うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:62
「それでは、リンクを送りますので、いくつか必要なものをダウンロードしていただいて...。」
葵の指示で、PCを操作して作業を進めて行くのだが、なんだか視線の圧が強い。
何か間違っていたり、手際が悪いのだろうかと、ビクビクしながらやっていたが、特に指摘されたりはしなかった。
一通りダウンロードが終わって、圧縮されたファイルを展開し終わって手を止める。
「それで、この後はどうすれば良いですか?」
わからなかったので素直に聞いてみると、葵は一瞬驚きつつも、すぐに表情を正して微笑んでいた。
「大丈夫です。全てお任せください。そのご様子だと、トラッキングアプリも決まっていませんよね。まずはそこから始めていきましょう。」
いろいろ調べていたつもりだったが、まだわからないことばかりなのだなと再認識する。
家に来ると言われたときは、断ろうかとも思ったが、来てくれなかったらずいぶんと苦戦していたかもしれない。
見た目や口調から、少し怖かったが丁寧に優しく接してくれていて、だんだんと印象は変わっていっていた。
かなり時間が掛かるかと思っていたが、10分くらいで準備は終わり、アプリが起動していく。
たぶん葵が操作すればもっと早いのかもしれないが、一つ一つ操作を教わりながら進めて行くと、白い背景にモデルが表示される。
デザインは先輩が描いた絵のとおりなのだが、そのままというわけでもなく、若干アニメ調にデフォルメされていた。
スマホ配信だと絵が動いてるくらいだったのが、こうやってゲームのキャラクターのように動いているのを見ると、それだけですごく感じてくる。
「それでは、実際に動作確認をしていくので、陽介さんも少し脇に避けていただけますか?遥さんはカメラの正面に映るように、こちらの方へ。」
狭い部屋の中をちょこちょこと移動していくと、画面の中でふらふらとしていたモデルがピタリと止まる。
「遥さんの動きも確認したいので、もう一度AIグラスをお借りできますか?」
そう言われAIグラスを手渡したのだが、葵は声にならない奇声をあげていた。
驚いて、大丈夫かと声を掛けてみたものの。
「だ、大丈夫。思ってたより近くて、びっくりしたばってん問題はなかけん、続きばやっていきましょうか。」
いきなり出てきた方言に、こっちの方がびっくりしていた。
突然のことに、思わず気になったことを聞いてしまった。
「もしかして、方言が出ないように標準語で喋ろうとすると、口調が固くなっちゃうとか...。」
私が尋ねると、葵は白い肌を真っ赤にして俯いてしまった。
「あ、いえ、悪いとかじゃなくて、そういう喋り方も意外で可愛らしいというか。」
焦ってフォローにもなっていないようなことを言うと、葵はますます恥ずかしがっていて、プルプルと震えていた。
完全にやらかした。どうしよう、と思っていると遥が割ってくる。
「私自身は東京生まれ東京育ちなんですが、母方の実家が東北でした。親戚の集まりで帰省すると、すぐにイントネーションが移ってしまって、東京に戻ってから友人にからかわれたこともありました。ですが、方言は土地と人の繋がりで、恥じるようなものではないと思います。私もたまに出たりしますし、それは大事な自身のルーツなので誇って良いことだと思います。」
遥がだから大丈夫ですよ、と声を掛けていると、葵の真っ赤な顔は少し収まって、代わりに涙目になっていた。
「ありがとうございます遥さん。ありがとうございます。三ノ宮葵、誠心誠意ご期待に沿えるよう頑張らせていただきます。」
思っていた方向とも違うところに着地していたようだった。
推しって言ってたけど、これはもう信者なんじゃなかろうか。
鼻を啜る音がわずかに響いて、葵は続きを進めて行く。
「中断してしまって申し訳ございません。それでは、遥さん首を左右に振ってもらえますか?そうです。次は右を向いて、左を向いて...。」
画面の中で動く遥を見ながら、次々に指示を出していっていた。
とても滑らかに動いていて、よくあるような髪や服が身体に刺さったりもしていないし、最近のがすごいのか、葵の技術がすごいのか。
「ありがとうございます遥さん。次はその場でグルっと回って貰えますか?」
遥が回ると、画面の中のモデルも回って、長い髪がたなびいていく。
おぉ、すごいと感心しながらも、やっぱりこれは3Dモデルなんだなと思っていると、葵が言う。
「確認にお付き合いいただきありがとうございました。いくつか問題点も分かりましたし、遥さんの可動域に合わせた調整も必要ですね。納期が少し伸びてしまうのですが、10日くらいを目途に修正版を送らせていただいて良いですか?」
十分これで完成しているように見えたが、プロの目から見たら何かあるんだろう。
このまま納品でも良かったのだが、わからないものに反論してもしょうがないので、了承すると葵はスマホに何かを打ち込んでいっていた。
しばらくすると作業も終わったのか、葵は立ち上がって頭を下げていた。
「本日はお邪魔させていただきまして、ありがとうございました。それで...。もし...。」
帰りの挨拶だろうかと聞いていると、何か言い出しづらそうにモジモジとしていた。
髪を弄ったり、俯いたりしていたのだが、決心がついたのか続きを口にする。
「その、遥さんと陽介さんが良ければ今後もお伺いしていいですか?」
緊張しているのか、期待と不安が混じったような表情で、落ち着かない様子の葵に遥が声を掛ける。
「はい、私はかまいません。陽介さんもそうですよね?わからないことばかりなので、頼りにさせていただきたいですし、お仕事だけではなく友人としても今後もお付き合いできるとうれしいです。」
その言葉に葵はかろうじて一言だけ返事をしていた。
「ありがとう、ございます。」
あぁ、ますます信仰が深まっているような気がする。
配信でのリスナーもそうだし、絵里も懐いているし、人を惹きつける才能はあると思う。
それなのに、その遥が足元にも及ばないという姉はどんな人なのだろうか。
遥の過去の話を思い出していると、葵は改めて深々と挨拶をして、去っていった。
10日後か。
長かったような、短かったような。
最初は夢に見ていた舞台に、もうすぐ登ろうとしていた。




