うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:69
バイトが終わって、帰り支度をしていると先輩が言った。
「さっき話してたAIだけど、さっそく今日やろうか。一日でも早い方が良いだろ?」
それは願ってもないことだった。
前もそうだったが、先輩のこういう時のフットワークが軽いのは本当にありがたい。
「ありがとうございます!居酒屋ですか?Discordでやります?」
私が答えると、先輩はニコリと笑って。
「最近行ってなかったし、久しぶりに陽介の家に行くか。そういや、遥さんに直接会うのも初めてだな。」
確かに最初から先輩は遥に関わってるのに、今までそういう機会がなかった。
その間に絵里に賢治、葵に夏帆と関係者は増えていっていて、他の人は直接会っていたのに。
「ただいまー。」
「お邪魔しまーす。」
家に帰る途中に、コンビニで酒やツマミを仕入れてきて、先輩を連れて玄関を上がる。
「お帰りなさい陽介さん、と先輩ですね?今までお世話になっていたのに、お礼も言えず申し訳ございませんでした。遥です、今後ともよろしくお願いいたします。」
先輩はそんな堅苦しい遥の挨拶に、いいよいいよと手をパタパタ振りながら返していると、部屋の中を見回していって。
「陽介、絵里ちゃんと同棲してんの?俺来ちゃって大丈夫?」
いや、別にそんなことはと思ったが、最近忙しくて掃除していなかったせいで、あれこれと絵里の私物が部屋の中に転がっていた。
化粧水や眉用のハサミくらいなら男でも使うこともあるだろうし、まだ言い訳が立つのだが、ヘアゴムやアイライナーは明らかに違和感がある。
また、乱雑に置かれているのも日常を感じさせるようで、端から見ればそうとしか見えないような。
どう説明したものかと思っていると、遥がフォローというか墓穴を掘ってくる。
「いえ、同棲はしてはいませんよ。休みの前に良く泊りに来るくらいで。寝る時も変なことはしていないみたいですし。」
先輩は遥の言葉に、斜め上を見たり、ベッドを見てから私に問う。
「寝る時どうしてんの?まさか、このベッドでいっしょに寝てんの?」
やましいことは何もないのだが、改めて口に出されるとなかなか心に刺さる。
「いえ...。はい。他に布団もないので、いっしょに...。」
私が口ごもりながら答えていると、先輩は額に手を当て、下を向いてため息を吐いていた。
「いや、いいんだけどさ。でもまぁ...、いや良いか。うん、上手いことやれよ。」
はっきり言われないことがむしろ突き刺さってくる。
言いたいことはわかっているのだが、でもそういう関係にも至ってないわけで。
そうして、少し脱線していたが缶チューハイを開けて乾杯をすると、本題のAIの話へ戻っていく。
「ChatGPTとか、GeminiとかClaudeとか、陽介はどれか使った事あるか?」
話題になった時にChatGPTは少しだけ触ってみた事があった。
いまいち何に使えるのかもわからず、ちょっとした雑談をしてみただけでそれ以来開いてもいなかったのだが。
私が答えると、じゃあそれで良いかと先輩がPCを操作していく。
何もわからないので、ポカンとそれを眺めていると。
「無料だと使えないものもあるし、課金しても大丈夫か?月3,000円くらいだったらいけるだろ?」
先日、葵に払った金額を考えると、ずいぶんリーズナブルに感じてくる。
そのぐらいだったらと答えてみたものの、半年前までだったらきっと課金しなかっただろう。
先輩から言われるがままに、有料プランの登録を進めて行くと、別に何も変わらない画面が出てくる。
これがどうやって大量のメッセージを捌いてくれるんだろうか?
私が疑問に思っていると、先輩が操作を変わってプラグインの連携などを設定していく。
合間合間で説明してくれるのだが、どんどん進んでいくので半分も理解できないまま10分くらいで準備は完了する。
「OK。これで連携は大丈夫なはず。とりあえず、要約だけ吐き出させてみるか。」
先輩はキーボードを叩いて、ChatGPTに指示していく。
「Gmailに届いているものを確認して、要約したものをスプレッドシートに出力。詐欺やセールスのメールは、要約は作らずにNGだけ出力させて...。」
それを眺めていると、画面は切り替わって次々にスプレッドシートに何かが入力されていく。
勝手に入っていくのか。すごいなぁと思っていると。
「うん。ここから...要約は入ってて...ちょっと怪しい部分もあるけど、だいたい大丈夫か。陽介、いくつかメールと要約を見比べてみてくれ。イメージと違ったら調整するから。」
呼ばれて見ていくと、長々としたメッセージが簡潔にまとめられていて、メールごとに整理されていた。
一つ一つ真面目に確認していたが、これならスプレッドシートにまとめられたものをさっと目を通すだけで、かなり時間が短縮される。
元の文章と見比べても、要点は抑えられてるし、怪しいメールは省かれている。
すごいすごいと喜んでいると、じゃあここからと先輩がChatGPTにまた指示を出す。
今度は何なんだろうかと見ていると、先ほどのスプレッドシートに追加して文章が吐き出されて行っていた。
「とりあえず、断る方面でプロンプト打ってみたけど、こういう返信でいいか?」
また、スプレッドシートに目を通していくと、丁寧な返信文が作られていた。
正直、あまりビジネス文書は得意ではなかったので、テンプレを見ながら頭を抱えていたのだが、これはすごく良い。
最近のAIはここまで賢くなっていたのか。
私がちまちまとテンプレを調べたり、言い回しに悩んで不格好な敬語を使っているより、よっぽど自然でちゃんとした文章に見える。
「返信するところまで自動化できなくはないけど、自分で確認して送った方がいいだろ?あとは、このまとめてあるやつを送るだけで、新しく来たメールを処理してくれるから。」
私が使うことも考えてプロンプトまで用意していただいて、至れり尽くせりというかなんというか。
ガジェットとか流行りのテクノロジーは、ほんと先輩は頼りになる。
ペコペコと頭を下げながら、先輩に感謝を伝えていると、先輩は頭を掻きながらちょっと不機嫌そうに答えた。
「まぁ、XのDMの方はもうちょっと荒れるだろうし、俺がじゃなくてChatGPTがすごいんだけどな。」
多少問題があっても、これまでいちいちメールやメッセージの全文を読んで、調べながら返信していたのに比べればずいぶんと早い。
さすがに今日中に全ての返信は難しいかもしれないが、自分一人でやっていた時に比べれば数倍早いだろう。
改めて先輩に感謝を述べていると、先輩は照れくさそうに言ってきた。
「こんなもん、ちょっとしたサービスだよ。それより、グッズとか出すんだったら俺にもいくらかくれよ。モデルのデザインも、俺の下絵を使ったんだろ?」
多少、夏帆にアレンジされたりはしていたものの、ベースは先輩が描いたイラストそのままだった。
別にそんなことを言われなくても、今までいろいろとお世話になってきたし、むしろ払わせて貰いたいくらいで。
「もちろんですよ先輩。この前の飲み代も払ってもらっちゃったし、お礼させてくださいよ。」
私が笑いながら返すと、先輩も笑っていた。
「ありがとうありがとう、陽介。まぁ、軌道に乗ってきたらな。今は目の前の事に集中しろよ。」
ライブハウスを借りるのにもピーピー言ってるのに、こういうところは先輩らしいというか、意地っ張りというか。
でも、こういう先輩の性格もあって、助かっている部分もあるし、信頼している。
しばらく、そうやって作業を進めて行っていたが、買ってきていた缶も全て空くと先輩が告げる。
「酒も無くなったし、良い時間だからそろそろ帰るか。またな、陽介。」
そう言う先輩を見送ろうと、玄関まで行くと帰り際に先輩は言った。
「そういや、税金は大丈夫なのか?けっこうエグい金額になってそうだが。」
税金。
もう、自分の年収より遥の配信収益の方が多いのだが、これはどうすれば良いんだろう。
遥が働いた分だけど、遥は受け取れないので全部自分名義で受け取っていたんだが、所得は所得か...。
一つ問題が解決したかと思ったら、新たな宿題が出てきて、また答えが出ない悩みに夜は更けていった。




