うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:42
自殺...。
何故、遥が幽霊になったのか考えたことがなかったわけではない。
怪談で言われるような話だと、いろんな話があるものの、共通するのはこの世に未練があって成仏ができないと。
仮に遥がそれと同じなのであれば、何か叶えたいことが、やり残したことがあるのだろう。
例えば、コーラを飲んでみたいとか、ちょっとした願いは叶えてあげている気はするが、その程度でこの世に残りたいと思えるほどの力にはなりそうにもない。
自ら命を絶ち、だが未練はある。
矛盾するような思いに至ったのは、何があったのだろうか。
私が考えても、もちろん答えが出るようなものでもない。
遥は、生前の出来事、想いを静かに語りだした。
「私には姉がいました。すばらしく優秀な姉で、私や両親、親族にとっても自慢の姉でした。」
「何をやっても一番で、勉強やスポーツはもちろん、絵を描かせても楽器を弾かせても天才的ですし、生徒会や弁論などでも全てで一番になっていました。」
「ただ生まれ持った才能に恵まれていただけではなく、どんな分野でも人一倍努力をしていました。」
「いろんなことにわずかな時間も惜しんで取り組んでいた姉でしたから、私は迷惑を掛けないようにしていたのですが、ある時、勉強を見てもらうことがありました。」
「私に教えるために、姉は使い古した参考書を何冊か持ってきました。ページの角はところどころ折られ、付箋が貼られ、余白には注釈やメモがびっしりと書き込まれていました。」
「その時、とてもびっくりしたことを覚えています。」
「家で姉が勉強をしているところはあまり見たことがありませんでした。いつ、どこでこんなに勉強していたのか。それも驚きでしたが、それよりも自分が努力していると思っていたことが、姉の足元にも及んでいなかったことに対してです。」
「人並みと比べれば努力していた方だとは思うのですが、それからは姉に負けじとさらに頑張っていました。」
「元々勉学の成績は良かったのですが、それ以降は学年で一番になったことがあったり、模試の順位もどんどん上がっていったことを覚えています。」
「姉はそんな私のことをとても褒めてくれていました。」
「時には忙しい合間に時間を作って、私のためにテストで良い点を取った祝いだと、手製のチーズケーキを焼いてくれたこともありました。」
「ですが、両親はそれを快くは思っていませんでした。」
「両親は二人とも医学博士で、父は教授として研究室を持ち、教鞭を振るっていました。母は姉の出産で研究からは退いたそうなのですが、たまに父の仕事を手伝っていたそうです。」
「両親は出来の良い姉を溺愛していました。姉はわがままを言う方ではなかったのですが、欲しいというものは全て買い与え、やりたいということは全て姉のしたいようにさせていました。」
「そんな姉が私のために時間を割くのをもったいないと。無駄だと言われていました。」
「姉が自室で夜遅くまで何かの勉強や練習をしていても何も言わないのに、少し遅い時間に姉と話していると、すぐに引き離されて寝るように言われたり。」
「私は小さいころから、風景画を描くのが好きで暇があれば筆を走らせていました。それなりに自信はあって、いくつかのコンクールで賞をもらったこともあります。」
「ですが、画材が欲しいと言っても、誕生日に小さなセットを買ってもらえるくらい。展覧会を見に行きたいと言っても連れていってもらえず、わずかな小遣いをやりくりしていたことを覚えています。」
「もちろん、そんな両親のことですから、私の扱いは姉に比べるとぞんざいでした。」
「まだ中学生だった頃、朝、目が覚めた時には家に誰もいませんでした。しょうがないので、家にあったもので空腹を凌いでいたのですが、夜遅くに姉と両親が帰ってきて、母から何故勝手に食べたのかと叱られました。明日、使うはずの食材だったのにと。」
「私は姉に負けないくらい結果を出せば、きっと認めてもらえるんだろうと頑張っていました。」
「でも、姉は私がいくら努力しても届かない。頑張って追い付こうとしても、さらに引き離されていく。」
「ある時、姉が絵を描きたいと言いました。発表会に行った時の、山に沈む夕日が美しく忘れられないと。」
「私は姉のことは好きだったので、全力で協力しました。持っていた筆や画材などの道具を貸したり、画集を見せたり、様々な画法や表現を教えたり。」
「この時は嬉しかったです。なんでも姉の方が優れていると思っていましたが、姉ができないことができて、姉が知らないことを知っていて、姉が持っていないものを持っていて。」
「姉は努力家ですから、ただそれだけではなく、何度も何度もデッサンを描き直し色を塗り直し、それでも足りず画材や画集を集め、絵を描き上げていきました。」
「それから三ヶ月が過ぎ、姉の絵は大きなコンクールで優秀賞を取りました。学生向けとしては登竜門とも言われる、最も大きなコンクールで。」
「姉の絵は素晴らしかったです。才能やセンスはもちろんですが、構図の取り方から精緻な描きこみ、古今東西の作品を学んだことがわかる技法が自然に随所に散りばめられ、ただ上手いだけの絵ではありませんでした。」
「その絵に感動し、姉がそれを描いたことは誇らしかったですが、それに比べて私の絵はみすぼらしく粗末な出来でした。」
「小さい頃からずっと描き続けて、姉より優れていると思っていたものはたった三ヶ月で追い抜かれてしまいました。」
「私は、筆を折りました。」




