うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:46
そしてまた、仕事が終わるとその足で絵里が私の家へ来る。
昨日も泊まっていたし、最近は週2~3くらいでうちに来ているような。
元々、自分の物が少ないのもあって寂しい部屋だったのだが、気付けば買った覚えがない小さな観葉植物やディフューザーが置かれたりしていて。
自分の部屋が知らないところで変わっていっていることに、なんだか複雑な思いを感じていた。
仕事帰りにいっしょにコンビニに寄って、家へ着いて玄関を開けると、私を玄関に置いて絵里は部屋の中へと駆けていく。
「遥!大丈夫?」
絵里が急いで問いかけると、遥は穏やかな様子で返した。
「ごめんなさい絵里、心配を掛けてしまって。でも、陽介さんと話して落ち着きましたし大丈夫ですよ。」
それを聞いた絵里は続けて問う。
「なら良かった。でも、どうせ陽介でしょ?うんうんってただ聞いてただけじゃないの?」
聞こえている目の前で、失礼なことを言われていた。
その想定は否定しないが、ただと言われるのは心外でもある。
「そうですね。陽介さんは私の話をしっかり聞いてくれました。それに、私が落ち着くまでは声を掛け続けてくれたんですよ?」
遥は少し笑いながらフォローするようにそう言うと、絵里は何も言わずにこちらへ視線を向ける。
見られても何も出ないのだが、と思っていると絵里はまた遥と話していった。
遥と絵里が話している時は、私は半分以上は蚊帳の外で黙ってその会話を聞いている。
絵里は今日は遥を励ましに来たんだろうと思いながら聞いていると、どうやら今から配信をするらしい。
昨日のトラブルを払拭するために、コラボで健在をアピールするのだとか。
こういうところは絵里は偉いと思う。
オンオフがはっきりしていて、やらないといけないことや求められていることにはプロ意識が高い。
接客で苛立ってしまうようなところでも、澄まして自然とあしらうし、忙しい時にサボったりすることもない。
その分、厨房へ料理を取りに来るときは、鬼の形相だったりする時もあるのだが。
そうして配信が始まったが、昨日のことは何事もなかったように流しながらも、合間合間でトラブルについて軽く弄ったりと、絵里が適度に消化していく。
こういうところも上手く、絵里自身の配信が評価されないのが不思議なくらいで。
少し心配していたものの、配信は順調で昨日にも増して視聴者数も増えていく。
しばらく配信が進んでいって、二人の話も落ち着いてくるが、そんな時に流れたコメント欄に部屋が凍り付く。
システム:俊輔 さんが入室しました。
私はその文字を見つけると、昨夜のことを思い出して何ができるわけではないが身構えた。
遥は大丈夫だろうか。
絵里にその名前まで伝えていただろうか。
そんなことをわずかな時間で巡らせていると、絵里がコメントを捌いていく。
わずかに。
普段の遥の反応を知らなければわからないくらいだったが、わずかに遅れて遥もコメントに反応を返していく。
自分が配信しているわけでもないのに、ドキドキしながらその様子を眺めていたが、特に問題は起こらず配信は終わっていった。
絵里が配信終了のボタンを押すのが見えると、私はすぐに声を掛けた。
「遥、大丈夫?」
絵里も隣でそれを聞いて、何かを感じたのか黙って遥の反応を待つ。
「はい...。大丈夫です。私ひとりだったらわからなかったですが、二人がいてくれたので落ち着いていられました。」
遥は一息吐いて、そう答えた。
まだ完全に心の整理がついたわけでもないのだろう。
遥の言葉や、少し違った様子にその心情を考えていると、絵里がこっちを見てくる。
その目は不満と何かの許可を訴えていた。
どう答えたものかと考えていたが、その沈黙を肯定と受け取ったのか、絵里は遥へ質問をしていった。
そして、昨日の遥の独白の再現が始まる。
私は昨日同じ話を聞いていたので、そんなにショックを受けなかったが、絵里は違ったようで号泣しながら聞いていた。
感受性の違いなのか、私が薄情なだけなのか。
遥の話を聞いた時に何も思わなかった、感じなかったわけではない。
むしろ、人生の中で一番と言ってもいいほどの衝撃ではあった。
だが、絵里のように受け止められただろうか。
自身の中で何かが起こるのを感じながら、遥の語りと絵里の嗚咽を聞いていた。
ひとしきり、遥の話が終わると空は昨日のように白み始めていて。
また、昨日のように遥が就寝を促してくる。
「うん...。」
絵里がそう返すと、私も眠気を感じてきて、絵里を宥めながらベッドへと入った。
仕事や配信で見せる気丈な様子とは違って、絵里は布団の中で私へ縋りついていた。
自然とその背に手を伸ばしていたが、絵里はさらに身を寄せてくる。
いろんな情緒が混沌としていたが、その背と頭を抱えながら私は少し身体を引いていた。
そんな様子に気付いたのか、絵里は囁くように小さく呟いた。
「ごめんね陽介。また、そういう時に。」
そうして、私の意識は睡魔には勝てずに遠のいていった。




