うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:48
先輩と別れ、家に帰り着くとさっそくPCを起動する。
普段の自分の買い物だと、いろいろと比較したり、中古や代替品を考えたりするが、何を買うかは決まっているのでサクサクと進む。
お金が手に入って良いことは、物が手に入ることよりも、日頃の生活費を考えなくて良いことなのかもしれない。
そうして、カチカチとマウスをクリックしながら、購入手続きを進めていると遥が声を掛けてきた。
「何を買うんですか?iPad?」
私は手を止めて、遥の声に答える。
「そうそう、遥用に買ったのは間に合わせの中古だったから、お金はあるし買い替えようかなって。」
それを聞いた遥は、今のiPadの方を見て首を傾げる。
「まだ、壊れてないし、ちゃんと使えますよ。Siriさんとも仲良くなってきてたのに。」
私みたいな貧乏性とは違って、単純に物持ちが良いんだろう。
Siriのことを気にするのは、遥らしくて笑ってしまう。
「先輩に相談してたんだけど、せっかくお金があるんだったら環境を良くした方がいいかなって。そのSiriも新しいのだとパワーアップしてるみたいだよ。」
それを聞いた遥は、今のiPadとディスプレイの中に移る新しいものを、交互に見ながら考え込んでいた。
「Siriさんがパワーアップは...すごく気になります。でも、今のiPadとSiriさんは...。」
どうやら、遥はiPadに愛着が湧いてきていたのか、今のものをどうするかが気がかりなようだった。
「今のは遥のお下がりで私が使おうかな。まだ、買ったばかりだし、捨てたり売ったりはしないよ。」
それを聞いて安心したのか、遥は興味津々でディスプレイの中を覗き込んでいた。
iPadの購入手続きを終えると、今度はAIグラスを検索する。
これはいくつか候補があったが、先輩に教えてもらったものでいいだろう。
そして、商品ページを進んでいくと、また遥が話しかけてくる。
「今度のはなんですか?サングラス?AI?」
さっき居酒屋で話していたときの、私自身の反応のようで面白い。
知らないとなんだかわからないのは当然なので、別のタブを開いて紹介動画を見せていく。
「サングラスにカメラとAIの機能が付いてて、直接見えてるものと、カメラで撮ったものを合成して、いろんな情報を出してくれるんだよ。」
私の説明と動画を見ながら、遥は驚いていた。
「えっ!?なんですかこれ。未来の道具?子供の頃に見たSF映画の道具みたい。」
それは私もそう思う。
何年か前まではこういうものはなかったので、その頃に見せられても合成映像だとしか思わなかっただろう。
だが、その機能はおまけであって、これを欲しいと思った理由ではない。
「これで見たら、自然に遥の姿を見れるんじゃないかなって。私も楽になるし、遥も自分が見られてるのがわかるから良いでしょ?」
そうやって説明すると、遥は興奮していた。
「すごく。すごく良いです!すぐ買いましょう。いくらするんですか?いつ届くんですか?」
それを今やってるんだと思いながら、iPadと同じ日に受け取れるように購入手続きを進めていった。
そして数日後。
休みの日の昼過ぎに届くように、どちらも時間指定をしていたので、家でゴロゴロしているとチャイムが鳴り商品が届く。
新しいiPadの初期設定をしていると、またチャイムが鳴り、AIグラスも届いた。
そうして、新しいSiriと遥が話しているのを聞きながら、AIグラスの説明書を読んだり初期設定をしていると、またチャイムが鳴った。
他に注文したものはないはずだが、と思いながらドアスコープを覗き込むと、そこには絵里の姿があった。
今日は私は休みだが、絵里はシフトが入っていたはず。
仕事後に泊まりで遊びに来ることはあっても、仕事前に来ることはないので、何か忘れ物でも取りに寄ったんだろうか。
鍵を開けて招き入れると、絵里が言う。
「遥から聞いたんだけど、iPadとAIグラス買ったんでしょ?なんで教えてくれないのよ。」
私から絵里に伝えてなかったことが不満だったようで。
だが、明日は絵里が休みなので、どうせ夜になったら来る予定だったんだし、別に先に伝えて置く必要もなかったのではと反論してみたが。
「ずるいじゃん。大事なことなんだから、ちゃんと教えておいてよ。」
絵里はズカズカと室内に入っていくと、適当に荷物を置いてベッドに腰かける。
遥と挨拶したりしながら、室内を見回していた。
「どこ?AIグラス。これ?」
指差した先には、半分箱に入って充電器に繋がれたAIグラスがあった。
「そうそう。これで、今初期設定をしてて...。」
手に取り、説明をしていると横から絵里にひったくられる。
「おー!思ってたより、だいぶ軽いしおしゃれじゃん。これ、もう使えるの?」
細かい設定は出来ていないが、最低限の初期設定は終わっている。
「たぶん、使えると思うけど。」
私がそう答えると、絵里はさっそくAIグラスを身につける。
あぁ、私も楽しみだったのに。
譲れない気持ちもあったが、子供のように取り合いをしてもしょうがないので、しぶしぶ使い方を教えた。
「おぉ!すごい!見える見える。遥ー、手振ってー。あっ、すごいすごい。めっちゃいいじゃん、遥かわいい。」
絵里の視点が見られないのが恨めしい。
私の視点からだと、絵里が虚空に手を振りながら喜んでいるのと、ディスプレイの中で小さく映る遥の姿が見えているだけで。
少し落ち着いたところで、私は絵里に言う。
「返してよ。俺もまだ見てないのに。」
絵里はそれなりに満足したのか、謝りながらAIグラスを外す。
「ごめんごめん。でも、これすごいよ。普通にそこにいるように見えるし。」
最初に見たかったのにという不満と、絵里のリアクションに期待をしながら、私もAIグラスを掛けてみた。
顔を上げると、思っていたよりも近くに遥が"いた"。
画面越しだとわからなかったが、こんなに近くにいたのか。
私が静かに感心していると、遥は恥ずかしそうにもじもじとしていた。
「なんだか、見られていると思うと恥ずかしいですね。今までと何かが変わったわけではないんですけど。」
六畳一間の安アパートなので、絵里がいる距離と同じところに遥もいたわけなのだが、こうやって見ると印象が全く違う。
ディスプレイに映る姿を確認しながら、隣を通っていたが、かなりギリギリをすれ違っていたんだろう。
試しに近づいてみたり、離れたりしていると、また遥は恥ずかしそうにしていた。
そこからはまた絵里にAIグラスを渡したり、たわいもない話をしていると、日が落ちてきて絵里はバイトへと出かけていった。
絵里がいなくなった後、部屋の中を見回すと、すぐ近くに遥が"いる"。
私が遥の方を見ると、遥もこちらを見て来て目が合う。
当たり前じゃなかった、当たり前のことに喜んでいると、日はまた暮れていった。




