うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:5
コンビニから家に帰ってきて、袋の中身のいくつかを冷蔵庫に入れると、ヤカンに水を入れて火に掛ける。
ガスの燃える音。換気扇が風を切る。蛍光灯がジジとノイズを放つ。
カップ麺の包装を剥ぎ取ると、煙草に火を付けた。
お湯が沸くまでもう少し掛かるし、と換気扇に向かって煙を吹きかけていると、背後からわずかに何かが軋む音がする。
手早く煙草の火を消して振り向くと、PC前の椅子がゆっくりとわずかに回っていた。
遥?
そういえば、家に帰ってからはPCもスマホもカメラを開けていなかった。
「ごめん、ごめん。今、点けるから。」
私は何もない中空に謝ると、PCを立ち上げ、WEBカメラのセルフビューを表示させた。
私が映る横に、遥が両手を脇くらいまで上げて身体を揺らしている。
「どうしたの?」
短く問いかけると、遥は画面に迫ってきて、
「コンビニで買ってきた、コーラを飲みたいです。」
待ちきれないようだった。
時折、身体を揺らしながら、両手の拳を前後に振っている。
それは青白い肌でノイズ混じりでなければ、子供っぽく映るのだろうが、今にもディスプレイを叩き割って出てきそうな感じで。
わかったわかった、と軽く返事をして冷蔵庫を開けたが、そこで止まった。
「飲むって、どうするの?」
お供えしたら、コーラが何処かへ消えていく?そんな事はないだろうし、どうやって飲むつもりなんだろうか?
疑問に思って、コーラのボトルを掴み、冷蔵庫の扉を閉めると、しばらく経ってから返事が返ってきた。
「えーっと、どうすれば良いんでしょう?」
遥は目の前のコーラのボトルとにらめっこをしている。
本人もよく分かっていないらしい。
そうこうしている間に、ピーッと甲高い音が鳴り、ヤカンの湯が沸いた。
カップ麺にお湯を注いで、蓋を閉めていると、昔の事を思い出した。
子供の頃に行った、祖母の家。
死んだ祖父の仏壇に、花や供え物、それに小さいお茶と水とご飯を並べていた。
幽霊が食べたり、飲んだりするのはこういう感じなのだろうか?
幽霊の飼い方なんて、ネットで検索しても出てはこないので、手探りで提案してみた。
「仏壇みたいに、小さい器に入れたらどうかな?ああいう、小さい湯飲みとかは無いけど。」
それを聞いた遥は、両手を合わせてピョコピョコと跳ねていた。
「きっとそれです!やってみましょう。陽介さん、お願いします!」
何か適当なものがないか台所を漁っていると、ショットグラスが出てきた。
お猪口でもあれば良かったが、コーラならむしろこっちの方が良いのかもしれない。
ショットグラスを机の上に置くと、コーラの蓋を捻る。
プシュっと炭酸が抜ける音がして、液面が少し泡立つ。
ゆっくりとグラスに注ぎ、遥へ差し出した。
「どうぞ。これで飲めるかな?」
遥はショットグラスを前に、またにらめっこをしていた。
私はそれを横目に、箸を片手にカップ麺の蓋を開ける。
麺を啜りながら、画面越しに眺めていると、遥はグラスに口を近づけたり、手に取ろうとあれこれ動いていた。
「どう?飲めた?美味しい?」
私は空になったカップ麺の容器を置くと、感想を聞いた。
遥は首を傾げながら答える。
「わからない、です。これが私のもので、飲んでるような気分にはなれるんですけど、味も匂いもしないし。」
少し間を空けて、遥は続けた。
「でも、コーラを飲みたかったことは叶った気がします。」
よくわからないが、本人が満足そうなら、それはそれで良いのだろうか。
死んだ祖父も、あの世でこんな気持ちなんだろうか。
そんな事を考えていると、腹も膨れて気が抜けたのか、急に睡魔が襲ってきた。
「そろそろ、眠たくなってきたから寝るよ。」
窓の外は、夜明けが近いのか、わずかに空が白み始めていた。
「おやすみ。また明日ね。」
そう言い、適当に食器を流し台に置いて、部屋の電気を消す。
点けたままのディスプレイが部屋の中を照らしていた。
ベッドで横になると、スピーカーごしに遥の声が聞こえる。
「おやすみなさい。」




