うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:80
バタバタとしながらバイト先に着き、手早く開店の準備をしていっていると、店長が話しかけてきた。
「ごめんね小柳くん。いつも早く来てくれてるのに甘えてたけど、最近忙しいみたいだし無理しなくていいよ。」
確かにここしばらくはいろいろと遥関係のことで忙しく、今日のようにギリギリに滑り込むように出勤することも珍しくなかった。
とはいえ、本来の出勤時間よりは早く、この分の時間も給料を出してはくれていたのだが。
「そうですねすみません。もうしばらくすれば、落ち着くとは思うんですが...。」
私が歯切れ悪く答えていると、店長は微笑みながら語り出す。
「いいよいいよ。どちらかというと、今まで少し心配だったんだけど、打ち込めるものを見つけてくれてよかったかな。僕みたいに店長とかやってたら、どうしてもプライベートを優先できないことも多いけど、そういう融通が利くのもバイトの良いところだしね。」
そう言われて嬉しい気持ちもあったが、なかなか複雑なところもあった。
やりたいこと、はそうなのだがどちらかと言うと、それに付随するものに忙殺されているというか。
それに、やってるのは遥で、私は協力者というかマネージャーみたいなもので。
「ありがとうございます店長。」
返事をして準備の続きをしていると、先輩も出勤してくる。
そういえば、先輩にしたい話があったことを思い出して、ロッカーに入ったところで呼びかける。
「先輩、先輩。聞いてもらいたいことがあって、遥の歌のことなんですけど...。」
そこからロッカーを出て、キッチンの方で簡単に今後歌の配信をしようと思っていることや、歌の練習をしていること、先輩にも聴いてもらって意見を聞きたいことなどを話していった。
「それはまぁ、大変だな。けど、歌は俺も気になるなぁ。何か録音したものとかないの?」
そんな話をしていたのだが、いつの間にか出勤してきていた絵里に聞こえていたようで、間に割り込んできた。
「歌?どういうこと?聞いてないんだけど。」
狭いキッチンの中で私が絵里に詰められているのを見ながら、先輩はニヤニヤしながら離れていって、今日も営業が始まっていく。
早い時間帯はあまり客入りが良くなく、今日は暇かと思っていたら、遅い時間になるにつれてどんどんテーブルが埋まっていった。
こういう時はホールの方が回らないことも多く、バタバタとホールとキッチンを出入りしていると、先輩が声を掛けてくる。
「あっちの奥のテーブル。よく来るオタクの大学生グループがいただろ?遥の配信の話が聞こえて来てたぜ。」
言われてそちらの方を向いてみると、何度か見たことがある顔ぶれが並んでいる。
なるほど。前にそういう話をしているのが聞こえてきたことがあったのだが、遥の配信も見てくれているのかな。
そんなことを考えていると、先輩は私が持っていた料理を奪い取って、代わりにジョッキをいくつか押し付けてきた。
「これ、そのテーブルの分な。そっちは俺が持っていくから、お前はあっちに行ってこいよ。」
ジョッキ片手にそのテーブルに近づいていくと、話声が聞こえてくる。
「あれ、前世は誰なの?ニコニコとかTwitchでやってた人?」
「いや、そういう情報は出てないね。絡んでるのも個人勢ばっかりだし。」
「そうなん?Twitterでバズってたのは見たけど。」
半信半疑だったが、確かにそれらしい話をしていた。
「お待たせしました。こちら、ビールとハイボール。ウーロン茶はそちらのお客様でよろしかったでしょうか。」
適当に手にしたジョッキとグラスを配膳していっていると、その間にも会話は続いていた。
「だいぶ金掛かってるみたいだけど、企業勢なの?」
「それも謎なんだよな。案件やスポンサーも無いみたいで、イラストも見た事ない絵師だし。」
「なんだよそれ。元企業勢の転生とかなのかなぁ。」
テーブルを離れながら、背中で会話の続きを聞いていたが、思わず笑いだしそうになってしまう。
信じられないし、謎だと思っているのは私自身で。
もし、幽霊がやってると言っても信じてもらえないんだろうなぁ、と思いながら業務へ戻っていった。




