うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:68
ここまで準備してきたはいいものの、このまま配信を続けても良いのだろうか?
遥は?私も...。
ちょっとした個人の遊びのつもりだったが、収益や使った金額は趣味のレベルではなくなってきているし、関わる人数も増えてきていた。
最悪、先輩と絵里だけだったら理解してくれるだろうし、頭を下げれば済むが、今は葵や夏帆、他の協力者やここまで支援してくれたリスナーがいて。
もうすでに十分過ぎるほど大変なことにはなっているのだが、さらに大きい舞台に出るとなると、どうなってしまうのだろうか。
漠然とした不安に時折手が止まりながらも、それでいて辞めることもできず、Youtubeでの配信の準備はほとんど終わっていた。
「遥。」
私が呼びかけると、遥はゆっくりと振り向いた。
私の顔を見ると、微笑んで落ち着いた口調で返事をする。
「はい、陽介さん。どうしました?」
不安が態度に出てしまっているのか、遥の様子が私をあやすように感じられ、少し恥ずかしいような情けないような気持ちになってきた。
だが、泣き言を言ってもしょうがないので、一呼吸置いて予定を伝える。
「次の休みの日。昼過ぎからYoutubeでの初配信をやろうと思うんだけど、遥は大丈夫?」
私がそう言うと、遥は少し間をおいて、困ったように答えた。
「大丈夫ではないかもしれませんね?」
予想外の返答に動揺していると、遥は微笑んで続ける。
「私だけだと失敗してしまうかもしれません。でも、陽介さんや絵里、先輩もいますし、葵さんや夏帆さんもきっと助けてくれます。だから、不安はありますけど、怖くはありません。」
私は失敗するのが怖くなっていたのかもしれない。
その言葉に肩の荷が少し降りた気がした。
無責任で良いということではないが、そもそも手探りでやっていることが全て上手くいくわけがない。
配信もそうだし、遥との暮らしもそうだし。
「ありがとう遥。大丈夫じゃないかもしれないけど、今まで通りやっていこうか。」
私が返事をすると、遥はにっこりと笑って答えた。
「はい、やってみましょう。不安もあるけど楽しみですね。」
そこからはYoutubeでの配信に向けて、正式にSNSで告知したり、チャンネルを公開していくと反応は早かった。
まだYoutubeでは一度も配信していないのに、すでにチャンネル登録者は千人を超えて増え続けている。
スマホアプリでの配信頻度は減ることになるので、ネガティブな反応もあるかと思っていたが、激励や応援のメッセージや返信がほとんどで、新たな門出を喜んでもらえているようだった。
既存のリスナーから見限られてしまうのではないかとも思っていたので、一つは不安が晴れて良かったと思っていたのだが、新たな問題が。
配信の視聴者が増えだしてから、たまにオーディションや事務所加入のダイレクトメッセージが来ていたのだが、当たり障りのないお断りの返信をしていた。
相手は事情を知らないのでしょうがないのだが、遥が事務所に所属できるわけがないのだし。
今まではそんなメッセージが週に一度来るかどうかくらいだったのだが、Youtubeでの配信告知をしてからというものの、いろいろなダイレクトメッセージが大量に送られてきていた。
前からのように、オーディションや事務所加入のお誘いも来ていたが、コラボや案件、その他投資やネットワークビジネスだったり怪しげなものも含めて、数百通のメッセージが。
告知してすぐは十数件くらいだったのでなんとか返信していたが、目を通すだけでも一仕事で、そうこうしている間にも未読が増えていく。
「すごいですね!陽介さん、私も手伝いましょうか?」
遥がそう言ってくれたものの、Siriを使って返信するのも不安だし、どんなものが来ていたのかは結局私も確認しないといけないし。
ありがたい申し出だったが、それは断って一人で作業を進めていた。
バイト前や帰ってきてから、ちょっとした休憩時間をフルに使って、頑張って消化して行っていたのだが、配信前日になってもまだまだ山のように残っていた。
いつものように開店の準備が終わると、裏口の階段で煙草片手にスマホを弄る。
先週まではゲームやショート動画を見たりしていたのに、ここ数日は文字しか見ていない。
ため息といっしょに白い煙を吐き出していると、階段を昇って先輩が出勤してきた。
もうそんな時間か。まだまだ残ってるのに。
仕事前から疲れた挨拶をしていると、先輩が聞いてくる。
「なにやってんの陽介?新しいゲーム?」
ゲームだったら嬉しかったのだが、残念ながらそんな楽しいものではない。
「いや、これなんですよ。Youtubeでの配信告知をしてから、ダイレクトメッセージとかメールが山ほど来てて。返信が間に合わないんですよね...。」
先輩に画面を見せながらそう言うと、案外軽い反応が返ってきた。
「AIにやらせりゃいいじゃん。俺はそんなに多くないけど、ライブ関係の発注とか全部AIだよ。」
AI?
「使い方もわからないし、Siriみたいなものでしょ?大丈夫なんですか?」
先輩は私の問いかけにニヤリと笑う。
「まぁ、そうだよな。そんな難しくないから、後で教えてやるよ。」




