うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:52
賢治と久しぶりに再会してから数日後。
今日も絵里はバイト帰りにうちへ遊びに来ていた。
「最近、寒くなってきたよね。この部屋は、なんか暖かいものはないの?」
絵里は足をさすりながら私に言う。
秋も少しずつ深まってきていて、暖房を入れるほどではないが、フローリングの床はひんやりとしてきていた。
寒いならズボンとかロングスカート履けば良いじゃん、とは言えないので、白い脚を片目に眺めながらクローゼットの中を漁る。
「はい。あったあった。これでいい?」
私は薄手の毛布を引っ張り出すと、絵里に差し出した。
「ありがと陽介。とりあえず、これで良いか。冬になる前に何か持ってこないとな。」
狭い部屋がまた狭くなりそうだった。
私自身の物が少ないこともあって、絵里が持ち込んだ物の方が多くなっているかもしれない。
この前は乾燥するからと言って加湿器を持ってきていたし、タバコ臭いと空気清浄機や消臭剤まで置かれていた。
もっとも、空気清浄機と消臭剤は絵里が持ってきたのではなく、買わされていたのだが。
そうして、少し早いコンビニのおでんを二人でつついていると、絵里は遥の方をじっと見ていた。
なんだろうかと思っていると、絵里が遥に尋ねる。
「あー、わかんないけど、遥は寒くないの?それ夏服でしょ?」
私も遥の方を見てみると、確かにちょっと寒そうに見えた。
出会った時から遥の服装は変わっておらず、ずっと白いノースリーブのワンピースだった。
遥の落ち着いた品のある感じにすごく合っていて、似合ってはいるのだが、完全に夏という印象で今の季節には肌寒く見える。
とはいえ、幽霊なのだから寒い暑いはなさそうだし、気にはしていなかったのだが。
「着替えたりできないの?服をお供えしたらいいのかな?」
絵里が言うと、遥は少し考えてから答えた。
「いえ、たぶん私だけで大丈夫です。衣替えなんて幽霊になってからは考えたこともなかったですけど。」
遥が微笑みながら返しているのを聞いていたが、着替えるってどうするのだろうか?
どこから服を持ってくる?元の着ていた服は?そもそも着替えるって大丈夫なのか?
いろんな疑問が頭の中で回りながら、遥と絵里の様子を見ていると、遥が言った。
「陽介さんはあっち向いててください。肌を見せるのは恥ずかしいので...。」
そう言われ、そそくさと二人から背を向ける。
私が壁の方を向いて、スマホを弄り出すと背後から二人の声が聞こえだす。
「えっ!?そうなってるの?へー、すごい。いいなぁ。」
「そうですか?意外とこれ...。よいしょ。難しいんですけどね。」
「いいじゃん。それも似合ってるけど、他にもできるの?」
「えぇ、例えば...。これとかどうですか?」
「それもかわいい。下は?もうちょっとこう...。」
「そういう感じも良いですね。こうしたらどうですか?」
「あっ!そうそう。そういうコーデもいいかも。」
すごく。すごく気になる。
どうやってるかも気になるし、どういう服かも気になる。
おそらく、遥が着替えるたびに、それを見て絵里が反応しているのだろうが、近くにいるのに声しかわからない。
すぐにでも振り返りたくなる衝動を抑えながら、悶々と待っていると声が掛けられた。
「陽介、もうこっち見ていいよ。」
そうして振り向くと、遥の姿はすっかり変わっていた。
落ち着いた感じの印象は変わらないが、服装は長袖の白いシャツに短い袖の淡い茶色のニット。下は濃い色のひだ付きのロングスカートになっていた。
髪も真っすぐ腰までストレートに伸びて顔に掛かっていたのが、肩辺りまでに短くなっていて、眉で切り揃えられ、毛先が少しカールしている。
顔はもちろん遥のままなのだが、想像以上に変わっていて言葉が出てこない。
その様子にびっくりしていると、遥が感想を求めてきた。
「どうですか陽介さん?絵里に勧めてもらって、こういう感じにしてみたんですけど...。」
脳が再起動するまでに2~3秒掛かったが、かろうじて感想が口から出てきた。
「綺麗。とても似合ってるよ遥。」
遥がそれを聞いて恥ずかしがっていると、絵里が自慢げにニヤニヤとしていた。
「良いでしょ?これでも、アパレルちょっとやってたんだから。」
それは初耳だった。
サブカル好きだし、元々はそっち系かと思っていたが違ったらしい。
そんな感想を抱いていると、絵里は続ける。
「ショップ店員とかって、自分でも着れないといけないから、私の体形だと合わないんだよね。遥みたいにスタイル良いのが羨ましい。」
遥は絵里がそう言うのをフォローしていたが、確かにそうかもしれない。
男性目線とすれば、メリハリが効いた絵里の体形は良いのだが、女性向けのファッションだとデザインを崩さないスレンダーな体形の方が良いのだろう。
「ま、今は遥と陽介くらいしか、見せる相手はいないから良いんだけどね。」
諦念なのか自嘲なのか。
だけど、卑下するようなものではなく、もっと自信を持って良いのに。
そんなことを考えていると、ふと呟いてしまっていた。
「絵里は絵里で、すごくかわいいのに。」
そんな話をしながら、今日も夜は更けていった。
いつものようにベッドに入り、壁の方を向いていると、背中に絵里の体温を感じる。
絵里は私のお腹を一度、ポンと叩くと、何も言わずに私の身体を抱きしめ、静かに寝息を立てていった。




