うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:65
そして、ついに待った納品日。
葵が家に来て、サンプルを見せてもらってから10日。
とは、行かずに気付けばあれから一ヶ月近く経っていた。
サウナでの不意の遭遇から、葵が立ち直るまでが数日。
夏帆がニュアンスを調整したいと言い出して、参考資料として遥の写真を要求され、その修正作業でまた数日。
ようやく納品日が決まろうとしていると、絵里が立ち合いたいから休みの日にしろと言い出して、ズレにズレてどんどん伸びていって。
そうこうしていると、いつの間にか夏は完全にどこかへ行ってしまって、外は肌寒くなっていた。
そんな冬の入口のある日、ようやく配信するためのモデルの納品へと辿り着いた、のだが。
狭くないか?
お世辞にも広いとは言えない、安アパートの六畳一間に大小の人間四人と幽霊が一人。
絵里が来るだけで窮屈に感じるのに、さらに葵と夏帆まで来ていた。
「葵!早く早く!私は前のも見てないんだから、もったいぶらずに早く見せてよ。」
絵里が催促すると、葵が鞄から何かを取り出し私に確認をする。
「それでは、早速準備をしようと思うのですが、PCは私が操作してしまってもよろしいですか?」
どうぞどうぞと手のひらを差し出すと、葵はデスクに座ってカチャカチャと操作を始めた。
さっき取り出していた塊はポータブルSSDだったようで、それを接続するといくつかのフォルダやファイルを移していく。
そんな様子をぼけっと眺めていると、絵里が肘で脇を突きながら聞いてくる。
「どうだった?葵の作ったモデル良かったでしょ?私のも葵に作ってもらったものなの。」
そういえば、絵里が配信で使っていたのはオリジナルのLive2Dモデルだったような。
スマホアプリだと、元々あるアプリの機能で絵だけでも疑似的に動かせるのだが、自前で用意すればそれも使える。
遥の配信を始めてから、何か違うと思って調べたらそういうことだったのだが、よく動くあれも葵の作だったのか。
私と絵里がそんな話をしつつ、葵がPCで作業を進めている間、夏帆はAIグラスを掛けて遥と戯れていた。
「おぉ!すごいなぁ!噂には聞いてたけど、こんな目の前におるように見えるんやねぇ。」
月並みな感想を言ったかと思うと。
「遥ちゃん、ぐるっと回って。そうそう、すごいすごい!」
ずいぶんと楽しんでいらっしゃるようで。
「次はこういう感じで、ポーズ取って。そうそう、そこでニッコリ笑って。めっちゃ可愛いやん、これは葵ちゃんが惚れるのもわかるわぁ。」
「そうですか?そんなに褒められると、ちょっと恥ずかしいです...。」
遥が夏帆の反応に照れていると、流れ弾が飛んできた葵がピクッと固まったりしながら、着々と準備は整っていく。
時折飛んでくる絵里の茶々だったり、夏帆からの弄りに邪魔されながらも、作業は終わったようで。
「これでセッティングは終わりました。画角がこの辺りまで入ってしまうので、映らないように避けていただいて...。」
そう言う葵は横槍に耐えるのに必死だったのか、もう息も絶え絶えという有様だった。
そうして、カメラの正面に遥を招き入れると、デスクの脇からいくつか画面をクリックしていく。
画面の中央には遥の姿が映し出されていた。
いや、遥の姿そのものというわけではないのだが、前回のサンプルよりはかなり実際の遥の印象に近かった。
先輩が描いたイラストの時点で、遥の特徴をそのまま描いたようなものだったのだが、さらに雰囲気が似ている感じで。
もちろん、アニメ調にデフォルメはされているが、実物を知っている人間が見ればこの人をモデリングしたんだろうと思えるくらいで。
「画角から外れないように動いてもらえますか?手を上げて、そうです。右を向いて、次に左に...。」
葵が指示をして、遥がそれに沿って動いていくのだが、遥が画面の中にいるようにも見えてくる。
「埋まらないか確認したいので、胸に手を当てて。そう、次は腰に手を...。」
遥が次々にポーズを取っていくのだが、きっちり追従して自然に揺れて動いていく。
前に見せてもらった時もすごいと思ったが、一段と完成度が上がっていてビックリする。
ただただ、すごいなぁと呆けて眺めていると、絵里が勢いよくベッドから立ちあがった。
「葵!すごいじゃん!こんなの見た事ないよ。遥が画面の中にいる。他に出来る人いないって。」
絵里が褒めちぎると、葵は背を曲げて頭を掻いていた。
「私だけでは無理だったので何人かの御力を借りたのですが、そう言ってもらえて嬉しいです。頑張った甲斐がありました。」
制作過程はノータッチだったのだが、夏帆以外にも協力者は複数いたようで。
個人のちょっとした依頼のつもりだったが、思っていたよりずいぶんと大事になっているようだった。
改めて、すごいことになってきたなと思っていると遥が言う。
「陽介さん、絵里さん、葵さん、夏帆さん、ありがとうございます。私のわがままに付き合ってくださって。」
遥は続ける。
「他にも手伝ってくださった方がいるようで、感謝してもしきれません。こんな、素晴らしい機会を与えていただいてほんとうに嬉しいです。」
さらに遥は続ける。
「ご期待に沿えるよう、尽力していきます。今後もご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。」
そう言い終わると、遥は私に、絵里に、葵に、夏帆にと深々と頭を下げていた。
言葉は丁寧だったが、私よりも絵里よりも葵の仕事に感銘を受けていたのは遥かもしれない。
少ししんみりとした六畳間に明るい声が響く。
「遥ちゃん。そんな気負わなくって良いって。それより、僕がアイコンとかヘッダーも作ってきたから見てくれる?葵ちゃん、出して出して。」
夏帆がそう言って促すと、葵がまたマウスに手を伸ばしてPCを操作していく。
そして、差分やバリエーション違いも含めて、ずいぶんと多い素材集を見ていっていると時は過ぎ、日は完全に地平の下へと落ちていた。




