うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:63
葵が家に来てから数日。
納品はもう少し先かと思いながら、久しぶりに近くのサウナへ来ていた。
遥と出会ってからは、遥の事ばかりで来れていなかったが、以前はほぼ休みのたびにサウナや銭湯へ行っていた。
元々は興味はなかったのだが、一度休みの日に先輩に連れていかれてから、すっかりハマってしまい。
それからはというものの、新しい店を探し、次々とあちこちのサウナや銭湯を周っていっていて、時にははしごして一日二軒周ったり、バイト帰りに駅前のサウナへ行ったり。
これといって、趣味と言えるようなものはなかったが、日頃の楽しみになっていた。
今日来たのは隣駅のサウナで、最寄り駅にあるものよりも設備も綺麗で、何よりフードメニューがすごい。
今の店長は二代目らしいのだが、店を継ぐまでは板前をやっていたそうで、他ではないような手の込んだ料理や、新鮮なお刺身をつまみにサウナ上がりのビールを楽しめる。
それでいて、値段も普通の居酒屋より安いくらいで、何度もリピートしている名店だった。
店の入り口の券売機でチケットを買うと、カウンターに渡して鍵を受け取り、中へ入っていく。
サウナや銭湯のロビーや食堂は静かなところが多いが、あちこちから歓談が聞こえてきて、この店に来たと実感する。
遥を連れてきても良かったのだが、大半は待たせることになってしまうし、申し訳ないので留守番してもらうことにしていた。
もしかしたら、暇だったらそれでも着いてきたのかもしれないが、遥は遥で気になることがあったようで。
「サウナですか?ご飯が美味しいところ?すごく、すごく気になるんですが、見たい映画があって...。また今度、できれば絵里もいるときにご一緒できれば。」
そうして、私を見送る遥の傍らにあるiPadの画面には、シリーズもののハリウッド映画が映っていた。
たぶん、サブスクの動画サービスで、生前に見ていたものの続編でも配信されたんだろう。
更衣室で服を脱いで、浴室に入ると身体を洗って、何度かサウナと水風呂を往復していく。
ここはサウナの種類も三つあって、高温、中温、スチームサウナと好みによって選べるのだが、高温は人気でなかなか混みあっている。
一通り味わいたかったので、一度は高温に入ったが、後は割と空いている中温にばかり入っていた。
しばらくして、すっかり身体から水分が抜けると、汗を流して浴室を出た。
そして、ある意味こちらの方が本番と言えるかもしれない。
食堂へ行って、ビールと料理を頼んでいく。
ほどなくして、ビールと突き出しが出てくるのだが、この突き出しがまた美味しい。
今日の突き出しはポテトサラダだったのだが、マッシュポテトのようなペースト状ではなく、ジャガイモがゴロゴロしていて、鰹節や薄切りの玉ねぎの姿も見える。
こういうところが良いのも、何度も来たくなる理由なんだよなぁと思いながら、ビールのジョッキを握りしめる。
一気に半分くらい飲み干すと、火照った頭と身体に染みわたっていく。
このためにサウナに来ているようなもんだよなと、満喫しながら視線を上げると。
女風呂から出てきた女性は、最近見たことがあるような...。
ずいぶんと背が高くて、筋肉質で締まった感じはもしかして、と思っていると、徐々にこちらの方へと近づいてきて顔もはっきり見えてくる。
メイクとピアスが無いので印象は違うものの、唇や耳に多数空いた穴は他にはそんなにいないだろうし。
私がジロジロと見つめていると、向こうも気付いたようで目が合う。
不意の遭遇にどうしたものかと思っていると、葵は足を止めた。
これは気まずいかもしれない。
私はいいけど、方言も恥ずかしがっていたのに、ガッツリすっぴんのオフの姿を見られた葵の事を思うと、見なかったことにした方が良いのかもしれない。
あぁ、どうしようと思っていると、葵の隣に居た人に気が付いた。
葵の顔を見ていたので気付かなかったのだが、背の低い女性が隣にいる。
あまりにも身長差があるのでよくわからないが、葵の胸の高さまでもないので150cmもないだろう。
そうして、様子を窺っていると小さな女性が固まった葵の手を引きながら、何かを話しかけている。
そして、その小さな女性も私の存在に気が付いたのか、こちらと目が合った。
葵にまた何か話しかけると、葵の手を引いてこちらに近づいて来る。
ふと、視線を外してジョッキを煽り、無関係を装おうとしたが、それは遅かったようで、私のテーブルの方へ一直線に進んできた。
目の前まで来ると、他のテーブルには座らずに私へ問いかける。
「陽介さんですよね?黄泉乃ヒカリさんのマネージャーで、葵の依頼主の。僕もお会いしたかったんです、よかったらご一緒しても良いですか?」




