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うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???  作者: 入舟三叉


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うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:75

 タクシーに乗ってから7~8分。葵の家は思ったよりも近かった。

隣駅の範囲ではあるのだが、男性の足なら私の家まで30分も掛からないのではないだろうか。

築も浅いようで、私が住んでいるボロアパートなんかよりもよっぽど綺麗だった。

そして、ふらふらとする葵を支えながら、アパートの階段を昇っていく。

女性に対してこういうことを言うのは失礼なのだが、けっこう重たい。

体重自体はそこまでないのかもしれないが、葵の方が背が高く、さらに力なくもたれかかってくるものだからバランスが取りづらくて辛い。

階段を昇り切ったころには、息は軽く上がり、肌寒くなってきていたのに汗ばんでいた。


 鞄の中からなかなか出てこない鍵を引っ張り出し、重たく感じる戸を開いて玄関に入ると、中もちゃんと綺麗だった。

うちのボロアパートにはない、扉が付いたシューズボックスもあるし、電気のスイッチもおしゃれだし。

玄関で壁にもたれかかったままの葵の靴を脱がせ、手を引いて中に入ろうとすると急に私の方へ倒れるように抱き着いてきた。

被さるように背中に腕を回され、耳元で葵の荒い吐息が聞こえる。

さらに壁に押し付けられるように体重を預けられ、それからどのくらい経っただろうか。

ずいぶん長く感じたが、もしかしたら10秒くらいだったかもしれない。

葵の息がさらに荒くなり、痛いくらい強く抱きしめられると、そこが限界だったらしい。

「うっ...。オロロロロロロロ...。」

思い切り首元でゲロを吐かれた。


 ツンとした吐瀉物の匂いが広がり、背中をドロドロとしたものが伝っていく。

一旦それが止まったタイミングを見計らい、背後の違う扉を開けると幸いにもトイレだったので、そこに押し込んで残りを吐かせる。

葵が便器に顔を突っ込んでる間に、グショグショになったTシャツを脱ぎ捨てて背中を拭う。

女性の家に来て服を脱ぐのは少し躊躇ったが、背に腹は代えられない。

トイレで唸る葵からなんとか聞き出して、風呂場で服を軽く洗い流して、掃除を始めていく。

不幸中の幸いというか、居酒屋でバイトしているだけあって、吐瀉物の掃除や処理は不本意だが慣れている。

ビニール袋やボロ布や洗剤をかき集め、テキパキと片付けていくと、10分も掛からずに大惨事だった玄関は綺麗になっていた。


 葵はひとしきり出すものを出し切ったからか、少し回復したようでベッドに座って、チビチビと水を飲んでいた。

なんとこの部屋には浴室乾燥という便利なものもあるらしく、急いで手洗いしたTシャツを干しながら、服を借りて乾くのを待つ。

まぁ、借りた服というのがコスプレ用に持っていた男性用のYシャツで、どちらかというと逆の立場の方が良かったなという有様だったのだが。


 乾くまではまだしばらく掛かるようだったので、ベランダで煙草を吸いながら遥に連絡していた。

"葵さんが具合が悪くなったので、家まで送っていったから、帰りは遅くなるけど心配しないで。"

そうメッセージを送ると、すぐに返信が返ってきた。

"わかりましたお気をつけてください。絵里には内緒にしておきますので大丈夫ですよ。"

何か誤解されている気がする。

"いや、そういうことじゃなくて、何もないし服乾いたらすぐ帰ってくるから。"

弁解のメッセージを送ると、またすぐに返信が返ってくる。

"冗談ですよ(笑)なんとなく想像は付きますが、帰ってきたら何が起きたか教えてくださいね。"


 携帯灰皿に吸殻を入れて、部屋に戻ると葵が泣いていた。

「陽介さん。ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ございません...。」

泣きたいのはこっちだよ、という言葉が喉元まで出かけたがぐっと堪えて葵を励ます。

「料理もお酒も美味しかったししょうがないよね。飲み過ぎないように止められなかった俺も悪いし。」

私がそう言うと、さらに葵は泣き出してしまった。

ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながら、子供のようにむせび泣いていて、いつもより葵の背中が小さく見えてくる。

そんな背中を撫でていると、上目遣いに見上げながらねだられた。

「ぎゅーってしてくれますか?」


 いきなり何を言いだすんだ?

いや、さすがにそれはちょっと、と身体を引いて断ろうとしたのだが。

「絵里にはしてるんですよね?別に変なことをしようとは思っていませんし、誰にも言いませんので...。」

おい、絵里。お前はなんてことを言いふらしているんだ。

というか、そんな話誰かにするものなのか?

予想もしていなかった方向から外堀を埋められ逃げ場がなくなる。

一つ、大きなため息を吐いて、両手を広げて差し出すと、葵は勢いよく額を胸にぶつけてきて思わず口から息が漏れる。

なんとか葵を受け止めると、頭をグリグリと押し付け、じゃれつくように抱き着いてきた。

その頭を撫でながら、大型犬を飼ったらこういう感じなのかなぁと現実逃避をしていると。

「ありがとうございます陽介さん。お仕事はちゃんとしますので、今だけ。少しだけ甘えさせてください...。」


 そうして、しばらく葵を撫でていると、浴室の方から電子音が鳴り、服が乾いたことが告げられる。

くっついていた葵を引き離そうと思ったが、葵の方から手を離してきて解放される。

時計を見ると、すっかり夜半は回っていて2時を回っていた。

今から歩いて帰って、家に着いたらシャワー浴びて、明日起きる時間はと考えると気が重い。

借りていたYシャツを返して、乾いたTシャツに着替えて帰ろうとすると、葵も見送りに来る。

じゃあまた、と声を掛けると別れ際に葵が言った。

「今日のことは内緒でお願いします。また飲みに行きましょうね、今度は酔いつぶれないくらいで。」

手を振って葵の家を後にすると、その言葉の意味を考えながら我が家までとぼとぼと歩いて帰っていった。

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