うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:44
私は遥の話に聞き入っていた。
辛い過去のはずなのに、それは壊れやすいガラス細工のような、大切な記憶のように聞こえて。
遥がそこまで話し終わったところで、私の目からは涙が流れていた。
共感でも同情でもないのかもしれない。
何に泣いているのか自分でもわからなかったが、涙が止まらなかった。
「ごめんなさい陽介さん。変な話を聞かせてしまって。」
遥は申し訳なさそうに言う。
私は首を振って、涙を拭っていると遥は続けた。
「でも、もう少し聞いてください。今の私にはここからの方が大事な話なんです。」
私が静かに頷くと、遥はまた語り出した。
「その後、気付いたのは私の部屋でした。」
「家具も荷物もなくなった空っぽの部屋で、窓の外には同じような夕日が浮かんでいました。」
「姉や両親には悪いことをしてしまいました。私が自殺した家には住めなかったのでしょう。」
「そこからしばらくは、何をしていいかわからずうろうろしていました。」
「だんだんと、自分が死んで幽霊になったことを理解してきて、姉や両親を探そうと辺りを探したりしていたのですが、それは見つかりませんでした。」
「今思えば、姉の大学や、父の職場はわかっているんですから、そこに行けばよかったんですけどね。」
「そこからはいろんなものを触ろうとしたり、いろいろな人に話しかけたりしていましたが、上手くはいきませんでした。」
「そんな時、道を歩いていると、ある人を見つけました。」
「その人は、野良猫を撫でてエサをあげていて、少し興味が湧きました。」
「私は猫が好きなので、それは少し羨ましく思えて。」
「どんな人なんだろうと、付いていったら今度は横断歩道でおばあさんが渡るのを助けてあげていました。すごく良い人だなって。」
「それで、気になって家まで付いていってしまったんです。」
少しトーンが変わった遥の話に、私の涙は止まっていた。
だが、それと同時に疑問が浮かぶ。
そういえば、そんなこともあったようなと思い出していたが、あれはまだ夏ではなく春先くらいだったような。
そんなことを考えていると、遥は続きを語り出す。
「この人に気付いてほしい、私を見て欲しいなって。」
「なかなかうまくいかなくて、頑張ってみたんですがしばらく気付いてもらえませんでした。」
「最初は全く物に触れたり、動かしたりできなかったのですが、そのうち頑張れば少しは触れられるようになっていました。すごく疲れますけど。」
「出来る限りで、物を動かしたりしてみたりしていたんですが、やっぱり気付いてもらえませんでした。」
「そんな時、しばしばビデオ通話していることがわかりました。このタイミングに合わせたらもしかしたらって。」
「そこからは、物を動かす練習をしたり、力を蓄えながら機会をうかがっていました。」
「そして、それは実りました。カメラに映って、自分の声が聞こえたのは少しびっくりしましたけど。」
思っていたよりも、前から遥はこの部屋にいたらしかった。
確かに最近、物が何故か違う場所にあったり、物音がしたり、変だなとは思っていたが遥の仕業だったのか。
疑問は解けたものの、自分の鈍感さに少し情けなくなる。
遥の話で、どうして遥が急に動揺したのかは察しがついたが、確認してもいいのだろうか。
思い悩んでいると、遥が言った。
「やっぱり、優しいですね陽介さん。もう落ち着いたので、私は大丈夫ですよ。」
そう言われ、なんだか恥ずかしい思いをしていると、遥が続ける。
「もうわかっていると思いますが、その生前の彼の名前が俊輔だったんです。たぶん、同じ名前の違う人なんだろうとは思ったのですが、急に昔のことを思い出してしまって。」
遥の中では、心の整理はついているようだった。
どちらかというと、私の方がまだ混乱していて、遥に掛ける言葉も思い浮かばない。
そんな話をしているうちに時間は過ぎており、窓の外では空が白み始めていた。
「あっ!もうこんな時間。陽介さんごめんなさい、私の話に付き合わせてしまって。今日もお仕事ですよね?」
時計を見ると、深夜を通り過ぎて早朝と言える時間になっていた。
意識していなかったが、そう言われると急に体が重くなり、睡魔が襲ってくる。
「ごめん遥。もう少し話していたいけど、そろそろ寝ようか。」
私がそう言うと、遥はほほえんで答えた。
「こちらこそ迷惑を掛けてしまってごめんなさい、陽介さん。そろそろ寝ましょうか。」
カーテンを閉め、電気を消して、ベッドに入ると遥は最後に、と言う。
「今、私は幸せですよ。陽介さんのおかげで。」




