うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:43
そこまで話すと、遥は口を止めて一息吐いた。
私は。
私は、遥のような環境にはいなかった。
大して努力もしていなかったし、期待もされていなかったし、結果も出してはいなかった。
自信があるような何かもなければ、そんな意欲もなかった。
ごくごく一般的な家庭で、流されるように生きてきて、その結果が今のフリーター生活になっていて。
頑張ったけれど、届かなかったことはあっただろうか。
たしかに部活やゲームをしていて、世間に認められるような結果を出したことはないが、一番になれるような努力はしていなかったと思う。
そんなことを考えていると、遥は続きを語っていく。
「私が、絵を描かなくなってからは、より勉学に取り組みました。」
「父と母がそうだったように、医学を目指してそれなりの結果は出ていました。」
「でも、姉は違いました。」
「姉は大学へ進学する時に、法学を選びました。」
「医学を極めて、新たな技術を生み出しても、それを受けられる環境がなければ意味がない。だから、それを成すための政治や行政を成したいと。」
「父と母は反対しました。コネと言っては語弊がありますが、父の力があれば将来は約束されていましたから。」
「ですが、姉は意志を貫き、父と母を説得して自身の思う道へと進んでいきました。」
「私は...。姉のようにはなれませんでした。」
「本音を言えば芸大に行きたかったのですが、大した実績もありませんでしたし、絵を描くのが怖くなっていました。」
「母が。私が進路希望で医学部を書いたことをよろこんでくれたことを覚えています。」
「でも、それは姉の代替品であって、私自身を見ていないようでした。」
「書類にサインをする以外は、特に話をすることもなく、卒業式や合格発表にも理由を付けて来てはくれませんでした。」
「姉はそんな中でも気に掛けてくれていましたが、以前にも増して忙しい生活を送っていて、姉妹での会話も減っていっていました。」
「姉に続いて、私も大学に入ってしばらくした頃、ある男性に出会いました。」
「姉ほどではありませんが、テニスはそれなりに嗜んでいたので、サークル活動の中で仲良くなっていきました。」
「なにか特別なものがあったわけではなかったのですが、講義で会うことも多く、何度か他の友人も含めて出かけたりしているうちに告白されました。」
「それは、とても嬉しかったです。」
「姉と比較され、姉の付属物として扱われてきましたが、私そのものを見てくれたんだと思いました。」
「交際は進んでいき、連絡を取ったり休日に出かけたりしていたのですが、ある日、外出先で姉と遭遇しました。」
「姉とは街中でたまたま会っただけだったのですが、彼は姉に話しかけ、私をダシに姉と連絡先を交換していました。」
「そこからは、彼との連絡の頻度は減り、いっしょに出かけることもなくなっていきました。」
「そうして、疎遠になっていった時に私は彼へ問い詰めました。交際を続けていくのか、どうするのかと。」
「私は彼の近頃の様子を見ていて、別れるものだと思っていたのですが、彼の返答は違いました。」
「姉との関係を築けていないので、もう少し続けたいと。」
「何を言っているのかわかりませんでした。」
「理由を問うと、元々姉を狙っていたが接点がなかった。姉妹で似ていたし、姉に接触できるかと思い、しかたなく、私に声を掛けたと。」
「今思えば、聞くべきではなかったのかもしれません。」
「私は。それを聞いて、何も言わずにその場を離れていました。」
「その後は何をしたかはあまり覚えていません。」
「ですが、最後の光景は覚えています。」
「私の部屋で、自分の拙い絵を見て、彼の写真を眺めて、窓の外は橙色に、照らされていました。」




