うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:76
深夜の住宅街をのんびり歩いて帰ると、普段見えないものが見えてくる。
こんなところに誰が来るんだろうかと思うが、民家に紛れて飲食店や小さな病院が点々としていて。
コンビニも定期的に出てくるのだが、同じチェーンが続いたかと思うと、今度は別のチェーンが続けて出てくる。
小学校、中学校、高校、郵便局、公民館。
住宅街のど真ん中でもいろんな生活に関わる施設がある。
公園も普段通っている駅前までの道には一つしかなかったが、こうやって違う道を長く歩いているといくつもあって、それぞれ違う遊具が置かれていたり草木が植えてあって、眺めているだけでも面白い。
そうやって深夜の散歩を楽しんでいると、見慣れた道に辿り着き、遠くに我が家のボロアパートが見えてくる。
もう終わりか、と少し残念に思ったが、楽しいと時間は早く過ぎるもので葵の家を出てから30分は経っていた。
家に着いて、部屋の中に入っていくと遥が声を掛けてきた。
「陽介さんお帰りなさい。午前様ですか?今日はどこの女のところに行ってきたんですか?」
今日の遥はそういう気分らしい。
「いや、葵さんのところって連絡してたじゃん。」
私が返すと遥は笑っていた。
「ふふふっ。冗談ですよ。遅くまでご苦労様でした。それで、何を食べてきたんですか?」
そこからは、遥に質問されながら紆余曲折を話していく。
出前を取った寿司屋に行ったこと、そこでの寿司やイカのお造りの話、お酒を飲んで酔いつぶれた葵を家に送ったこと、葵が吐いてそれが原因で帰りが遅くなったことなど。
もちろん一部は内緒にしていたが。
「葵さんには悪いですが、面白い経験でしたね。私も付いていけばよかったかな。」
それは来ないでくれてよかったというか、なんというか。
そして、まだ吐瀉物の匂いが残っているような気がする服を脱ぎ、いろんな汗がべた付いた肌をシャワーで流して部屋へ戻ると、また遥が違う顔で笑いながら待っていた。
「お二人が出かけてから、歌の練習をしていたんですよ。まだ拙いのですが、一曲聞いていただけますか?」
こういう行動力というか、努力は遥は人一倍強い。
「もちろん。どんな曲にしたの?」
私が返事をすると、遥は曲名を告げてきた。
その曲は最近ネットで人気の歌手が歌っていたもので、私も何度か聴いたことがある。
ちゃんと調べて、合わせてくるのはさすが遥というか。
検索して出てきたカラオケ音源を流すと、遥はマイクの前に立って歌いだす。
最近の曲らしく、極端な音程の高低だったり、ラップのような高速詠唱やガナりも含まれるので、大丈夫かと心配していたがそれは杞憂だった。
この数時間でどうやって身につけたのかは分からないが、元のクラシカルな歌い方にプラスして、パワフルなエッジボイスやガナりも入れてくる。
舌が足りないと言っていたのに、滑舌良く速いところも回していくし、一曲の中で何人も違う人が歌っているようで。
わずか数分だったが、曲が終わるころにはその歌唱力に圧倒されていた。
「遥!すごいよ!謙遜してたけど、めちゃくちゃ上手いじゃん!」
私は深夜だというのに、拍手しながら遥を大きな声で褒めていた。
これが絵里だったら指笛くらい吹いていたかもしれないし、葵は涙しながら延々と褒めちぎっていたかもしれない。
先輩にも今度聴いてもらおう。先輩はバンドもやってるし、きっと良い感想が貰えるはず。
「まだまだ思い通りにいかないところもあって、もっと練習が必要なのですが、そう言ってもらえて嬉しいです。」
これで満足していないのも遥らしいというか。
良かったと思ったところなどを改めて褒めていっていると、遥は言う。
「姉はもっとすごいですから。私みたいに何度も練習しなくても、一度聴いただけで私より上手に歌いますし...。」
前にも遥から聞いたが、こんなハイスペックな遥が全く敵わないと思う姉とはどんな超人なのだろうか。
身内の贔屓目もあるのだろうが、それを差し引いても十分過ぎる異次元の存在に感じる。
難関医学部を超える学力と、インターハイで優勝できる運動能力に、歌唱に絵画に芸術もこなす感性。
天に二物を与えずというが、三つ四つと言わず何でも頂点を取れるような才能と努力があるようで。
私が考え込んでいると、遥が言う。
「今、姉はどうしているんでしょうね?きっと姉のことですから、私が思い浮かばないような活躍をされているんでしょうけど。」
そう言われると余計に気になってくる。
そんな話をしていると空は白み始めていた。
明日というか、今日もバイトなのでそろそろ床に就かないと起きられなくなる。
いそいそと寝支度を整えて、ベッドに入った。
「おやすみ遥。」
私が声を掛けると、穏やかな返事が返ってくる。
「おやすみなさい陽介さん。また明日。」
横になって瞼を閉じると、小さく遥の歌声が聞こえてきた。




