うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:78
メールの返信をしてから三日。
送ったは良いものの、返事が来なくて心配になってきていた。
もしかして、なりすましや変なメールだったのではないかと思い、メールアドレスのドメインやフッターの署名に書かれた電話番号を調べたりしてみたが、実在のものであるのは間違いないようだった。
こちらから問い合わせたりしているならまだしも、向こうから送ってきたものなのに、そんなに返信が来ないものなのか。
やきもきしながら遥に相談してみると。
「明日には返事が来るんじゃないですか?」
思っていたよりもあっさりとしていた。
どちらかというと、私より遥の方が待ち遠しいんじゃないのか?
「なんで明日?何日も返ってこないのに?」
少し苛立ちながら、遥に聞くと答えは単純だった。
「返信したのが金曜の夜でしたよね。土日と、月曜が祝日だったので、明日は平日で返事が来ると思いますよ。」
言われて見れば確かにそうだった。
シフト勤務のせいで、曜日感覚も無ければ祝日も関係なくなっていたのだが、世間はそうか。
なるほどと唸っていると、遥が続けてきた。
「こういうのは陽介さんの方がわかってると思ってたんですけどね。少し意外でした。」
「いや、もう数年土日も祝日もない生活してきたから...。」
そんな話をしていると、玄関のチャイムが鳴る。
こんな時間に?
時計を見ると、午前一時半で普通は人が来るような時間でもない。
なんだろうかと、玄関に行ってドアスコープを覗き込むと絵里がいた。
「こんな時間にどうしたの?何かあった?」
ドアを開けて尋ねてみたが、不機嫌そうに返してくる。
「LINE送ったじゃん。給湯器壊れたから、しばらく泊めてって。コンビニでお酒でも買ってきてあげようかと思ったけど既読も付かないしさ。とりあえず入れてよ。」
そうして、絵里がズカズカと部屋の中に上がってくると、玄関での話を聞いていたのが遥が謝っていた。
「ごめんなさい絵里。私にもメッセージをいただいていたのに気付かなくて。修理はしばらく掛かるんですか?」
遥が問いかけると、絵里は首を傾げながら手を広げて答える。
「わかんない。壊れてるのに気付いたのがさっきで、明日業者の人に見てもらってかなぁ。何日か掛かっちゃうかも。」
絵里はぶつぶつ文句を言いながら、衣装ケースからいくつか取り出して浴室へと向かって行く。
まぁ、そういう事情ならしょうがないかと、またPCへ向かっているとしばらくして絵里が浴室から出てくる。
「シャンプーなくなりそう。Amazonでここに置き配にしとくから、受け取っておいてね。」
はいはい、と返事をして、絵里が髪を乾かしているのを見ていたら、あることが気になった。
「葵の家には行かなかったの?仲良いみたいだし、そっちの方が絵里の家から近いんじゃない?」
私が聞いてみると、絵里は険しい表情で返してきた。
「一回行ったことあるけど、ここみたいに服とか化粧品とか置いてないし、アレが居るからあんまりいきたくないんだよね。」
そう言われて、葵の家に行った時のことを思い出す。
「あー、イグアナか。爬虫類苦手なの?」
介抱したり掃除したり、ドタバタとしていたがかなり大き目のグリーンイグアナが居たことを思い出していた。
私は別に苦手ではないが、あの大きさは苦手な人からすると怖いだろうなぁと思っていると。
「なんで葵がイグアナ飼ってるのを知ってるの?なんで?私も家に行くまで知らなかったんだけど。」
秘密にしていたわけでもなかったのだが、完全に墓穴を掘っていた。
やましいことも無いのだが、どう弁解したものかと考えていると。
「初配信の後、陽介さんが葵さんとご飯を食べに行ったら、葵さんが酔いつぶれてしまったそうで、家まで送ってらっしゃったんですよ。それで...。」
遥は味方なのか敵なのか。
どちらとも取れないような事実を並べてきた。
そんな遥が話すのを聞きながら、絵里は疑惑の目を向けてくる。
そして遥が言い終わるのを待たずに、追撃を飛ばしてきた。
「それで葵の家に泊ったの?酔い潰して、家に上がり込んで?ねえ?私の家に来たこともないのに?」
ああもう、どうすれば良いのだろうか。
わざわざ行かなくても絵里の方から来てるじゃないか、なんて言えば火に油を注ぐようなものだろうし。
なんとも返答できずに口ごもっていると、遥がまた話し出す。
「このくらいの時間には帰ってきてましたし、葵さんもご迷惑ご心配をお掛けして申し訳ございませんでしたと言っていましたし、変なことはなかったと思いますよ。」
それは弁解になっているのか、なっていないのか。
絵里はそれを聞いて、私の方をチラチラと見ながら、指を折って何かを数えている。
何を数えているのかは聞かない方がいいだろう。
胃が痛い思いをしながら、しばらくの沈黙が流れた後。
「まぁ、いいか。ごめんね陽介。葵の面倒見てくれて。」
あまり納得してくれたようにも見えないのだが、ひとまず解放されるのか。
そう思ったのもつかの間、絵里はベッドに座っていた私の隣に身体を寄せて座ってくる。
思わず離れようとしたが、首元に手を回されて抱き着かれた。
そのままの勢いで、膝の上に乗られ、密着したまま耳元で囁かれる。
「私が酔いつぶれても、優しく介抱してくれる?」
押し付けられる感触で、手のやり場に困りながらもなんとか答える。
「もちろん。少し、困ったけどね。」
私が言うと、絵里は身体を離して正面に向き直る。
「かわいい?」
絵里は少し身を屈めて、上目遣いに窺ってくる。
「うん。かわいい。」
私が言うと、絵里は笑みを浮かべて膝から降りていった。
そして、いつものように電気を消して、ベッドに入っていくと、絵里の方に向くように服を引っ張られる。
向き直ると、腕を取られて枕にされた。
「そのままギューってして。」
言われるがままに抱きしめると、さらに注文が来る。
「頭撫でて。」
しばらくすると満足したのか、また別の注文が来た。
「背中トントンして。そう。ありがと。」
機嫌が直ったならいいかと続けていると、不意に太ももをなぞられビクッとしてしまう。
それに手が止まると、絵里は声を潜めて言った。
「今度はうちに来てね。」
言い終わると、絵里はすぐに寝てしまったのだが、私は寝付けずに時間が過ぎて、いつの間にかカーテンの外は朝日が昇り始めていた。




