うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:57
夜が明けて。
個人的には通販で買ってもよかったのだが、実物を見た方がいいという遥と絵里に押されて、久しぶりに秋葉原へ行くことになっていた。
眠たい目を擦りながら、支度を整えていくと、絵里に止められる。
「上脱いで。いいから、早く。」
せっかく着た服を脱ぐと、身体の何カ所かに昨日貰った香水が吹き付けられる。
どうするんだったけと、手首で身体を擦ろうとすると、その手を掴まれた。
「今からお出かけだから、あんまり触らないで。昨日はすぐに香りを立たせたかっただけだから。」
そう言われたものの、何が違うのかよく分からない。
まぁ、遥も頷きながら見ているし、そういうものなんだろう。
準備を終えると、電車に揺られて秋葉原へと向かって行く。
必要なものだからしょうがないのだが、お互いにAIグラスを付けているせいで、近くに住んでるはずなのに外国人観光客のような出で立ちで。
端から見て、どう思われているのかを考えると少し恥ずかしくなってくる。
遥はというと、もちろんAIグラスなんて要らないので裸眼なのだが、こんなことなら伊達メガネでも掛けさせてくればよかっただろうか。
服装は着替えを覚えたからか、今日はタートルネックにカーディガンを羽織り、パンツルックで幽霊というより、OLの休日みたいな感じで。
これだったら、誰かのカメラに写り込んだとしても気付かれないだろう。
私がAIグラス越しに見える姿に慣れてきてしまっているのもあったが、言われなければわからないくらい自然にそこに在って。
秋葉原へ着いて、改札を出て、とりあえず何か食べるかと辺りを眺めたり、スマホで店でも探そうかとしていると。
「アキバでしょ?やっぱ、ゴーゴーカレーか吉野家じゃない?他のでも良いけど、聖地巡礼っていうかさ。」
この前はラーメンで遥に怒られたのに、絵里はそういう気分らしかった。
でも、どっちも家の近くにもあって、いつでも食べられるし、せっかくだったらと思ったが。
「気分、気分。お祭りに行ったら、大して美味しくもないタコ焼きとか焼きそば食べるでしょ?」
縁日と同じ扱いなのはどうかと思ったが、言いたいことはわかる。
多少は女性が喜びそうなものを覚えていったつもりだったが、それはどこかへと追いやられて、黄色いゴリラの看板をくぐっていった。
注文してしばらくすると、ステンレスの皿に盛られた黒いカレーが運ばれてくる。
「「いただきます。」」
手を合わせて、スプーンを手にして口へと運んでいく。
うん。ゴーゴーカレー。
美味しいのは美味しいんだけど、別に場所が変わっても味は変わらないよなぁと食べ進めて行く。
半分くらい食べ終わったところで、ふと聞いてみた。
「美味しい?」
絵里は持ち上げようとしていたスプーンを止めると、首だけ向けて笑って答える。
「普通。ぶっちゃけ、あんまり好きでもないし。このキャベツ何って感じだし。でも、アキバ来たって感じで楽しいよ?」
それもそうか。別に特別な味がするわけでもないしな。
と、大学時代のオタクの友人や、秋葉原を舞台にしたゲームを思い出していると、自然と箸は進んで、気付けば皿は空になっていた。
食べ終わって店を出ると、いよいよ本題の周辺機器の購入へ進んでいく。
適当に目に着いたキーボードやマウスを触っていくのだが、高いものはやっぱり良いもので。
キーボードの打った感触や音も全然ちがうし、マウスなんて日頃使ってるものは鉛が入っているのかと思うくらい軽い。
家にあるものに慣れてしまっていたが、こういうものももっと早くに買い替えておいた方が良かったのかなぁと触っていると袖を引かれる。
「こっちこっち。これかわいくない?」
呼ばれて行ってみると、真っ白なキーボードとマウスが並んでいた。
ポチポチと触ってみると、さっきまで触っていたものよりは安っぽい気もしたが、これもこれで浅いタッチが使いやすそうで良い。
値段も先ほどのキーボード一個から、マウスもセットで買ってもお釣りがくるくらいで。
商品の箱を手に取ると、その足でデスクやチェア売り場の方へと進んでいった。
ここでもまた、電動昇降のデスクが動いていくのに感動したりしていると袖を引かれた。
「これどう?奥行きも今のより広いし、いい感じじゃない?」
呼ばれた先にあったそれは、白い天板で脚が変わったデザインだった。
残念ながら電動昇降はついていなかったものの、高さは調節できるみたいだし、作りはしっかりしている。
値段も手ごろで良いとは思ったが、今あるものといっしょに置くには部屋のスペースが足りない。
「うん。これも良いけど、買うならまた今度かな。今のも処分しないといけないし。」
私がそう言うと、想定外の返事が絵里から返ってくる。
「引っ越したら?今のとこ、狭いし駅から遠いじゃん。お風呂のお湯の出も悪いしさ。」
正直なところ手狭にはなってきている。
自分一人だと特に不自由はなかったのだが、遥用の物を置いたり、絵里がいろいろと荷物を持ってくるのに圧迫されて、クローゼットは一杯で床も動線以外は埋め尽くされてきていた。
家賃の安さに惹かれて今のアパートに決めたものの、確かに駅から遠いし、築も古くて便利とは言えなかった。
それでも、一人だったら不便とまではいかなかったが、いろいろと問題点は出てきていた。
デスクを前に考え込んでいると、絵里が続けて言った。
「まぁ、すぐじゃなくても良いけど、近いうちに引っ越しなよ。せっかくお金もあるんだしさ。」
少し前までなら、引っ越し費用なんて数年がかりの計画だったが、今は口座に余るくらいの数字が並んでいる。
毎月の家賃がそこまで上がらないなら、そろそろ引っ越しした方が良いのかもな。
と、そんなことも考えながら、キーボードとマウスの会計を済ませると、店を出て帰路へ着いた。




