うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:51
久しぶりのお出かけから、また数日後。
今日も遥と出かけていたのだが、遠出はせずに最寄り駅の近くのスーパーまで、日用品の買い物に来ていた。
スーパーで商品を眺めていると、商品の説明や、外国語で書かれたものの翻訳がAIグラスの中で浮かんでくる。
なるほど、これは便利だなと思いつつも、今まで気にしてなかった商品名の和訳が変だったりして、違う意味でも面白かった。
遥は遥で、AIグラスがある生活に慣れてきたみたいで、少し離れてもすぐに見つかるからか、私から離れて別のものを見にいったりしていた。
最近は絵里が泊まりにくるので、トイレットペーパーだったり、洗剤だったり、意外と減りが早く、いくつか買い物カゴに入れていっていると、いつの間にか遥の姿が消えていた。
少し周りを見渡してみたが、やはり姿が見えない。
まぁ、しばらくすれば戻ってくるかと買い物を続けていると、懐かしい顔に会った。
「おっ!久しぶり陽ちゃん。元気してた?」
そう声を掛けてきたのは、中学高校と同じ学校に通っていた隈元だった。
大学は別で、だんだんと疎遠になっていたのだが、たまたま互いに上京していて、同じ最寄り駅に住んでいたことで何度か遊びに行ったり飲みに行ったりしていた。
とはいえ、隈元は常日勤で土日休みなのに対して、私は居酒屋のバイトであまり休みは合わないので、年に数回あるかないかという程度だったが。
それでも、学生時代は部活もいっしょでよく遊んでいて、気の置けない仲ということもあり、たまに会うのは楽しみでもあった。
「元気元気。賢治も休みなんだったら、連絡してくれれば良かったのに。」
賢治というのは、隈元の下の名前で愛称だった。
他の愛称で呼ぶ友人もいたが、文豪の名前と字もいっしょということで、高校に入る頃にはみんなそう呼んでいた。
「陽ちゃんの休みがわからなかったし、いつも俺の休みに合わせてくれてたから、考えてなかったわ。せっかくだし、飯でも行く?」
まだ昼ご飯を食べていなかったし、ちょうど良いとは思ったが、遥もいるしどうしようかと思っていると、遥が戻ってきた。
ススッと遥は私の傍まで寄ってきたので、賢治に少し待ってもらうことにした。
「ちょっと待って賢治。確認するから。」
私はそう言うと、スマホを開き、遥に見えるように文字を打っていく。
"学生時代の友人なんだけど、今からご飯食べに行って良い?"
遥はそれを見ると、首を縦に振りながら手でOKサインを作る。
どうせ遥の声は他に聞こえないんだから、口で言ってくれてもいいんだけど。
遥の了承も得られたので、賢治に返事をしたが、その様子は少し違和感があった。
てっきり、彼女かと突っ込まれたりするかと思ったが、そんなこともなければ、私の方とは違うところを見ているようで。
「あぁ、じゃあ、そうだな...。ファミレスでも行こうか。」
さっきまでの様子と違って、急に何か別のものに気を取られているようだった。
その変化が気になりつつも、買い物の会計を済ませると近くのファミレスまで、いっしょに歩いていった。
ファミレスに着き、四人掛けの席に通されると私と賢治は対面に座り、遥は私の隣に座る。
買ってきた荷物は足元に置くと、店員が注文を取りに来て、適当にランチメニューを頼んでいった。
ドリンクバーで飲み物を取って、席に戻ってくると、賢治が神妙な表情で言った。
「陽ちゃん。最近、身体が重かったり、変な夢を見たりしてないか?怪我したりとか、病気になったりとか。」
いきなり何を言い出すんだと思ったが、ふと昔のことを思い出す。
そういえば、賢治の実家は寺だか神社だった。
大学もその関係で、親戚の家の近くの大学に行っていたような。
もしかしたら、遥のことが見えている?
とはいえ、確信もないので適当に返した。
「いや、健康そのものだよ。別に変なことは...。」
続きを言いかけて、止まってしまう。
変な夢は見たかもしれない。まぁ、原因はわかっているのだが。
その私の様子を肯定と取ったのかはわからないが、賢治は続けて言った。
「陽ちゃん霊に憑かれてるよ。信じてもらえないかもしれないけど、早くお祓いしてもらった方が良いと思う。」
賢治はそう言うと、私ではなく遥の方を見ているようだった。
信じてもらえないかもしれない、はどちらかというと私のセリフだったが、今はAIグラスという便利なガジェットがあった。
実際に見てもらった方が早いだろう。
私はニヤリと笑うと、何も言わずにAIグラスを外し、賢治へと差し出す。
賢治は困惑していたが、私に促されるとAIグラスを身につけた。
「...!?は?どういうこと?」
賢治はAIグラスを掛けたり、外したりしながら、目を白黒とさせていた。
思っていた反応が得られたことに喜びつつ、賢治に今までの流れを簡単に話していった。
WEBカメラに映ったことで存在に気付いたこと、家でいっしょに暮らしていること、カメラやマイクがあれば姿や声がわかること、配信をしていて収益を得られるくらい人気になっていること、それで遥の姿を確認するためにAIグラスを掛けていたこと。
そこまで話して、ワイヤレスイヤホンの片方を賢治にも渡した。
絵里のことは話すとめんどくさいことになりそうだったので、一切黙っていたが。
「賢治さん、はじめまして。陽介さんにお世話になっている遥です。」
その声を聞いた賢治はまた驚いていた。
遥が話しているのを、イヤホンを付けたり外したりしながら聞いている。
「なんでカメラやイヤホン越しだとこんなにはっきりわかるんだ?お社様もカメラに映ったりはしないのに。」
それは私も知りたい。
何故かはわからないが、それで成り立っているのが今の生活で、遥という存在だった。
しばらく賢治はいろいろと遥に質問したり、AIグラスとイヤホンを付けたり外したりしていたが、ある程度したかった確認はできたようで、私にAIグラスを返してきた。
「わからない。けど、すぐに陽ちゃんに害を成すものではないのかもしれない。」
実際、特に何かの被害があるわけでもないし、絵里とも仲良くしているし。
強いて言えば、グラスが割れたり、悪夢を見たのは害ではあったが、今はそういうこともなくなっているし、食べ物や飲み物をねだってくるのも強制されているわけではない。
むしろ、配信で得た収益をどうやって遥に返すかを悩んでいるくらいであって。
そうして話していっていると、賢治が一つアドバイスをくれた。
「位牌とか仏壇とか、神棚でもいいけど、何か遥さんが落ち着けるところを置いた方が良いと思う。そこに在るのは良いけど、陽ちゃんに憑いてるのは良いとは思えない。」
あまりとり憑かれている感覚もないのでいまいち実感がなかったが、遥も静かに頷いていたので検討してみよう。
とはいえ、今日のようにお出かけできなくなったりすると、それも困るしどういう形にした方が良いかは絵里にも相談した方がいいだろう。
そんな話をしながら、ファミレスを出て近くのボーリング場で遊んでいると、日が暮れてくる。
私はまだまだ時間に余裕はあったが、賢治は明日朝早いということで早めに別れることになった。
その帰り際。
「陽ちゃん。わかってるとは思うけど、生きてる人間と幽霊は違うから。」
何かの経験なのか、それとも他の意味を含んでいるのか。
それはわからなかったが、なんとなくで流してしまっていた部分は多かったかもしれない。
ただ、そうなっているから良いわけではなく、遥との付き合い方もちゃんと考えていった方が良いのだろう。
久しぶりの再会に喜びつつも、宿題を出されたようで、もやもやとした思いが残りながら遥と二人で家へと帰っていった。




