形や役割を考えるとこれはこれですごく良いのかもと思っていると。
「ありがとうございます絵里。とても嬉しいです。生前に銅像を作られた方も、こういう気持ちだったのでしょうか。」
なんだかちょっとズレた感想が返ってきていた。
それは自己顕示欲とか権力の象徴でちょっと違うような気がとも思ったが、せっかく絵里が作ってくれて、遥も喜んでいるしと私は微笑みながらスルーしていた。




