うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:54
どんどん秋も深まってきて、冬の入口も見えてくると三回目のリワードの通知が届いた。
さて、今月はいくらくらいになったのかと見てみると、先月からは微増といったところでギリギリ200万には届かないくらいだった。
贅沢すぎる願いではあるのだが、先月の伸びを考えると今月はもっと高いと思っていた。
とはいえ、別にこれといって浪費するわけでもなく、最初の月の80万もまだ使い切れてもいなかったのだが。
気付けば年収以上の金額に膨らんだ口座残高。
今までは何に使えば良いか思いつかなかったが、どう使うか決めてはいた。
AIグラスが生活を変えてくれたように、生活環境に投資しようと。
だが、なかなか手が伸びず、今月のリワードが入るまで待ってしまっていたのは、貧乏性が抜けない証拠なのだろう。
そうして、何が良いかとネットで調べたり、いろんな店を周っていたのだが、ある日それは起こってしまった。
「あれ?電源が入らない?」
うちのデスクトップPCがボタンを押してもうんともすんとも言わない。
コンセントを差し替えたり、開けてもわからない内部を覗き込んでみたりしたが、ファンの一つもピクリとも動かなかった。
そういえば、前に買ったものが残っていたはずと、エアダスターを引っ張り出して掃除してみたりもしたが、やはり電源が入らない。
昔のテレビのように、バシバシと叩いたりしながら首を捻っていると、遥が声を掛けてくる。
「パソコン、壊れちゃったんですかねぇ?」
思えば、学生時代に友人から勧められたネットゲームをするために無理して買ってから約五年。
ギリギリゲームができるくらいと買っていたものだったので、調べものや動画を見たりくらいは問題なかったが、新しいゲームは動かないものも増えていた。
しょうがない。
これも寿命で、買い替え時だったのだろう。
幸いにも買い替えるためのお金は潤沢にあるし、多少良いスペックのものにするかと、新しいPCを探そうとスマホを弄っているとあることを思いついた。
「遥!YouTubeで配信しよう。今までよりもいろんなことが出来るし、うまく行けばもっと多くの人に見てもらえる。」
そう、今まではLive2Dを作る費用だったり、PCのスペックもあって敬遠していたが、今なら両方手に入る。
そもそも、YouTubeのライブ配信に憧れて配信生活を始めたのだし、その舞台に立たない理由がない。
PCが壊れたのは不運だったが、良いきっかけになったと私が喜んでいると、あまり遥は乗り気ではないようだった。
「面白そうだとは思うのですが、私なんかがYouTubeで見てもらえるんでしょうか?それに、スマホの配信の方も毎日見に来てくれる人も増えてきていたのに...。」
遥の不安ももっともだったが、アプリ内のランクはすでに最上位まで来てしまっていて、収益も頭打ちになってきている気がする。
このままアプリ配信を続けていけば、それなりに安定した収益は得られるのかもしれないが、それで良いのだろうか?
「いや、やろう遥。ぜんぜんうまくいかなくて、見てくれる人がほとんどいなくても、始めたばかりの頃に戻るだけだし。収益だって、たまたまうまくいっただけで、別になくても日頃の生活が困るわけでもない。」
私がそう言うと、遥は真剣に考え込んでいた。
もちろん、それなりの成功が得られたものを手放すのは難しいだろう。
手伝ってはいるものの、配信をしているのは遥自身であって、あくまでも私は前線に立っているわけではない。
代わりに配信しろと言われても、10分間話せるかと言われても難しいだろう。
そういう意味では、私の提案は無責任な部外者の意見かもしれない。
それでも、憧れた舞台に立って欲しい気持ちはある。
しばし、沈黙が流れたが、遥は重い口を開いた。
「頭ではわかってます。きっと、そうした方がいいんだって。」
遥は続ける。
「でも...。ようやく見て貰えたものを捨てるのも怖くて。」
少し前提がズレているような気がしたので、補足した。
「別に、スマホ配信を完全に辞める必要はないよ。活動の主軸をYouTubeに移そうってだけで。YouTubeの配信をやりだしても、スマホアプリの方で絵里とコラボ配信しても良いわけだし。」
そう伝えると、遥の不安は少し和らいでくれたようで。
「そうですね。幅が広がるだけで、今のものを捨てる必要はないんですよね。」
だが、完全に腑に落ちたわけでもないようで、相変わらず遥は考え込んでいた。
また、しばらく経つと遥は尋ねてきた。
「返事は少し待ってもらえますか?その...。絵里にも相談したいんです。答えは変わらないと思うんですが、思い切りが付かなくて。優柔不断でごめんなさい。」
遥は頭を下げていたが、その不安は理解できる。
自分だって、割の良い仕事があるからと、バイトのシフトを減らしてそっちをやれと言われてもなかなか踏ん切りがつかないだろう。
単純な損得だったり、やりたいかどうかよりも、今あるものは重いものであって。
遥の苦悩は理解しつつも、目の前の問題に話を戻す。
「とりあえず、新しいPCは買って良いかな?YouTubeやるかやらないかに関わらず、なんとかしないといけないし。」
私がそう言うと、遥の顔は明るくなっていた。
「それはぜんぜんかまいません!陽介さんのためにもなるならうれしいですし、すぐにでも買いましょう。そういえば、最近Siriさんはお買い物も得意になってて、いろいろ聞いたらどこでいくらで買えるとか、他の商品との比較も出してくれて...。」
そこからは私と遥とSiriで、用途やらスペックや費用だったり、他との比較もしながら新しいPCを選んでいっていた。
配信用のカメラだったり、マイクだったり、付属品も含めながら、あれこれとやっていって、それぞれ何を買うのか調べていくと、遥もSiriもうれしそうで。
ある程度候補を絞ったはいいものの、購入ボタンは押せず、今日はここまでにした。
先輩や絵里にも相談してみよう。
結局、遥の不安と同じところに行きついてしまっているようで、なんだかおかしく思えてくる。
そうして、ディスプレイの灯りが落ちた、晩秋の夜は過ぎていった。




