うちに住み着いた幽霊が、人気配信者になってチャンネル登録者100万人???:41
今日も遥の配信を始めると、どんどんと視聴者が増えていく。
心霊写真がバズってから、しばらくすると落ち着くのかと思っていたが、フォロワーも視聴者も日に日に増えていっていた。
やらせている本人が言うようなことではないが、特別に面白いことを言っているわけでも、変わった企画をやっているわけでもないのに、見に来ている人たちは何を楽しみに来てくれているんだろうか?
まぁ、遥の声は声優というよりウグイス嬢のような、良く通る綺麗な声で聞き心地が良い。
落ち着いた、育ちの良さを感じさせる語りと、時折見せる少し天然なところは、深夜に聞くのにちょうど良いのかもしれない。
他の人の配信もいくつか見てみたが、やたらとうるさかったり、ネタなのかもしれないがやさぐれた底辺アピールだったり。
それらと比べると、遥の配信の方が...。あれ?
カメラに写り込まないようにコメント欄を見ていると、初見も多いが、継続して見に来てくれている人も多い。
特に配信を始めたばかりの時に来てくれた、群馬からの入国者さんはほぼ毎日来てくれている。
ただ、異動で勤務地が地元の群馬に戻ったらしく、もう入国者ではないと嘆いていたが。
他にも、何人か毎日のように来てくれる人たちがいて、配信を始めてもしばらくだれも来ない、なんてことはなくなっていた。
そうして配信が進んでいくと、コメントやスターが飛び交い、初見も次々と入ってくる。
流れが速いので全てのコメントには答えられないが、初見やスターは律儀に拾っていっていた。
「たんぽぽさん、スターありがとうございます。これ、期間限定のやつですか?綺麗ですね。」
「赤巻紙青巻紙黄巻紙さんいらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ。今日はちゃんと噛まずに言えましたからね?」
「たくさん来られたので、まとめてでごめんなさい。白梅たまきさん、蒼翠さん、8192さん、ノンアルレモンサワーさんはじめまして、黄泉乃ヒカリです。みなさんは今日はどんな一日でしたか?私は今日お出かけしたので、その話をしていたところです。ゆっくり聞いていっていただけるとうれしいです。」
気付けば配信を始めてから50分が経っていて、今日の配信もあと少し。
お出かけで買い物やレストランの話をしたからか、いつもより多くのスターが飛んでいた。
もしかしたら、昼間に払った分よりも、この配信一回で貰っている分の方が多いかもしれない。
バイト何日分だろうかと皮算用をしていると、遅い時間でも視聴者は次々と入ってくる。
システム:俊輔 さんが入室しました。(初めて)
フォロワーも増えてきたけど、やっぱり初見の方が多いなぁなんて眺めていると、遥の声が止まった。
珍しいな、どうしたんだろう?何か変なコメントでもあったのかと思っていると。
「あ...。あぁ...。ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーーー!」
ノイズ混じりのつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
「嫌っ!イヤッ!ダメ...。」
明らかに様子がおかしい。
配信を止めた方が良さそうだが、私が声を出すわけにもいかない。
いきなり止めてしまっても良いのか?
ひとまず、急いでキーボードを叩いて様子を窺おうとしたが、遥は錯乱して気付いていない。
そうしている間にも配信には遥の悲鳴が流れている。
このままではいけない。とりあえず止めるしかない。
そう思い、配信画面の方に目をやると、
群馬からの入国者:どうしたのヒカリちゃん?大丈夫?ゴキブリでも出た?
そのコメントを見て、すぐに配信終了のボタンを押した。
既に事故と言えば事故なのだが、そういう言い訳にしておけば多少マシだろう。
配信が止まったのを確認すると、遥に声を掛ける。
「遥?遥?どうしたの?大丈夫?」
だが、返事はなく、遥は頭を抱えながらうめき声を上げている。
人間だったら背中でもさすりたいところだが、遥には触れられない。
もどかしい思いをしながら、何度も声を掛け続けた。
「遥、落ち着いて。大丈夫、ゆっくりでいいから。」
しばらく続けていると、少しずつ遥の動きは治まってきて、声も聞こえなくなっていた。
少しは落ちついたのだろうか?
だが、今度は下を向いて固まったまま動かない。
良いのか悪いのか、どうして良いか分からず、そんな遥の様子を見ていることしかできない。
そうしている間に、配信を見ていたのか私の携帯や遥のタブレットに絵里からのLINEやメッセージの通知が積まれていっていた。
とりあえず、返信しておこうかと思っていると、ようやく遥が口を開く。
「...ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
遥は泣きながら何かを謝り続けている。
でも、わからない。
どうして急に。
昼間も配信でも変な様子はなかったし、何があったんだろうか。
「大丈夫、遥。謝らなくていいよ。無理しなくていいからね。」
そう声を掛けたものの、大丈夫なのだろうか?
いっしょに暮らしてはいるものの、遥のことをほとんど知らない。
何かきっかけになるようなことがないかと考えてみても、ヒントになりそうなことは何も思い出せない。
絵里に"とりあえず大丈夫、また連絡する。"と短く返し、遥の様子を眺めていると、遥が語り出した。
「ごめんなさい、陽介さん。びっくりさせてしまって。少し落ち着きました。」
まだ声に違和感はあったが、喋れるくらいの状態には戻ったらしい。
私も遥の様子に動揺していたので、その言葉に胸をなで下ろす。
「良かった。びっくりしちゃったけど、大丈夫だから。ゆっくりで良いよ。」
そう言うと、遥は口ごもりながらも言葉を紡いでいく。
「ありがとうございます。ご迷惑をかけてしまいました。もう、忘れたつもりだったんですけど...。」
私が頷きながら聞いていると、遥は続ける。
「陽介さんには、話しておかないと...。知って貰わないと、いけないんだと思うんです。」
「私が...。私が、どうして自殺したのか。」




