うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:49
絵里がバイトに出てからしばらく。
AIグラスを通して、気付いたことがいくつかあった。
一つは遥は思っていたより動いていること。
ディスプレイに映った姿しか見えないので、だいたいPCデスクの前辺りにいるのかと思っていたが、意外と部屋の中をウロウロしている。
しばらくiPadで何かをしているかと思えば、窓の方へ行って外を見たり、私が動いたらそれに付いてきたり。
ディスプレイ越しに見るのと、自分の目と同じ視点で見るのはやはりかなり違う。
思ったよりも近くにいてびっくりしたり、隣に居ると思っていたら離れていたりもする。
遥も生きている?のだから、当たり前ではあるのだが、画面の外ではなくこちら側にいることを実感した。
次に気付いたのは、遥はこちらを見ていること。
これも当たり前のことではあるが、私が動いたり、何かをするのに反応して視線がこちらに向いていた。
冷蔵庫に飲み物を取りにいったり、トイレに行ったりするとその動きを追ってこちらを見てくる。
PCで面白い動画を見て、笑っていたりすると気になるのか、私を見て、ディスプレイの中を覗いてきたりもする。
こうやって感じてみると不思議なもので、隣にいるのにいないかのように扱ってしまっていたことを申し訳ないと思いつつも、見られていたことが恥ずかしくなってくる。
遥は見られていると恥ずかしいと言っていたが、私自身もそれを実感していた。
そして、もう一つ。
ある意味、これは一番大事なことかもしれない。
今まではディスプレイやスマホの画面越しということもあって、アップで撮っていたとしても細かいディテールはわからなかった。
なんとなく雰囲気はわかっていたが、それはなんとなくであって勝手に補完したり、想像していた部分があった。
だが、AIグラスを手に入れて、近くではっきりと見えたことでわかったことがある。
遥はかわいい。
かわいいというか、どちらかというと美人と言った方が適当だろう。
目はぱっちりと大きく、そこだけ見ればかわいいという印象もあるが、鼻筋は綺麗に通っていて、顎は細くスッと先端に絞られている。
肌は幽霊だからしょうがないのか、赤みはなく青白く冷たい光を返すが、それはそれで静かな美しさを表している。
髪は長く、目元は少し隠れているが、真っすぐな黒髪は整えられていて、スラリとした身体はその印象を際立たせる。
そんな遥の顔に見惚れていると、遥が恥ずかしそうに言う。
「どうしたんですか陽介さん。そんなにじっと見られていると恥ずかしいのですが...。」
「いや、綺麗だなって。」
ふと、無意識に思っていたことを呟いた。
普段だったら、そんな歯が浮くような台詞は言えないのだが、不意に問いかけられて自然と口から出てしまっていた。
それを聞いた遥は、頬を抑えて下を向いて、目だけをこちらへ向けて返す。
「何を言うんですか陽介さん。その...。嬉しいですけど、褒めたって何も出ないですよ?」
照れ隠しに遥は続ける。
「私より絵里の方がかわいいじゃないですか。それに、姉は私より美人でしたし。」
確かに絵里はかわいい方だと思う。
遥とは違って、少し切れ長の目が特徴的で、それでいてふっくらとした頬がかわいらしく、いたずらっぽい表情は魅力的ではある。
ただ、それは一般的なレベルであって、女優かアイドルかというような遥ほどのものではない。
遥のお姉さんを見たことはないのだが、姉妹だし、遥が姉には勝てないと言うくらいだからものすごい美人なのだろう。
そんな話をしていると、夜はすっかり暮れていて、玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン。
時計を見ると日付が変わった0時ごろ。
バイトが終わった絵里が、今日もまた来たようで玄関を開いて招き入れる。
ふぅ、とため息を吐きながら、疲れた様子で入ってきた絵里は問いかけてきた。
「なんの話をしてたの?AIグラスはどう?」
さっきまでの流れを見てて、わざと言っているのではないかと思うような質問だった。
誤魔化してもよかったのだが、遥を褒めたい気持ちもあって素直に答える。
「遥が美人だなって。今までよく見えてなかったけど、こんなに綺麗だったのかって。」
私の言葉に、絵里は疲れた様子はどこへやら。食い気味に興奮して返す。
「そう!それ!昼間見た時に思ったけど、めっちゃ美人だよね!ほんと、羨ましいくらい。」
私だけでなく、絵里が褒める声も聞いて、遥はますます恥ずかしそうにもじもじとしていた。
「そうですかぁ?そんなに褒めてもらったことがなかったので、なんだか恥ずかしいです...。」
謙虚なことは美徳かもしれないが、へりくだり過ぎるのもそれは嫌味に聞こえる。
もしかしたら、姉の影響もあっていろいろと難しかったのかもしれない、なんて思っていると絵里が手をこちらに出していた。
「私にもAIグラス貸してよ。遥の顔をしっかり見たいし。」
そうして、AIグラスを掛けた絵里が遥を褒め殺していたりすると、こちらにも話が飛んできた。
「私もAIグラス欲しい。けど、高くて手が出ないし、私の分も買ってくれない?何でもするから。」
何でも?
そのワードに反応してしまうが、落ち着いて遥にも聞いてみる。
「もう一つ買っても良いかな?こうやって渡したりするのも面倒だし。」
問われた遥は喜んで答えた。
「もちろん!わざわざ聞いていただかなくても、陽介さんが決めてくださって良いんですよ?」
そうして、数日前に見た商品ページを開いて、購入手続きを進めて行った。
違うデザインのAIグラスが良いだとか、次の休みの日に間に合わないからお急ぎ便にしてほしいだとか、茶々が入りながら。
少し距離が近く感じられるようになった、三人の夜はまた今日も更けていった。




